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5-7:導師様の異世界ファンタジー

 翌朝A市のホテルをチェックアウトし、現在は深夜をとうに過ぎている。


 ホテルの朝食では、ウインナーを食べた。だが、特にこれといって感想はない。

 ホテルをチェックアウトした後、午前中は導師国にいた頃に何度も想像の中で巡り歩いたA市を実際に一人で散策することにした。

 ライブ翌日のA市は、オタオタの姿もちらほらと確認できたが、こちらが本来の日常なのだろう。人影もまばらで、落ち着いて過ごしやすい街だ。昨日リョウ君と一緒に回った駅から商店街へのルートをもう一度ゆっくりと巡り、それから通りに出て、見知らぬ道を気分の赴くままに歩いた。そこかしこにアニメでも見覚えのある景色や、地元のスターである彼女達を応援するポスターや看板などが目に入った。そうそう、商店街ではルーシーの両親の経営する和菓子屋に行って、念願だったずんだ餅を頂いた。昨日は、ものすごい混雑だったため、泣く泣く断念していたのだ。やはり本場のずんだは一味違うな。伝導シリーズのずんだ味も、かなり本物に近づいたと思っていたが、まだまだ研究が足りなかったのかもしれない。


 それから少し足を延ばして、昨日同様バスに乗って漁港に赴いた。

 漁港は平日だからなのか、年配の観光客の姿が目立つ。波の音と海風が心地よい。A市は、今ではオタカラの聖地として若者の間で人気となり、にぎやかな観光スポットとなっているが、静かでゆっくりと落ち着いていられる、日常の騒々しさから逃れ、心のリフレッシュを計るには最適の場所といえよう。昼食には、昨日食べられなかった地元の魚を頂いた。やはり、漁港で獲れたばかりの新鮮な魚は、本当に美味しいものだ。


 その後は再びバスに乗り、カブトヤマスターランドへと向かった。

 昨日行けなかった美術館を訪問するためである。アンナの一族が所有する秘蔵のコレクションもそれなりに楽しむことができたが、わたしのお目当てはアンナの作品のコーナーである。彼女の幼少期の頃に描いた絵画から、比較的最近の作品まで多数展示してある。やはりアンナは多才だな。そしてコーナーの最後には、アンナ自作のプラモデルが展示してあった。見たことがないロボットのものであったが、おそらく導師国ではアニメの放映がされていないのであろう。そして、ロボットの隣には、アリス作の「安土城」のプラモデルが展示されてあった。


 結局は、昨日リョウ君に案内されたルートをもう一度巡ることとなってしまった。やはり、リョウ君は案内するのがうまいな、と改めて思った。


 それから再びバスに乗って駅まで戻り、電車に乗って、東に向かった。

 そうそう、電車に乗る前、オタカラショップにも再び伺った。もちろんリタのものを中心にグッズを買い足しするためだ。

 東に向かったのは、もちろん故郷への帰り支度の準備をするためだ。オタカラも家に帰るまでがライブだからね、と言っていた。彼女達の言う通り、しっかりと準備を整えておくことは大事だ。何店か店に寄り目的の品物を購入した後は、まだ時間に余裕があったので、東京にでも寄ろうかと少し考えたが、次回リョウ君に案内してもらう予定なので、東京観光は、それまで楽しみにとっておくことにしよう。それから、また電車に乗り、東京を超え、次はさらに北へと向かった。


 そして目的の場所の近くまで来たが、目的の時間までには、まだ時間がある。それまで、特にやることがなかったので、調べてみると、近くに有名な公園があるということがわかった。わたしはそれまでの時間つぶしに、その公園に寄ることにした。そして公園に着いたものの、特にやることがない。とりあえず公園のベンチに座って、缶コーヒーを片手にもちながら、そのままボーっとしていた。何もやることがなくて、ボーっとすることなど、もしかすると生まれて初めてのことかもしれない。そしてそのままボーっとしていたら、いつの間にかウトウトしてきて、はっと目が覚めて時計を確認すると、かなり時間が経っていた。自分でも知らない間に眠ってしまっていたみたいだ。そろそろ行かないと終電に間に合わない。そして、電車に乗って目的の駅に到着すると、そこからはもうバスがなく、目的地までは少し遠いが、歩いていくことにした。


 それで、今わたしがどこにいるのかというと、実は青森県のM市にいる。

 青森県にいるからといって、小さなキャラメル工場に帰るわけではない。もちろんそんな工場など存在しない。また、太宰治の生家を訪れるためでも、恐山に赴き、伝説の初代導師をイタコに呼び寄せてもらうだとか、いわゆる観光目的でもない。

