5-5:Watercolorsの物語アニメ以降編
リタの口から、続いてアニメ以降のWatercolorsの物語が語られる。
「でも、アニメのおかげもあって、全国大会が終わった後、私達Watercolors9人のデビューが決まって。それで1stライブをすることが決まって、デビュー前にみんなそろって合宿をしたんです。全国大会以来久しぶりの東京だったので、みんなテンション上がっちゃって。私って、自分で言うのも何なんですけど、どちらかというとまじめな方なんですけど、でもエルなんていつもふざけて、すぐ冗談ばっかり言ってるし。アンナなんかアリスの影響でプラモ作りにはまっちゃうし。」
会場にドッと笑いがおきた。メンバー同士も笑いあっている。
「でも、私達の初めてのライブは絶対に成功させるんだ、っていう気持ちはみんな一緒で。性格は一人一人全然違うんだけど、熱さっていうか想いっていうのはみんな一緒で、練習になると、みんな本当に真剣で。」
そうだったよね、という感じメンバー同志でうなずきあっている。
「私、一応リーダーだったんで、なんとかグループをまとめて、ライブまでに、アニメでやった曲、それと私達のデビュー曲、歌からダンスまで、全部みんなでできるようにならなきゃって、ものすごく責任感じちゃって。それで、練習中は結構みんなにもキツイこと言ったりしちゃったんだけど、でもみんな私に一言も文句なんか言わないで、必死についてきてくれた。逆に私がミスした時も、みんなが、もうちょっとだったよ、次は絶対できるよって逆に励ましてくれた。」
わたしも一応リーダーだったが、特に何もしていなかった。努力したといえるようなこともないし、わたし一人で何かを成し遂げたということは一つもなかった。わたしが何もしなくても、国民達は黙ってわたしについてきてくれた。君の方が、わたしに比べてずっと立派だよ。
「それで、なんとか合宿が終わるまでには歌もダンスも一通り、みんな全部できるようになって。ライブ当日はオタオタのみんなも一杯来てくれて。ライブ中もすごく声援を送ってくれて、すごくうれしかった。ライブが始まってから終わるまで、みんなずっと笑顔だった。それで、ライブが終わって楽屋に帰ったら、やった大成功だ、大成功だって。スタッフも、メンバーも、もちろん私も、みんな笑顔で、よかったね、よかったねって。」
「…………。」
リタは、前を向いたまま、急に黙りこんでしまった。
それまで笑顔で話していたのに、一体どうしたのだろうか?なぜかこちらも心配になってきた。
「でも、私本当は悔しくって。もちろんうれしさもあったけど、それよりも悔しさの方がずっと大きかった。できたこともあったけど、できなかったことの方が多かった。歌もダンスもこんなんじゃ全然ダメだ。私達はファンのみんなのやさしさに甘えてちゃダメだ。アニメを観てわたしたちのファンになってくれたみんなに、私達のファンに、オタオタになって本当によかった、この先もずっと応援してもらえるように、私達もっともっと上手くならなくちゃいけないって思った。それに、みんな今は楽屋でニコニコしているけど、でも本当は絶対、みんなもわたしと同じ気持ちなんだと思って。」
1stライブ当日。ライブ終了直後の楽屋にて
ライブが終わり、オタカラのメンバー全員が楽屋に戻ってきた。彼女達にスタッフも加わり、オタカラの初めてのライブが大成功に終わり会話も弾んでいる。しばらくの間、全員にこやかに今日のライブの感想なんかを話している。
楽屋のテーブルのイスに座って、リタも最初はみんなの話をニコニコと聞いていた。だが、しばらくすると急に下を向いてしまった。
正面からではくわしい表情をうかがうことはできないが、歯を食いしばって、太ももの上に乗せた両こぶしをじっと見つめているように見える。しばらくはそのままの姿勢だったが、こぶしをグッと握ると、やがて何かの決心がついたようで、急にスクっと立ち上がった。
