5-6:ドウシさんのわかれ
「いやー、本当にすごかった!」
「うむ。」
「セットリストも最高でしたよね。」
「もはや代案は存在しない。」
「リズ達も、衣装も、みんなかわいかったなー。」
「まさに至高の組み合わせだ。」
「やっぱり今までのライブで一番良かったですよ。」
「異論は許さない。」
「本当に来てよかった! もう全部が全部最高でしたよ。」
「もはやわれわれがとるべき道は一つ。顔中笑顔一杯にして海に向かって大ジャンプだ。」
まだまだライブの熱気が冷めやらぬまま、ライブ終了後、再びリョウ君と合流したわたしは、二人してライブの感想を熱く語り合っていた。
リョウ君は、ほっと一息すると、わたしに向かって、
「それにしても、最後のリタの発言。びっくりしましたね。」
「そうですね。」
「彼女達、ライブでもテレビでも、いつもニコニコと楽しそうにしていたので気づかなかったけど、やっぱり彼女達も彼女達で、すごく大変な思いで今までがんばってきたんだなあ。」
「そうですね。」
後でリョウ君に聞いた所によると、全国大会の話はものすごくデリケートな話なので、オタオタの間でもあまり話題になることはないらしい。
「あんなにも僕たちオタオタのことを大切に想ってくれているなんて。」
「そうですね。僕たちもオタオタの一人として、オタカラに恥じない行動をしていかなければいけませんね。」
「オタカラがあんなにがんばってるんだから、僕も泣き言なんて言ってられないですよ。」
「そうですね。僕もです。」
「なんかすごく元気が出てきました。明日から、なんだかがんばれそうです。でも、仕事をクビになったばかりで、何をがんばるんだって話ですけど。ははは…。」
と、リョウ君は苦笑した。
「そうですね、僕もです。ははは…。」
続けてわたしも苦笑した。
「ははははは…」
二人はお互いを見合って、再び苦笑した。
「あっ! そろそろ電車の時間だ。ドウシさんはもうこの時間なので、今日中に自宅に帰れないですよね。今日はどうするんですか?」
「そうですね。とりあえず今日はまたホテルに一泊することにします。」
「そうですか…。あの、ドウシさん。もしよければ連絡先交換しませんか?」
「あっ、はい。こちらこそ。」
「いやー、会社からのメールを見るのが怖くて、スマホの電源ずっとオフにしてたんですけど。」
いやー怖いなーと言いながら、スマートフォンの電源を入れるリョウ君。電源が入り恐る恐る画面を見ると、
「あれ?」
リョウ君はスマートフォンの画面を見ながら不思議そうな顔をしている。
画面には、
20:02 心配です とにかく連絡ください
と表示されている。時刻は、ついぞ5分前である。二人して画面をのぞき込んだ。
やはり上司からのLaneのようだった。神経質な上司なのか、それにしてもものすごい量の着信履歴とLaneの数だ。Laneは朝一番から罵詈雑言の嵐だった。その内容を一部抜粋すると、
09:02 早く来いバカ
09:35 やる気あるのか?
09:54 もう来なくていいよ
10:03 さよなら
「うわー。」
Laneを見ながら、わたしは思わず声を漏らしてしまった。
本当にひどいパワハラ上司のようだな。わたしは気の毒そうな顔をして、リョウ君の方を見た。
だが昼頃になると、Laneの内容が変わってきた。
11:13 どうした?体調が悪いのか?
11:24 事故とか大丈夫か?
12:04 コワカに聞いが今日はアイドル のライブに行っているのか ?
(コワカというのは、リョウ君の同僚のようだ。)
12:10 もしそうだったら今日はゆっく り楽しんできてくれ
14:30 午後社内で相談した 俺はお前にすごくきつく当たり 過ぎていた
14:35 本当に申し訳ない 取引先とか役員とのストレスを お前にぶつけていた
15:02 会社に戻ってきてほしい 直接謝りたい
16:13 明日も休んでいいから明後日か ら出社お願いします
17:04 何かあったのか? 連絡ください
同僚や後輩からもLaneがきていた。
リョウ都合が悪い時いつも休み
を変わってもらったり今まです
ごくお前に甘えていた
お前がそんなに追い込まれてい
たことに気づけなくて本当にご
めん
リョウさん本当はすごく頼りに
しているんです
恥ずかしかったのでいつも迷惑
そうにしてたけど本当はすごく
うれしかったです
リョウさん仕事が回りません!