 そう、これからわたしは、わが祖国、導師国に帰るのだ。それで今から導師国に帰るにあたって、取り急ぎの足を確保しなければならない。それで現在は、航空自衛隊M基地の近辺に潜伏している。帰りは自衛隊の所有するIF-35A(アイエフ35A)戦闘機で帰還することに決めたのだ。それで今から基地に赴き、IF-35A機を拝借し、それに乗って導師国まで帰ることにしたのだ。


 わたしの「偉大なる国家殉死」は、おそらくまだ国内でも発表されていないだろう。

 既にこの件を内外に発表していようものなら、一昨日日本領空に無断で侵入した所属不明の戦闘機は導師国の物だと言っているようなものだし、しかも、昨日のドッグファイトは導師国の一方的な勝利である。日本側にとっては、この屈辱的な敗北を素直に受け入れることは難しいであろう。もし本件を導師国の方で明らかにした場合、導師国と日本との緊張関係が一層高まることになってしまうのは間違いない。そのため、導師国でもこのことについては、しばらく国内で温めておいて、しかるべきタイミングを見計らって、かなり内容をぼやかした形で、一般国民に発表することになるであろう。国外に対しては、特に発表する必要もない。まあ、どこかからかすぐに漏れてしまうだろうが。


 つまるところ、現時点においてわたしは未だ「偉大なる国家殉死」を成し遂げてはいないことになるのだ。そのため、わたしが今導師国に再帰還を果たしても、一般的には導師は殉死したという事実はないため、特に問題はない、はずだ。


 最初は、導師国に戻るにあたって、外交ルートを使っての帰還も検討してみた。侍従長に事前に連絡をとり、日本からチャーター便を用意してもらうとか、もしくは導師国から導師専用機を日本まで飛ばしてもらって、それに乗って導師国に帰還するという手もあるだろう。

 わたしは「偉大なる国家殉死」を遂行し、日本側の戦闘機を計8機撃墜した。わたしは、「偉大なる国家殉死」を成し遂げることはできなかったが、それだけでも誇れるべき戦果であろう。だが、あれはわたしの戦果ではない。マリー士官によるものだ。


 それにここは「異世界」。それだけではおもしろくないだろう?


 わたしは時刻を確認した。

「そろそろやるか。」


 わたしは、M市による途中、ミリタリーショップで購入した迷彩服や、防弾チョッキなどのプロテクター一式を身に着けた。まあ、あくまで気休め程度だが。それに、せっかく購入したオタカラグッズに、キズがついてしまってはさすがに困る。


 装備を整え終わったら、次は敵地偵察だ。


 導師は、すっと体の力を抜き、頭の中で少し念じると、そのままの姿勢の状態で導師の体はフワッと空中に浮きあがり、そのまま基地全体が俯瞰できる地点までゆっくりと上がって行った。それから導師は、同じくミリタリーショップで調達した軍用双眼鏡を使い、おおよその基地全体の配置を確認した。


「なるほど、目標のIF-35A機の場所はあそこか、それに能力者と思わしき人間も何人か確認できる。だが、所詮は軍に雇われた程度の規格内能力者。わたしに敵う相手ではない。」

 だがこの双眼鏡、オタカラのライブの前にあれば本当によかったのにな。


 望遠鏡をバッグにしまい、空中に浮いたまま、

 導師は、まず右手の人差し指を立てると、そのまま右手を上に突き上げ、それから空中に人差し指で大きく円を描いた。すると、そこには少し青みがかった透明の円形の膜が現れ、それが大きくなっていって、導師の周囲全体を覆った。いわゆるバリアである。


 このバリアがあれば、バズーカ程度の攻撃ならば弾き返すことが可能だ。だが、所詮はその程度の防御力である。そう、わたしの能力は攻撃特化型なのである。


 次に導師は、肘を曲げ右のこぶしをグッと握って力を込めた。すると、導師の右腕が肘辺りまで、みるみるうちに青白く光り出した。それに腕の周りには閃光が無数に走り、バチバチと音を立てている。まるで稲妻でも落ちたのかというほど、導師の右手が青白く光り輝いている。そのため、導師の浮いている周辺だけが、暗闇の中で青く光り輝いている。


 さすがにM基地の隊員達もわたしの存在に気づいたみたいだ。わたしを指さし、わたしを狙ってライフルの照準を合わせてきたり、能力者が手からレーザービームみたいなものをわたしに向けて放ったりしてきたが、そんな攻撃がわたしに効くはずがない。


「見せてやろう。5000年の歴史を超え受け継がれてきた、導師国の指導者のみがもつことを許された、この世界唯一にして最強の力。そして後世に自慢するがいい。この伝説といわれる力をその目で見ることができる幸運を。」