「みんな、聞いて! 私、今日のライブ全然うまくできなかった。合宿で歌もダンスも全部一通りできるようになったって思ってたけど、でも今日、お客さんの前で実際にやってみたら、全然ダメだって思ってしまった。私達全員でやる歌もダンスもバラバラで、全然合ってなかった。このままだと、オタオタのみんなが離れていっちゃうかもしれない。私、もっと、もっとうまくなりたい! くやしいよ! 私達はまだまだこんなもんじゃないのに! 私達はもっとすごいんだってみんなに知ってもらいたいよ。」
そう言うと、リタは涙ぐんでしまった。
それまで、わいわいとにぎやかだった楽屋は、急にシーンと静まり返った。
メンバーのみんなも、驚いた表情でリカの方を見ている。
リタは再びイスに座ると、感情的になりながらも、一方では冷静で、「あっ! しまった。私やっちゃった。」って思った。ついさっきまで、みんな今日のライブの成功を祝って、あんなに楽しそうにしゃべっていたのに、私の一言が原因で、一瞬にしてそれを重い空気に変えてしまった。それから、しばらくは誰もしゃべらなかった。リタは今更だけど、あやまろうと思った。
そして口を開こうとした瞬間、
「くそー! 私何やってんだろ。せっかくリタ達が全国大会を諦めて、オタカラを続けようって言ってくれたのに。それなのに。なんでこんなに私って下手くそなんだろう。本当は私がもっとみんなを引っ張っていかなきゃならないのに。みんな、ごめん!」
立ちあがってそう叫んだのは、リズだった。
「私達1年生が足を引っ張っちゃったせいで、全国大会、優勝できなかったのに。みんながオタカラを続けようって言ってくれた時、すごくうれしかった。でも、またみんなの足を引っ張っちゃったらどうしようどうしようって、本当はすごくこわかった。ライブ中も不安で、ずっとそんなことばかり考えてた。みんな、ごめんなさい!」
続けて、泣きながらそう言ったのはプルだった。
「そんなことない。全国大会で優勝できなかったのは、プル達1年生のせいじゃないよ。私達全員の実力が足りなかったせいだ。6人で全国大会優勝目指すより、みんなでオタカラを続けたいからって決めたんだろ。私も人気者になりたいし、だったら全然そっちの方がいいと思ってた。それなのに何やってんだろ。全国大会では優勝できなかったし。プロになっても、こんくらいできたくらいで喜んじゃってさ。かっこう悪いよ、私。」
エルが自分に対し怒っている。
「お城の規模でいうと、今日は小田原城でライブをすることができた。でも、小田原城を守るには、残念ながら私達の実力が備わっていなかった。それに一兵卒の私も、今日は大量に敵の侵入を許してしまった。誠にかたじけない。」
日本の名城マニアのアリスが、目に涙を溜めながらそう謝った。
「私も本当言うと、ライブ中、私達みんなうまくやれてるって、あんまりそんなふうに思ってなかった。私もなんか気持ちが浮ついちゃって、気づいたらもうライブが終わってた、ってそんな感じだった。それで楽屋に帰ったら、みんな成功だって喜んでるから、あれ? あんなのでよかったのかなって思っちゃったけど。でも、そんなんじゃやっぱりダメだよね。私もまだまだ努力が足りないね。」
サバサバ系のアンナがそう言った。
「アニメの曲は、すごく盛り上がってたけど、それ以外の曲は、なんかお客さんの反応がイマイチだったよね。アニメの人気があるうちはそれでいいんだろうけど、飽きられちゃったら、誰も来てくれなくなるかもしれないよね。私達プロになったんだから、なんとかしないといけないよね。」
ミアはライブを冷静に振り返った。