先輩は会社で一番仕事ができる
人なのでやめられちゃったら困
ります
今日1日中リョウ君と一緒にいたが、やはりリョウ君は会社でも慕われているんだな。本人の自己肯定感がかなり低いので気づきにくいが、実は仕事の方もかなりできる方なのであろう。でも、直接本人にはそんな本音を伝えたくない、そんなキャラクターなのかもしれない。それにしても、会社の人間達も、自分達が最低な人間になる一歩手前で踏みとどまることができてよかったな。
「ドウシさん、すみません。ちょっと会社に電話してきます。」
リョウ君はうれしそうな顔で、会社に電話をするため、少し離れた場所に移動していった。
うむ。これですべてがうまく収まったな。オタカラも、ようやく彼女達がずっとやりたいと思っていたパフォーマンスを披露することができた。そしてわたしも、運よくその場に立ち合うことができた。リョウ君もどうやら失業しなくてすみそうだ。後、残っているのは、わたし自身の問題、それだけだな。
「はい。わかりました。失礼します。」
会社への電話が終了し、リョウ君がこちらの方に小走りで戻ってきた。
「すみません。お待たせしました。」
「いえいえ。それでどうなりましたか?」
「会社に戻ってきてほしいって。明日も休んでいいって言われたけど、コワカに聞いたら、本当に地獄のような状況みたいなので、明日から会社に行きます。」
そうか。相変わらずまじめな男だな。リョウ君なら別に今の会社に固執しなくても、他にいい所なんていくらでもあるだろうに。でも、そこがリョウ君のいい所なのだろうな。
「リョウ君。」
わたしはリョウ君に声をかけた。
「はい。なんですか?」
リョウ君は、会社でも自分が必要な戦力だということがわかって、少しうれしそうだ。
わたしは笑顔でこう言った。
「やっぱりA市には移住しないです。僕も田舎に帰ることにしました。今までリーダーとして、みんなに何もしてあげられなかったけど、今からでも遅くないんだって、今日オタカラに教えられました。オタカラみたいにうまくはできないだろうけど、僕は僕のできる範囲でがんばってみるつもりです。」
「そうですか。それはよかったですね。」
リョウ君も喜んでくれているみたいだ。
それにしても、今日一日リョウ君には本当に世話になったな。何かお返しがしたいな。だが、日本国内だと爵位とか勲章とかを授与することもできないし。かといって、この無限に使えるクレジットカードをあげるわけにもいかないし。
うーん、少し考えていると、そうだ! 思いついた。
わたしは、リョウ君に声をかけた。
「リョウ君。」
「はい。」
「リョウ君、僕たちの友情の証として、」
「はい。」
「これから僕のことは、ドウシではなく、カスと呼んでください。」
「はい?」
リョウ君はなにやらショックを受けたようで、ものすごく困惑した表情をしている。あれ? おかしいな。カスという称号は導師国内では一般的にはそれなりに知られた呼称ではあるが、日本国内だとよっぽどの導師国マニアでない限りこの呼称は知られていないはずである。もしかすると、知っているのだろうか?
リョウ君は、戸惑いながら、
「いや、ドウシさん。」
「はい。」
「いくらなんでもドウシさんのことをそんな風には呼べませんよ。」
「別に遠慮することはないですよ。気軽に呼んでください。」
「いやいや。ドウシさん、何があったのか知りませんが、自分を大事にしてください。自分はこれからもドウシさんのことは、ドウシさんと呼ばせてもらいます。」
「そうですか…。わかりました。」
よくわからないが、相変わらず謙虚な男だ。
リョウ君は、気持ちを切り替えると、
「いやー、ドウシさん。兜山の展望台で僕が泣いている時、ドウシさんが一生懸命僕のことをはげましてくれたじゃないですか。実は、僕すごく感謝してるんです。でも僕、自分のために、こんなにも真剣に話してくれる人に出会ったのが初めてだったんで、すごく恥ずかしくって、あの時は何も言えなかったんです。おかげですごく救われたっていうか。こんな自分でも、これからはもっと自分に自信をもたないといけないですね。それとドウシさん。ドウシさんのおかげで僕も救われたんだから、ドウシさんもリーダーとして、きっと大丈夫だと思いますよ。」
「そうですか。そうだといいんですけど。」
「大丈夫ですよ、きっと。それにしても、こんなこと言っちゃ失礼ですけど、ドウシさんって、本当におもしろい人ですよね。ドウシさんとしゃべっている時、僕、時々外国の人としゃべっているような気分がしましたよ。」
「もしかすると、本当にそうかもしれませんね。」
(わたしは、他人からおもしろい人などと言われたことなどないのだが。)
「次は東京でライブですね。」
リョウ君が言った。
あっ! そうだ。思い出した。ライブの終わりにオタカラが最新情報として、来年早々東京でライブを開催するって発表していたのだ。
「ドウシさんは田舎に戻るんですよね。次のライブは来れそうですか?」
リョウ君が心配そうに尋ねる。
「うーん…………。」
しばらく考えたのち、わたしはこう答えた。
「まあ、なんとかなるでしょう。」
リョウ君を見送るため、駅までの道を一緒に歩いた。
改札の前までくると、
「ドウシさん。今日ドウシさんと知り合うことができて、本当によかったです。」
「僕もです。自分こそ、リョウ君との出会いに感謝です。」
「ドウシさんが今度東京に来た時に、またいろいろ案内しますよ。」
「ありがとうございます。楽しみにしてます。」
「じゃあ、ドウシさん。次は東京でお会いしましょう。」
「次は東京で。」
そして、リョウ君は駅の中に入っていった。
次は東京か。オタカラは夢を実現することができたんだ。ならば、オタオタのわたしにもできないことはない。この件はまた改めて考えることにしよう。あっ、そうだ。とりあえずリョウ君には、私の分の最速先行抽選でのチケットの手配をお願いしておかなければ。
リョウ君と別れた後は、駅から5分程歩いて、昨日も宿泊したビジネスホテルを訪れた。
「あの、今日一泊なんですけど、空いてますか?」
「はい空いております。一泊5千円になります。いかがなされますか?」
「…………。お願いします。」




