第08話:連れ去られたものたち
深い森の中、厚い壁で囲まれた古びた砦の中。そこには獣人族の大人の女たちが戦争の人質として監禁されていた。
彼女たちは皮で作られた質素な服を着せられ、何も知らされないまま、次の運命を待っていた。
一方、森の反対側、山の麓に広がる大きな村。
そこは奴隷市場として知られており、連れ去られた獣人族の子供たちが、次々とケージに閉じ込められていた。
彼らは体の自由を奪われ、飢えと寒さに震えながら、未来を恐れていた。
奴隷商たちの間で特に目を引く存在があった。
それは銀髪は月の光のように輝き、みすぼらしい恰好にも気品が感じたアヲの存在だった。
「この子は特別だ」と、ある奴隷商は仲間たちに言った。
彼の目は貪欲にアヲを見つめていた。
「銀髪の狼獣人は珍しい。これは大金になる!」と、彼は手をこすりながらにっこりと笑った。
・・・
古代から伝わる奴隷契約魔法。それは、個人の真名を用いて、その人物を完全に支配下に置くことができる禁断の魔法である。真名は、その人物の魂や存在そのものを表す名前。普段使用される名前とは異なり、生まれたときに親や守護者から秘密裏に与えられるもので、真名を知ってしまうと、その人物の全てを掌握することができるとされている。
奴隷商人たちは、この契約魔法を使って、獣人族の子供たちを次々と奴隷として契約させていた。
契約が成立すると、逆らえなくなるため足かせなどは外された。
牢の中で震える子供たちの目には恐怖と絶望が映っていた。鉄格子の牢から次々と連れ出される子供たち。連れ出された子供たちは、奴隷商人の前に立たされ、彼の言うことを聞かされる。
「お前の真名を言え」奴隷商人は冷たい声で命令した。
子供たちの中には、逆らうものもいた。しかし、逆らえば即座に拷問が待っていた。奴隷商人たちは子供たちを商品として見ていたため、極力ダメージを与えず、痕跡を残さないように計算された拷問が行われた。それでも真名を明かさない頑なな子供たちには、さらなる手段がとられた。
「まだ言わぬか?」奴隷商人は冷笑しながら言った。「ならば、もう少し強い手を使おう」
その言葉の後、近くにいた魔導士が前へと進み出た。彼らは、奴隷商人のために自白魔法を駆使して、子供たちから真名を引き出す役割を持っていた。
この魔法は非常に強力で、まだ魔力が未発達な子供にとっては抗うことができない。
しかし、魔導士の依頼には高額な報酬が必要だったため、できるだけ最後の手段として使用されていた。
真名を言い終わると、奴隷商人は契約魔法の呪文を唱え、子供たちの体に紋章が浮かび上がった。
紋章は、額や腕、胸などに浮かび上がるもので、契約が成立した証だった。
・・・
疲労と恐怖の中で、最後に呼ばれたのはアヲであった。
彼を中心に、一同の視線が集まった。独特の銀色の髪が揺れる中、アヲは奴隷商人の前に連れ出された。
しかし彼は他の子供たちのように簡単には屈しなかった。奴隷商人の命令や脅迫を無視し、真名を明かそうとしなかった。
そんな彼に対して、奴隷商人は非情な手段を取った。アヲの足に、何本もの細い針が刺された。痛みに顔を歪めながらも、彼は口を固く閉ざしていた。
老獪な奴隷商人は、アヲの耐え忍ぶ姿を前にしても、不敵に笑い
「この目は何本さしても時間が無駄だ」と言った。
そして、次の手を打つために、近くに待機していた魔導士を呼んだ。
魔導士は優雅に歩み寄り、アヲの目の前で手を組んで呪文を唱え始めた。
自白魔法が発動し、アヲの意識が徐々に朦朧としていく中、彼の口から真名がこぼれ出た。
「全てを飲み込む白銀の溝」と、その声は細く、しかし確かに響いた。
魔導士はその真名を聞き、不敵な笑いを浮かべ
「なかなかの大層な名前だねぇ」と言った。
奴隷商の長、ゴルタスはアヲの真名を魔導士から聞き
自らの手で契約魔法を発動させようとした。彼の掛ける魔法の光がアヲを包み込むが、それは次の瞬間、はじかれるようにして消え去った。何度試しても、同じ結果だった。
驚きの中、ゴルタスは魔導士に目をやった。
魔導士はアヲをじっと見つめながら、舌打ちをした。
「これは珍しいねぇ。この子、既に別の契約、いや、これは呪いのようだねぇ」
声に驚きを込めて言った。
ゴルタスは不機嫌そうに言った。
「解除できるのか?」
魔導士はにっこりと笑った。
「解除できなくもないがけど、それには相応の代価が必要だねぇ」
ゴルタスはアヲを見つめ、その特異な銀髪と瞳から、彼が持つ商品価値を計算した。
彼は一瞬の躊躇の後、深く息をついた。
「分かった。代価を払う。だが、確実に呪いを解除してもらうぞ」
魔導士はにっこりと微笑んだ。
「私は呪いが専門だよ」
魔導士は老婆です。