第10話:忽然と消えた一族
砦の事件があった2日後、王国の使者たちが狼の獣人の一族が住む村へと足を運んでいた。
王命で白銀の狼獣人を探しに来たのだ。しかし、彼らが村に到着した時、そこには驚愕の光景が広がっていた。
使者たちは異様な違和感を感じる。人の気配を感じないのだ。人々の笑い声や動きも聞こえない。
使者たちは、村の各家を調べ始めるが、家の中も外も、一族の姿はどこにも見当たらない。
家の中には、食事の用意がされていたり、仕事の途中だったりと、あたかも彼らが一瞬で消え去ったかのような様子が残されていた。
しかし、どれだけ捜索しても、彼らの行方の痕跡は見つからなかった。
・・・
時間を少し遡る
月の光が薄く地面を照らす中、村の入口に疲れきった獣人たちの一団が現れた。長い道のりと身体に受けた傷、そして心の中に宿る痛みと混乱。それにも関わらず、彼らは安堵の表情を浮かべていた。故郷に帰れるという喜びと、途中での困難を乗り越えてきた達成感に胸を膨らませていた。
彼らは手を取り合い、互いに力を合わせながらゆっくりと前進した。女性たち、子供たち。顔を上げる余裕もなく、ただ一歩一歩前に進むだけ。
連れ去られた者たちが村に足を踏み入れると、誰の指示もなく、自然と各自が自分の家に向かった。静かな夜の中、ただ足音だけが聞こえる。誰も声を出さなかった。それぞれがこの一瞬の平穏を噛み締めていたからだ。
アヲと彼の母は、まっすぐ族長の家へと向かった。村の中心地に位置するその大きな家は、暗闇の中でもしっかりと存在感を放っていた。二人は何も語らず、ただ速やかに族長の家に向かう足取りを早めた。
・・・
族長の部屋は、部族の歴史や重要な出来事を物語る様々な装飾や書物で満たされていた。部屋の中央には大きな円卓があり、そこには族長、アヲの父親、母親、姉、アヲ自身、そして呪い師が集まっていた。
族長が深々と息を吸い込み「さて、今回の出来事に関する話し合いをしよう」と言い始めた。