 そう声を発すると、導師はグッと握っていたこぶしを大きく開くと、青白く光った右手を持ち上げ大きく振りかぶった。すると、導師の右腕から巨大な稲妻が飛び出し、第一目標である基地の通信施設に向かって解き放たれた。そして、稲妻が狙い通り通信施設に直撃すると、施設が真っ白に光輝いたと思ったら、一瞬の間をおいて、「ドッゴ――ン!!」というものすごい爆音と共に、通信施設は跡形もなく砕け散った。通信施設が元あった場所には、粉々に砕け散った破片と地面に黒く焼けた跡が残っているのみである。


「よし。それでは行くか。」


 わたしは、空中から基地に対して進軍を開始した。通常、空を飛べる能力者というものは、飛べたとしても、ほんのわずかの間だったり、動くことができたとしても、せいぜい歩く速度程度が限界だ。だが、わたしは違う。わたしの場合だと、30分程度なら時速100kmでの高速移動が可能だ。わたしは、空中からそのまま基地の内部にまで侵入した。マシンガンをもった隊員や、能力者がわたしに近づいてくるが、今は彼等などを相手にしている場合ではない。通信施設を破壊した次は、敵の攻撃対象を全て排除しなければならない。


 導師は空中を飛びながら、帰国便に予定しているIF-35A機以外の、戦闘機やミサイルなどの全ての攻撃対象を確認すると、基地の真ん中でピタっと停止した。能力者のビームや隊員のライフルをバリアでカンカンと弾きながら、今度は両手をハの字にして左右両こぶしをグッと握って力を込めた。すると、先程と同じように、今度は導師の両手の先端が青白く光り輝きだした。そして、導師が両手を素早く交互に何十回も振り回すと、両手からは、振り回す度に50cm程度に固められた稲妻の塊が、ものすごいスピードで射出された。それらは全てミサイルや戦闘機などの目標物に正確に命中すると、それらはバチバチと大きな音を立て、煙をはきながら、ガタガタッと地面に崩れていった。そして、全ての目標物が使用不能の状態になった。

(ふんふんふんふんふんふんふん!)

 導師が無口でなければ、稲妻弾を放つ度にそう声を発していただろう。アクションシーンなど書いたことがないので、例えるなら、そんな感じの攻撃だ。


 導師が進軍を始めて、時間にしてだいたい3分程度だろうか。M基地の基地能力は完全に喪失した。


「ふう。これで終わりか。」


 攻撃対象物の破壊が全て完了し、導師は、帰還機であるIF-35A機に向かって飛んでいき、その前に到着すると地面に着地した。

 すると、基地の隊員達数人が武器をもったまま、こちらに向かって走ってきた。


「と、止まれ!」

 その中の一人の勇敢な隊員が、ライフルを向けながら導師に向かって叫んだ。


「お前達では、わたしには勝てん。散れ。」


 導師は、彼等をにらみつけると、指先を延ばし右手に力を込めると、またしても右手が青白く光り出し、そして右手を左から右に、彼等の立っている地面の前あたりを目がけて振りぬいた。すると、左から右に大きな稲妻が、彼等の目の前を横切ると、目の前の地面がバコバコッという大きな爆発音と共にえぐり取られていった。

 すると彼等は、


「ひいっ!」

 と言って、一目散に建物の方へと逃げていった。


 だが、逃げたからといって彼等が臆病だというわけではない。実はわたしが能力を発動している間、わたしの目を正視した者は、死にも勝る恐怖を感じるという。とてもじゃないが、常人が耐えられるものではない。それでも、わたしの前まで近づいてこれたのだから、逆に彼らは大したものだ。彼等が逃げたのは、普通の人間なのだから当たり前のことだ。ちなみに、地面に放った稲妻は特に意味がない。単なるおまけだ。


「よし、こんなものか。」

 わたしは、早速IF-35A機へ乗り込もうとした。


 しかし、基地の向こうがどうも騒がしい。もしかすると、隣のアメリカ軍基地が応援に来ようとしているのかもしれない。アメリカとの戦闘行為だけは絶対にしてはダメだ。彼等は常に我々との戦争の口実を探している。


 わたしはすばやくIF-35A機に乗り込むと、そのまま素早く滑走路に入り、離陸体制をとった。


「さらば日本よ。また来年の正月に会おう。オタカラのライブでな。」


 導師がそう言い残すと、IF-35A機は爆音を上げ、ものすごいスピードで滑走路を飛び立つと、すぐに暗闇の中へと消えていった。


 そう、彼こそが5000年を超える歴史を持ち、栄光と伝説に彩られ、世界中の国からは、世界の理想の終着点と言われる異世界の覇権国家ラクエン導師共進国、そしてその国を率いる最高指導者、第208代目の導師その人なのである。


 その後の日本側の調査によると、この何者かによる突然の基地襲撃事件によって、死者、行方不明者、またごく軽度、すり傷程度のケガ人を除いては、軽傷者さえも、奇跡的にいなかったそうである。

 そう、ここは異世界。時にはそういうことも許される世界なのである。


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