「みんなやさしいから、私みんなに甘えていたずんだ。私、みんなの中では一番下手クソで、特にダンスなんかすごく苦手で、合宿中もずっとみんなの足を引っ張っちゃって、ごめんなさい、ごめんなさいってずっと思っていたずんだ。ライブはお饅頭のようには甘くないずんだ。私、みんなに負けないように、もっともっとがんばるずんだ!」
ルーシーが泣きながらそう意気込んだ。
「私達ってさ、ついこないだまで全国大会優勝目指して必死にがんばったけど、結局優勝できなかったじゃん。私達ってチャンピオンっていうよりは、どちらかというと常にチャレンジャーだよね。そんな立場の私達がこんな所で喜んでちゃダメだよね。リタ、いやな役させちゃってごめんね。私も楽屋に帰ったら、言わなきゃ言わなきゃって、ずっと思ってたんだけど、怖くて言い出せなかった。ありがとうリタ。」
最後にメグがリタにそう伝えた。
やっぱり、みんなの気持ちは同じだった。それから、みんなで真剣に話し合った。もっと、もっとうまくなろうって。何か言いにくいことがあっても絶対に言うこと。言われた方も我慢して絶対嫌な顔をしないこと。こんなもんでいいやって絶対妥協しないこと。スタッフのみんなも協力してくれるって言ってくれた。あとはがんばるだけだ。私達9人でできる最高のものを作ろう。
リズがリタに向けて、
「リタ、言ってくれてありがとう。」
するとミアが
「さすがリーダーだね。」
最後にメグが、
「ちゃかさないの。」
再び楽屋は温かい空気に包まれていた。
そして、楽屋は本当の意味で笑顔に包まれた。
Watercolorsの物語はアニメで終わったのではなかった。アニメが終わった後、新たなWatercolorsの物語が始まっていたのだ。
確かに彼女達の道のりは、平坦なものでなかった。1年目は、5人でWatercolorsを結成し、意気込んで東京に向かうも、あえなく撃沈。その後あきらめずに活動を続けるも、大会に出れば、いつも下から数えた方が早い順位で、でもアンナが入って6人になって、それから徐々に順位を上げていったっけ。でも、全国大会への出場は叶わなかった。そして2年目となり、新たに1年生のメンバーが加わり、最初は下手で一緒に大会に参加することも叶わなかったが、彼女達の必死のがんばりもあって、最後は9人で全国大会の出場を勝ち取った。でも、それでも全国大会では優勝できなかった。うまくいくことよりも、うまくいかないことの方が多くて、彼女達の夢や希望は無残にも打ち砕かれた。大きな挫折に打ちのめされるたびに、彼女達はそのたびに成長し、それを乗り越えていった。だが、それでも彼女達に、最後に勝利の女神が微笑むことはなかった。
そして、彼女達はデビュー後も人気先行のグループというレッテルを常に貼られ続けたという。いわれもないバッシングを受けたこともあったらしい。そのことは彼女達の耳にも入っていたことだろう。でもそんなことは一切表情に見せず、彼女達は常に笑顔でステージの前に立ち続けた。
わたしは、アニメ以降の彼女達の物語について、詳しくは知らない。
正直に言うと、アニメで歌う彼女達の楽曲は、最初の方は、お世辞にもあまり上手いとは言えないものだった。それでも、6人が揃って歌うと、彼女達にしか出すことができない、何とも言えないいい感じがして、なぜかものすごく幸せな気分になるのだ。そしてそれが9人になると、よりいい感じがして、その幸せな気分が一層増すのだ。
わたしは、導師国ではアニメ以降の彼女達の楽曲は、DoSee-musicを通してでしか聴くことができなかったけれど、年月を追うごとに彼女達の歌がすごく上手くなってきているのは、楽曲を聴いているだけでもよくわかった。もし、アニメ以降の彼女達の楽曲を聞いていなければ、こんなにも彼女達のことを好きなることはなかったかもしれない。
再びステージで、リカが話している。
