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1-3:導師様感謝祭に向かう

「それにしても、導師ノリノリ音頭保存会の連中、導師様のご尊顔を一目見るや否や、感動のあまりか、一斉に「うおっほー! うえいー!」と意味不明な叫び声を発すると同時に、どこかアフリカの奥地にいる未開の部族が成人式ででも披露するような1mを越えるような垂直ジャンプを披露し始めたと思ったら、導師様との引見が終了するまでの10分間ずっとあの調子でございましたな。まあ導師様への引見という積年の夢が叶って興奮するその気持ち、わたくしにも十分理解できますが、いみじくも導師様のご面前であられる、もう少し自制してほしかったものでございます。」


「うむ。」


 現在は午前0時を少し過ぎた辺り、導師記念会館で実施されたわたしとの面会を希望する全ての団体との引見が終了し、今は本日(と言っても日付は変わっているが、)最後の執務である、わが導師国の人気歌手達が一堂に集結した「導師様観覧スペシャル感謝祭」というイベントが行われる舞導館に移動中の車内である。わたしは、そのイベントに特別観覧ゲストとして招かれているのだ。

 車内では相変わらず、侍従長による独演会が開催中であった。


(それにしても導師ノリノリ音頭とは一体何なのだ? 聞いたことがないぞ。昔からある伝統音頭なのか? 先ほどわたしの眼前で披露されたが、やはり見たことがなかった。音頭とかいうわりに、ずっと垂直飛びをしていたが、あれが導師ノリノリ音頭なのだろうか? 縦ノリなのか? それとも興奮と緊張のあまり肝心の音頭を踊ることができず、ずっと飛んでいたのか? すべてが謎だった。)


「それにあのスクスクラブの関東支部の支部長とかいう男。わたくしに負けず劣らずの、かなりの導師愛好家らしく、伝説の導師シリーズは第1シリーズの頃から注目していて、その頃から集めているのだとか言っておりましたな。なんとあの伝説の初代導師様のフィギュアを所持しているのだとか。このわたくしでさえ持っていないというのに。なんとうらやましいことでしょうか。それに39代目導師様以外は、全ての導師様を所持しているとか言っておりましたな。なんという強者でしょうか。」


「うむ。」

(それにしても、どいつもこいつもなぜ39代目だけ持っていないのだ? 39代目導師のフィギュアは本当に存在するのか? もしくは39代目は在位時に何かやらかしてしまって、フィギュア化できない特殊な事情でもあるのだろうか? それとも製造上の理由で実際には生産されなかったのか? 13シリーズに、そもそも39代目のフィギュアが入っていたのかどうかさえ疑わしいな。)


「ぎざみちゃんねぎらいの会の者共、導師様との引見中はずっと導師様に、いかにぎざみちゃんが素晴らしいか、導師様にもわかってもらいたいと、延々とぎざみちゃんの説明をしておりましたな。なんともぎざみちゃんというのは、うさぎのぎざ耳をもった美少女Vチューバ―なるもので、最近我が国内で人気沸騰中なのだとか。不敬にも、導師様にもぜひチャンネル登録と高評価をお願いしますとか申しておりましたな。導師様ももちろん尊いが、ぎざみちゃんには導師様と違う種類の尊さがあるとか。わたくしにもなぜそんな者が人気なのかさっぱりわかりませんでしたぞ。」


「うむ。」

(安心しろ、侍従長よ。わたしも全くわからなかったぞ。)


「最後に引見した西涼の雄韓遂をあがめる会の者ども。西涼の雄と言えばそもそも韓遂ではなく、馬玩でしょうに。」


「うむ。」

(いや馬玩ではなく馬騰だろう。せめて間違えるなら馬超にしてくれ。)


 それにしても、この男。わたしは今日朝からずっと執務漬けで疲れているのだから、せめて車の中では少しでも仮眠させてあげようとか、ゆっくり休ませてあげようだとか、そのように少しでも気をつかってくれるとありがたいのだが。さっきから、しきりにわたしにしゃべりかけてくるのだ。


 さて、ここで導師であるわたしが、国民より一体どのように呼ばれているのか少し紹介しよう。

 ここ導師国は、説明したように、導師と呼ばれた初代が建国した国である。そして初代の遠い子孫であるわたしも導師を継承しているので、単純に「導師様」と呼ばれることが一般的である。そして、それに「偉大なる」とか「我が」をつけて、「偉大なる導師様」とか「我が導師様」と呼ばれることも多い。また国民一人一人がわたしに抱くイメージによって、導師様ではなく、「先生」とか「兄弟」とか「恋人」とか、それ以外にも様々なバリエーションで呼ばれることがある。

 そして中には、導師自身がそう呼ぶことを許可したもの、限られたものだけしか呼ぶことが許されない特別な呼称も存在する。


「神により選ばれし、崇高なる者」という呼称である。


 導師にとって命の恩人であるとか、生涯の親友であると認めた、特別な絆を持つ人間に対してのみ、導師自身がそう呼ぶように命じるのだ。 

 わたしには、そのような特別な関係性のある人間はいないので、当然のことながら、今までこの呼称を呼ぶことを許した者はいない。

 唯一、この侍従長に対しては別に許可しても構わないのだが、もしこの呼称を呼ぶことを許してしまったら、うれしさのあまりショック死してしまう可能性があるため、今の所、許可はしないでおいてある。


 それにしても、今も侍従長の独演会が続いている。


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