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異世界の伝導シリーズPart.70:208代導師様  作者: ににん(ni-ning)
2章:導師様とアイドルの出会い
13/35

2-7:導師様彼女達のアニメを手に入れる

 委員会が終わった後もしばらくは、放心状態で、そのまま席に座っていた。


 すると、誰かがわたしの席の前まで駆けつけてきた。


「導師様! 誠に申し訳ございません。導師様があの作品に対したいへん気分を害されたことは、私達の方でも十分承知しております。それで会議終了後、私達が謝罪にくることをお待ち頂いていたのでございましょう。」

 よく見ると、DASRAKの会長と、先程のWatercolorsのアニメ担当者、そしてその輸入配給会社の社長の3名のようだ。


「本日、導師様が偶然にも審査会にご出席頂くこととなり、あの作品の資料をご覧になられた段階で不可と判断されなければ、もしかすると我々DASRAKは、あの作品を導師国内で放映してしまうという可能性がありました。あの作品が国内に流入するのを未然に阻止して頂き、我々DASRAKとしましては、導師様には、感謝の言葉もありません。しかしながら、本来は我々DASRAKの方で検閲の段階で、あの作品を不合格としなければなりませんでした。本件については、誠に弁解の余地もございません。私は責任をとって、本日付けでDASRAKの会長職を辞職致します。」

 会長がそう宣言すると、続けて、


「私も導師国で暮らし、導師国と導師様を愛する一国民でありながらも、我々の誤った判断で、あの作品を導師国に紹介しようとしてしまいました。本日導師様が、偶然にも審査会にご出席頂き、あの作品に不可という判定をされなければ、我々も、自分達の愚かな過ちに気づくことができませんでした。我々は不敬にも、今まで導師国の教えを十分に理解し、実践してきておりませんでした。我々は今回の責任をとって、会社を解散致します。そして、我々はこれから出家し、導師国の教えを改めて勉強し直し、導師様にお仕えする信徒の一員となり、導師国の教えを広く国民に布教することをこれからの人生の任務と致します。」

 配給会社の社長がそう言うと、3人揃ってわたしに向かって深く頭を下げた。

 わたしは、その時意識がはっきりとしてきた。そして、少し考えた後、


「ダメだ。」

 と、言った。


 ダメだと言ったのは、もちろん本件に関して何の責任もないDASRAKと配給会社に対して言ったのでない。Watercolorsのアニメを不可としたわたし自身に対して言ったのだ。そして、もちろん、このような理不尽な理由で彼等を処分することなどできない。かといって本当の理由を彼らに話すわけにもいかない。

 それと、Watercolorsのアニメを「決してタイトルを呼んではいけないあの作品」扱いしないでほしい。

 それに、導師国には出家制度などない。


「導師様! それでは一体、我々はどうすればいいのでしょうか?」

 3人を代表して会長が、わたしに向かって哀願した。


 わたしは、Watercolorsのアニメを永久に観ることができなくなったショックでそれどころではなかったが、本当にどうすればいいのかわからず、じっくりとその場で考えこんでいた。

 その時だった。わたしの後ろから、


「導師様はあなた方に対してダメだと言ったのではございません。むしろ導師様ご自身に向かっておおせられたのです。」

 後ろを振り向くと、そこには侍従長が立っていた。侍従長は、おそらく会議が終了したにもかかわらず、いつまで経ってもわたしが戻ってこないため、心配してここまで様子を見に来たのであろう。


「それは一体どう意味でございましょうか?」

 会長は侍従長の言った言葉の意味がわからず、不思議そうに尋ねた。


「わたくしは会議には参加しておりませんので、詳細については存じませんが、おそらく、この導師国の教えより大きく乖離した、ふしだらな作品が紹介されたとかそういったことではないでしょうか?」

 侍従長がそう答えると、会長は驚いた様子で、


「まさにその通りでございます。」

 と答えた。

 すると侍従長は、その通りでしょうと言うと、続けて、


「導師様はあなた方もご存じの通り、寛容で慈悲深いお方です。そのようなお方が、あなた方を処分しようなど考えるはずもありません。導師様は、そのようなふしだらな作品が本日の審査会で紹介されたことよりも、導師国の教えがいまだ一般国民の間に深く浸透していないことに気づかれ、ご自身の今までの活動を振り返り、そして反省し、ご自身に対してダメだと発言されたのです。そして、導師様があなた方を待たれていたのは、もちろん謝罪を受けるためではございません。むしろ今回の失敗を教訓にして、二度とこのような社会的害悪となるような作品を輸入してはならない。そして、これからも世界中の素晴らしいアニメ作品を紹介し、国民達一人一人に多くの笑顔を届けてほしい、そして導師国を一緒に盛り上げていこう、とそう直接はげましの言葉をかけるため、あなた方をお待ちしていたのです。」

 と、自信満々の表情でそう述べた。


 すると、会長は、

「ああ!偉大なる導師様! 我々DASRAKは、社会的害悪となるような作品を検閲で合格にするなどという愚かな行為は、二度と致しません。そして我々は、これからも導師国の発展のため、全力で業務に邁進致します!」