「それで私達決めたんです。ステージでは、今の私達の全力を披露しようって。もし何かうまくいかなかったことがあっても、絶対にファンの前では悲しい顔はしない、泣き言は言わない。ファンの前では絶対前を向いて、笑顔でいるんだって。やりきるんだ、これが今の私達の全力だよって。それで、最初リズ、メグ、アンナの3人が先に東京に移って、私達6人は、引き続き高校で練習させてもらうことになって、次の年に、私、エル、アリスの3人が東京に移って、それで去年に、プル、ミア、ルーシーの3人が東京に来て、やっと9人揃ってずっと練習できるようになったんだよね。なんかメンバーと顔を合わすたびに、みんなすごく上手になったな、しばらく会わない間にすごくがんばったんだろうな。よし、私も負けられないぞ、ってアニメが終わった後の3年間はずっとそんな感じでした。」
「なんで今日こんな話をしたかっていうと、私思っちゃったんです。それでアンコールの前に楽屋に戻って、メンバーのみんなに話してみたら、実はみんなも同じだって言ってくれて。じゃあもうこの話、してもいいだろうって。」
メンバー全員がお互いを見合って、ニコニコと笑っている。
そして、9人が並ぶと、
「私達、全員でこんなライブができたらいいな、見せられたらいいなって1stライブの頃からずっと思い描いていたライブを。やっとみんなにお見せすることができました!」
そして、9人揃って大きく、
「せーの。これも、みんなが今までずーーーーっと、応援してくれたおかげです!」
そして9人揃って手を繋ぎ、一緒に、
「せーの。みなさん! 今日は本当にありがとうございました!」
と、大きくおじぎした。
「やったー!!!」
わたしは思わず、生まれて初めて、大声で叫びながら、左右のこぶしを上空に思い切り突き上げた。
そういえば、今日のライブ、歌もダンスも、アニメで観ていた時よりも、ずっと上手くなっていた。彼女達9人の関係も仲間とか友達とか、そんな生易しい関係だけではなかったんだろうな。お互いがライバルと認め合って、信じあっていたからこそ、各々の実力を高めあっていくことができたのだろう。それに、おそらくここまで到達するためには、彼女達以外にも、彼女達の周りを支える人たち全員の努力があったのだろう。
それに引き換え、わたしは長年導師という国を率いる立場にありながら、何もしなかった。自分は所詮飾りの立場だと納得し、自分自身に対して何も期待していなかった。多くの国民が、そんな自分のことを愛してくれていることを知らなかった。いや、実際は知っていた。わたしは、国民の期待に応えることのできない自分の無力さに直面することが怖くて、あえて知らないふりを続けていたのだ。わたしには彼女達のような勇気がなかった。だから成長することもなく、今のわたしは5年前のわたしと全く同じだ。そして、わたしは何もしようとしないまま、最後はみんなから逃げてしまった。
でも! そして、わたしはあることを決断した。そうと決まれば、あとはライブを最後まで思いっきり楽しむだけだ。
「それでは、本当の本当に、最後の曲になります。みなさん聞いて下さい。」
「ぼくらは信じている。」(ララ―)
「きみもぼくらを信じていること」
(でも僕は信じるのが怖かったんだ。)
「ぼくらは信じている」(ルルー)
「ぼくらはまだまだいけるんだ。」
(僕は僕の限界に、自ら蓋をしてしまったんだ。)
「だから諦めないよ。」(ピョーン)
「きみがいれば空も飛べるよ。」
(そして僕は一人で空へ飛び出してしまった。)
「さあ進もう。」(レッツゴー!)
「この橋を渡って、もっと先の先の先のほう。」
(そう、海を渡って、君たちに会いに来たんだ。)
「きっと見つかるよ。ばくたちのずっと探していたものが。」(イエーイ!)
(でも僕も見つけたよ。君たちのおかげで。僕のずっと探していたものが。)
「ピョーンポコポコポコ…」
そして、Watercolorsのライブが終了した。




