35.社畜、理解が追いつかない
「それ以上言ったらビンタしますよ」
「あっ、はい。すみません」
ヒモ宣言をしたら心菜に怒られてしまった。
「あの頃のお兄ちゃんはどこにいったの……」
「俺は昔からこんな感じだぞ。なっ!」
「なっ!」
意味がわかっていないゴボタも一緒に頷いていた。
「それで20年の間に何があったんだ?」
俺の中ではたったの数日しか経っていないからな。
実際聞いても想像できないだろう。
「まずは見てもらった方が早いかな」
そう言って心菜は足を開いて構えた。
確かあのポーズはホワイトが赤色の魔宝石を使った時に、やっていた動きと同じだ。
「ハッ!」
声とともに森に向かって手を突き出した。
――バキバキ!
森の木は何本も幹に穴が空き倒れていく。
その光景に驚いて、空いた口が塞がらなかった。
ホワイトに向けて、何かをやった時は手を抜いていたのだろう。
「やっぱり宇宙人だ……」
「宇宙人って何よ! 私は探索者よ!」
「探索者?」
「ええ、ちょうどお兄ちゃんが行方不明になったタイミングで世界に能力を持つものが増えたの」
やっぱり何を言っているのかわからなかった。
俺は映画でも見ているのだろうか。
能力者ってスプーンを曲げたりする人や未来を予知する人だと思っていた。
だが、実際は見えない何かで木を薙ぎ倒していた。
「なぜ能力が使えるようになったのかは、いまだにわかってないの。ただ、それとダンジョンが関係していると私達は思っている」
「ダンジョンってここみたいなところだよな?」
「そうね。ここと同じだけど全く違うっていうのが正直なところかな」
心菜の話では俺がいなくなった時と同じぐらいのタイミングで、ダンジョンと能力が使える人が出現したらしい。
その能力を使える人を今は能力者と呼ぶようになった。
「それでダンジョンと何か関係があるのか?」
「ダンジョンにはここにいるゴブリンやコボルトみたいな魔物がたくさんいるのよ」
そう言ってゴボタとリーゼントを指さしていた。
なんとなくは気づいていたが、はっきり言われたらゴボタが人間ではなかったと認めるしかない。
「あー、やっぱりゴボタはゴブリンでリーゼントはコボルトなんだな」
「むしろそんなことも知らずに一緒にいたことにびっくりだよ」
「まぁ、俺にとったら可愛い我が子だし、ただ話す犬にしか見えないからな」
「ダンナ様、私のことを忘れないでくださいよ!」
「はいはい、ホワイトも大事な家族だぞー」
「へへへ!」
そんな言葉で喜んでいるホワイトも口では言わないが、可愛い妹のように感じる。
ここに来てから大変な時を一緒に過ごしてきたからな。
「まずはこの光景がおかしいのよ」
「おかしいって何が?」
「人間と魔物が仲良くしているのがおかしいのよ!」
「はぁん!?」
心菜の話ではまるで人間と魔物が対立しているように聞こえる。
「私みたいに能力が使える人は、探索者として働いている人が多いわ」
「あー、それは宇宙人のことか?」
心菜の話だとこの間来た人達も探索者ということになるだろう。
手から火を放っていたやつがいたが、あれも能力の一つだろう。
「基本的に魔物は人を襲って殺すのが当たり前なの」
「そんなはずないよな? ここに住むゴブリン達はみんな優しいぞ?」
「だから私も今驚いているのよ。ダンジョンにいる魔物は時折外に出てくるのよ」
「外に出てくる?」
「ええ、私達が住んでいる地球を襲ってくるのよ」
それを聞いて探索者がなぜ魔物を警戒しているのかわかった気がした。
「つまり探索者はダンジョンに入って、魔物が出てこないようにしているってことか?」
「そういうこと。それに魔物には銃や爆弾は効かなくて、能力でしか倒せないのよ」
能力者と呼ばれる人達しか魔物は倒せない。
もし、魔物が溢れて出てくると、地球に住む他の人達が襲われるっていうことなんだろう。
そもそも20年後の日本はちゃんと存在しているのだろうか。
「日本は大丈夫なのか?」
「20年前よりは加速して進んだ文化もあれば、衰退したこともあるわ」
「例えば……?」
「電気、ガスなどのエネルギーがほぼなくなったわ」
「はぁん!?」
エネルギーがなければどうやって生活をしているのだろうか。
本当に全く想像できない世界になっている。
「石油はなくなったし、原子力発電所を持っていても魔物に襲われたりするからね……」
心菜の表情はどこか暗かった。
きっと実際に魔物に襲われて住めなくなった地域もあるのだろう。
人間同士で戦う世界ではなく、人間と魔物が戦う世界になったということだ。
「ってことは電気はどうしてるんだ?」
「なんとか太陽光や風力発電で補っているわ。それと探索者がダンジョンにいく理由がもう一つ関わっているのよ」
「それはなんだ?」
「魔法石よ」
ああ、魔宝石って確かに火や水が出るし、風も吹かせられるから発電には使えるだろう。
赤色の魔宝石なんて石油の代わりになる万能な石だからな。
スクーターに入れられるぐらいだから、車にも使えそうな気がする。
心菜は鞄から魔法石を取り出すと、俺に手渡してきた。
「なんだこれ? 魔宝石じゃないぞ?」
「お兄ちゃん何を言ってるの? これが魔法石だよ」
心菜に渡されたのは、色がついたただの石だった。
魔宝石とは違って輝きもなければ、色も澄んではいない。
「俺が知ってる魔宝石はこれだけどな」
俺達が持っている魔宝石をいくつか渡すと心菜は驚いていた。
確かに心菜が知っているものとは別物だからな。
「こんなにあるの!?」
「むしろその辺にたくさんあるぞ」
俺達の話を聞いていたゴボタはその辺に落ちていた石をたくさん持ってきた。
「ほら、たくさんあっただろ?」
「お兄ちゃん……私を馬鹿にしてる?」
心菜の視線が命の危険を感じた。
睨まれただけで心臓が握られたような気がした。
「いや、そんなことはない! だから睨むなよ」
心菜は20年も経ったら、暴力的な女性に成長してしまったようだ。
俺は急いでスコップで石を割った。
中にはちゃんと黄色の魔宝石があった。
色はランダムだけど、大きさや形などは一定の品質になっているからな。
「本当に出てきた……」
「だから言っただろ。これもその辺にたくさん落ちているから結構便利だぞ」
「本当にこのダンジョンはなんなのよ……」
今度は心菜の頭が追いつかないのだろう。
俺もずっと心菜の話に頭が追いついてないからな。
お互いに頭を抱えながら、知っている情報を共有した。
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