 すると、配給会社の社長も、

「ああ! 偉大なる導師様! 申し訳ありませんが、我々は出家を諦めます。そして、これから我々は、あの作品とは全く違う社会的に有益になるような作品を導師国の国民達に紹介し続けて参ります。ですが、私の心は、いつまでも導師様にお仕えする信徒の一人です。」

 そう言うと、涙を流しながら3人並んで、再び私に向かって深く頭を下げた。


 誤解も解け、場の空気も和やかとなった所で、侍従長と会長ら3人はなにやら世間話でも始めたようだ。ふー。なんとかこの騒動も一見落着したようだ。侍従長が言っていたことは、おおむね間違えていたが、無事に解決したのだから、まあよしとしよう。だが、導師国の教えがいまだ国民に浸透していないという部分だけは、どうやら正しかったようだが。

 その時であった。3人の会話を何の気なしに眺めていると、配給会社の担当者が片手になにやら小箱を抱えていることに気がついた。よく見ると、それは間違いない。「Watercolorsのアニメブルーレイディスク全巻ボックスセット」ではないか!

 わたしはおもむろに席より立ちあがると、そのままスタスタと担当者の前まで歩いていった。担当者は、突然の出来事にパニックとなり、どうしたらいいのかわからない様子だった。

 わたしは、彼の前で、両方の手のひらを開いて上にして、腰の位置辺りまで持ち上げると、彼に向かって差し出した。いわゆる頂戴のポーズである。彼はしばらく考えていたようだが、ようやくわたしの意図に気がついて、


「導師様、承知しております。この作品は没収ということですね。不満はありません。」

 と言って、ボックスセットをわたしの手のひらの上に置いた。

 わたしは彼に一言、


「すまない。」

 と、彼に聞こえないぐらいの小さな声でそう言った後、そのまま後ろを振り返り、ボックスセットを小脇に抱えたまま会議室を後にした。


 師邸への帰りの車中は、ほくほくだった。永久に観ることはできないと一度は諦めたWatercolorsのアニメが、奇跡的に再びわたしの手元までやってきたのだ。なんという幸運。

 車中では、侍従長がわたしに向かって、


「そのふしだらな作品、わたくしの方で処分しておきしょう。」

 と、言ってきたが、わたしは彼の言葉が聞こえないふりをし、ボックスセットを右手に抱えたまま、まっすぐ前を向いていた。

 師邸に到着すると、まるで自分が右手にボックスセットを抱えていることに気づいていないような体で、師邸に入ると、そのまま執務室の中に入った。


「DoSee-musicでWatercolorsの楽曲が手に入った時は、夢が叶ったと思ったが、まさかわが人生で二度も夢が叶うとは。」

 と独り言を言いながら、秘密の部屋の扉を開けた。手が震え、鍵を開けるのに多少時間を要したが、なんとか部屋に入ると、ノートパソコンの電源を入れ、恐る恐るブルーレイディスクをセットした。残念ながら、Watercolorsが全国大会で優勝することができたのかどうかというストーリーの核心部分については、先ほどの会議で知らされてしまったものの、動いたりしゃべったりしている彼女達の姿、楽曲を歌っている彼女達の姿を観られるだけでも十分幸せだ。そんなことを思っているうちにストーリーが始まった。


 ストーリーは、私が想像していた通りだった所も、想像とはまったく違う展開になった所もあった。それに、わたしもネタバレをするわけにはいかないので、多くを語ることはできない。

 だが、アニメは素晴らしかった。様々な困難が彼女達に降りかかるものの、その度にメンバー全員の結束が強まり、各々が成長し乗り越えていく。時にはメンバー同士、衝突したり、泣いたり、笑いあったり、でも結局みんな一緒が一番だよね。

 また作中で歌われるWatercolorsの楽曲も素晴らしかった。楽曲はDoSee-musicで以前より聴いていたが、実際に彼女達がダンスを踊りながら、歌を歌っている所を観るのは初めてだった。彼女達の歌もダンスも、一人一人個性があって、観ていて楽しいのだが、彼女達9人の歌とダンスが合わさると、何とも言えないいい感じがして、ものすごい心地よさを感じるのだ。


 ただ、この素晴らしいWatercolorsのアニメを導師国の国民達が永久に観ることができなくってしまったことに対しては、強く責任を感じた。


 わたしの夢は偶然にも2つとも叶ってしまい、そして完結した。

 はずであった。しかし、それどころか彼女達に対する想いは、弱まるどころか、強まっていく一方なのであった。


 それからしばらく経ったある日のこと


「この部屋をWatercolorsのグッズで一杯にできたらな。」

 秘密の部屋の中で、ふとそう独り言を吐いた後、唯一所持しているグッズであるフォトフレームを机の上に戻すと、


「それも叶わぬ夢か。」

 と、さらにそうつぶやくと、ノートパソコンを開き、いつものネットサーフィンを開始した。無関係なページの閲覧を数十分間続けた後、ようやく目的のページにたどり着いた。


「ほう。彼女達も結成して今年で5年になるのか。」

 それはめでたい事だ、としみじみと感動に浸っていると、次の文面を見て愕然とした。


「Watercolors5周年を記念して、今夏に地元A市での記念ライブ開催決定」


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