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異世界の伝導シリーズPart.70:208代導師様  作者: ににん(ni-ning)
2章:導師様とアイドルの出会い
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2-3:導師様と異世界アニメ

 それは今より2年前のある日のこと


 いつもと変わらぬ導師業務を淡々とこなす日々。

 その日は午後から導狂大学で行われる全国大学対抗研究発表会へ道狂大学名誉学長として出席するため、大学内の会場の講堂に繋がる廊下を4人の導師SP、略してDCSPに囲まれながら歩いている時のことだった。すると、向こうの方から一人の若者が、2名の警察官達に後ろから追いかけられながら、わたし達のいる方に向かって走ってきた。するとすぐさま、わたしの周囲を囲むDCSPが若者の武装の有無を確認後、緊急警戒隊形Dを展開した。2人がわたしの前後を守り、1人は学生の足めがけてタックルし、最後の1人が転がった学生の腕を取り押さえた。DCSPにタックルされた瞬間、学生が手に抱えていた段ボール箱から大量の資料が床にばら撒かれた。そしてすぐに警官達が遅れてわれわれの方までやってきた。


 わたしは、何気なく学生を追いかけていた警官の一人を見た。


「はえっ? 導師様!」

 その警官は業務に夢中で、今までわたしの姿に気づかなかったらしく、突然の導師の出現に、ものすごく驚いている様子だった。

 しかし、少しして落ち着きを取り戻すと、直立不動の姿勢で、


「いえ、この逃げた男。ここ導狂大学の学生なのですが、我が導師国幹部の子息でありながら、我が導師国の検閲を通っていない日本のアニメに関するグッズを大量に所持しているとの通報が、大学当局から伝えられ、本日大学までこの男の尋問に伺った所、突然逃げ出しましたので、それを追っていた所でありました。まさか大学構内に導師様がいらっしゃるとは夢にも思いませんでした。もしこの男が凶器を所持していたら、導師様の御身にも危害が及ぶ可能性がありました。それを想像するだけでも、私は何という許されぬ罪を犯してしまったのでしょう。私はどのような処分も甘んじて受け入る所存であります。」

 と、その警官が述べると、横にいたもう一人の警官も、


「私も同様であります。」

 と言って、二人は同時に深く頭を下げた。

 すると、警官達の前にすっと立ち、


「構わぬ。君たちは職務を忠実に実行したに過ぎぬ。」

 と、わたしの前にいたDCSPの一人が言うと、


「私達は導師様の手足の一部であるが、君達国民一人一人の手足の一部でもある。私達が君達の職務のお役に立てたのなら、これ以上うれしいことはない。何か困ったことがあるなら、いつでも我々を頼ってほしい。」

 と、続けてわたしの後ろにいたDCSPの一人がわたしの前に出て、そう言った。


「ああ偉大なる導師様! ありがとうございます!」

 すると、警官達が感動のあまり、号泣し始めた。


 わたしは、DCSPと警官達の一連のやりとりを無関心に眺めていたが、その後、何気なく床に散らばっている大量のグッズの方に目を落とした。それは警官の言う通り日本のアニメに関するグッズのようだった。

 そして床に落ちている大量のグッズの中から、適当に一枚の写真を拾い上げ、一見すると、


「なるほど。」

 と、ぼそっと独り言を言うと、その写真を不意に自分のコートのポケットにしまい込んだ。


 ただ、それだけのことだった。


 それでは、ここでこの異世界について、少し補足しましょう。

 ここは現実の世界と非常によく似ていますが、異世界、全く異なる世界となります。

 導師国という国は、現実世界には存在しない、モデルとなった国家もない、この異世界にのみ存在する国家となります。そして、異世界の中の日本は、現実世界の日本ととてもよく似ていますが、まったく別の国です。

 そしてアニメ。これがこの異世界と現実世界とで大きく違っているポイントとなります。異世界のアニメは、現実世界のアニメとは違ってアニメ=実写の世界なので、基本的にアニメの登場人物がリアルの世界にも存在したりします。異世界では、アニメの世界も現実の一部なのです。アニメ=実写映画という言い方の方が近いかもしれません。そして、異世界にありがちな超能力というものはあるのかないのか、ということですが、あるとだけ言っておきましょう。


 導師国では、基本的にアニメ産業の輸入は規制されている。

 それは導師国の教えと大きく乖離した内容のアニメが放送されることにより、国内が混乱することを未然に防ぐためという理由からだ。そのため、わが国内で輸入アニメを放映するためには、わが国の「導師国輸入アニメ振興ラクエン協会」、略して「DASRAK」の審査を受け合格する必要がある。そして、わが国の輸入アニメの中で、最も多く輸入され、人気があるのは、実は圧倒的に日本のアニメである。しかしながら、審査を受ける前の検閲段階で不合格となる作品が圧倒的に多いのも、実は日本のアニメなのである。理由は先ほど言った通り、単純に導師国の教えから大きく逸脱した内容のアニメが多いからである。

 なぜなら、日本のアニメでは、作中で苦肉の策を講じるまでもなく、些細な理由からすぐに味方を裏切る者が登場することが多いという。

 なおかつ敵国の人間は、この裏切り者を裁判にもかけず、すぐに味方として受け入れてしまう。簡単に裏切った人間でも、我々の仲間になったのだから疑わず信じよう、というような教義は問題ありだろう。しかもその裏切り者が、私が間違えていたとかいう簡単な理由で元いた仲間の所にまた帰ってきたりするというのだ。しかも、ごめんなさいと言えば許してもらえると本気で思っているそうである。これが戦争ならば、絶対に服の中に大量の爆薬を仕込んでいると疑われるはずだ。普通ならば、そのような信用できない人間は、こちらに近づいてきた瞬間に銃殺されることになるだろう。

 また民間人を大量に虐殺したり、あまつさえ味方の人間さえ自分が気に入らないという個人的な理由で殺したような殺人鬼が、自分が死ぬ最後の瞬間にたった一人の子供の命を救っただけで、誰よりも愛を知る人間だったなどと称えられたり、物語を通して、親兄弟、親類縁者、その他周りの人間が大量に亡くなって、最後に主人公とその友人数人だけしか生き残れなかったという悲惨な状況下におかれているのにもかかわらず、よかったねとなぜかハッピーエンドな雰囲気になるという展開のものもあるという。

 その他登場人物の個性を言うと、男性の場合、お前を愛していると常に言いながら、実は相手のことを全く信用していなかったり、やたら社会のルールから積極的にはみ出そうとする者や、女性の場合、胸を強調したものすごく際どい衣装を身にまとい、作中では何度もパンツを見せているような人物が大人気だというのだ。これらは特殊な例だと思われるかもしれないが、実はDASRAKの審査を受ける前段階の検閲で、日本のアニメが不合格になる一番の理由がこれなのだと言う。

 まあいかに寛大なわが国でも、社会のルールは破るためにあるとか、女性は日常的にパンツを見せた方がよい、と言う考えが一般認識として広まってしまっては、文化的崩壊を招いてしまう危険性がある。何もかもが自由として許される文化が、時として不幸な結末を迎える可能性があることを証明している、これは悪しきモデルケースの一つと言えよう。

 ただし、これらはあくまで導師調べというもので、本来のDASRAK基準と合致しているかは保証しない。


 わたし個人で言えば、アニメというものは幼年の頃以来観たという記憶がない。物心がついた頃より、常に多忙で自分の時間がもてなかったというのもあるが、特にみる必要性を感じなかったのが一番の理由であろう。


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