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天才剣士と神童剣聖の剣舞(ソードダンス)  作者: 鈴川掌
第八話 満開へと至る道
37/42

第八話(上)

リセットされた私の経験値は戻る事なく、そしてまた忙しくなって劣化する事が確定している訳ですが、それでも頑張って完結させたい、具体的に言うと15話で終わる予定なので、半分は越えているのです。

 感想を一言で語るとしたら驚愕、元々剣舞で著名になった剣ヶ丘家の中でも特に異才を放っていた剣ヶ丘開花というバケモノが生み出した、狂い桜。会得者はそれこそ姉であり狂い桜を完成させた剣ヶ丘開花とその妹である私だけだった、狂い桜という会得難度の高い筈の狂い桜を、東雲武蔵と言う男はたった一試合で完成させた。

「ッ……バケモノめ…」

 そう吐き捨てる事しかできない程に、今の私は惨めとしか言い表せない。私は手を握りしめ羨ましいそうに、対戦相手に何かを語りかけるアイツの姿を観客席から眺めている事しかできない。

 会場を急いで後にし、模擬戦場に向かう。このままだと追い越される、私には狂い桜しかないというのに、その狂い桜さえも失ってしまえば、私はアイツの劣化になってしまう。

 居合の態勢に入る、雑念が(にじ)みでる、呼吸が荒くなり集中する事ができない、このままではどうにかなってしまいそうだというのに、刀を抜刀する事ができない。

 心音がドクンドクンといつもより速いテンポでビートを刻む。落ち着け、落ち着いてしまえば、絶対に失敗はしないのだから。

「……狂い桜……」

 そこまで口に告げて、抜刀したその時だ、その瞬間に目の前で開花を完成させたアイツの背中が思い浮かぶ。

「ッ……開花!」

 相手の攻撃を、最速の抜刀から発生する無数の剣戟を食らわせ、相手の一撃に対するカウンターとなる開花、これだけを身に着ける為だけに私は何年も費やしたのだ、少しの雑念があろうと放つ事は、可能だ。それでも……。

「雑念で刀が鈍っているぞ」

「姉さん……」

 この狂い桜の開祖であり、姉である剣ヶ丘開花の目は騙せないらしい。

「姉さんはどう思ったの?その……東雲に対して」

「ん?なんだそんな事を、気にしていたのか?そんな事も気にしていたのか?」

 私を元気づけようとしているのか、それともそんな事はどうでもいいとでも、気にする事ですらないと言いたいのか、この姉は心底どうでもよいとばかりに少しがっかりした様子を見せる。

「茶化さないで!姉さんですら1年かかった技よ?それなのにアイツは…東雲は…」

「そりゃ考案から実現まで考えて試行錯誤していた人間と最初からお手本を目にしながらやっていた東雲とじゃあ、時間が違うのは仕方の無い事だろう?」

「なら!最初から、姉さんをお手本にして数年もかかった私は何なの?」

 天才には凡人の気持ちはわからないというが、その通りなのだろう姉さんは天才で、私は凡人だ、そこはどうあがいても覆す事の無い事実だ、それさえ受け止められない程子供であるつもりは無い。

 それでも凡人であってもせめて追い越す事はできなくても、追いつく事ができるとそう信じてやってきたのだ、それも折れそうになってしまっているが。

「だからいつも言っているだろう?芽生は天才だよ、間違いなく」

「馬鹿にしないで!そうやって天才、天才と持て(はや)される凡人の気持ちを!姉さんは考えた事があるの?」

「それでも私が思う天才の項目を一番満たしているのは、間違いなく芽生だよ」

「もういい!」

 私は逃げる、天才と言われた姉さんといつも比べられて、その姉さんには天才と持て囃された、最初は嬉しかったけれど今は本当の天才達をこの目に焼き付けてしまった、私にとってはただの劣等感でしかなかった。




「私は本当の事を言ったつもりだったんだがなぁ」

「芽生が凄い勢いで、出て行ったけれど何かあったの?喧嘩?」

「まぁそんなものだよ、それでどうして今日私を呼び出したんだ?アーサー」

 ミーシャ・アーサー、神童、剣舞と言うスポーツにいや剣と言う武器に愛されたと言った方が正しいか、そんな彼女が私という学園長を呼び出して、一体何の用なんだか…」

「開花には話して置こうと思ってね」

「話したい事ぉ?」

 そんな生徒の相談に的確に答えてあげられる程、私はよくできた人間ではないのだが、さてどうしたモノか。

「えぇそう、話したい事」

「まぁ、恐らく碌でもない事を考えている事だけは予想できるが、そのなんだ?」

「予選全勝で終わると思うから、負けた生徒の事よろしくね」

「おう、そうか」

「意外ね、そこまで甘くないと言われるかと思ったのだけれど」

 それは芽生や東雲が言うのであれば、そこまで甘くないというだろう、しかもあの二人はどちらも互いを相手にする事が決まっている、けれど言ってしまえば大した強豪も居ないアーサーのリーグではそう思ってしまうのも無理はない、そもそも今日の試合を見た人間であれば確信したはずだ、芽生も東雲も相当な腕前だが、その二人が霞んでしまう程にアーサーという剣士は別格過ぎる。

 さもなければ、ブレインも使わずに対戦相手を10秒で戦闘不能にする事などできはしないであろうから、それにミーシャ・アーサーには恐らく私と同じ特性があるのだろう。だからこそ負けを、人の目を恐れずに、そこまで傍若無人な力を振るう事ができるのであろう。

「とどのつまり、負けた生徒のケアをよろしくと言う事でいいか?」

「ええ、そういう事。神童(ミーシャ・アーサー)に負けた事を悔やまないで欲しいと伝えてあげて、私からそれを言ってしまうと嫌味っぽくなってしまうかも知れないから」

「わかったよ」

「それじゃあ、よろしくね」

 お前というバケモノに負けた者達が、その一言で納得できるとは思えないが善処はしよう、ただでさえ放っておいたら辞めそうな馬鹿が居るんだ、これ以上学園を辞めようとする者を増やしたくはない。アーサーが異常であり、お前達こそが普通なんだと言った所で決意を変える事はできないかもしれないが…な。




 私は何をやっているのだろうか、折角姉が慰めてくれたというのにその好意を無下にして逃げ出してしまっている。

 でもしょうがないじゃないか、私は姉さんの様に完璧にはなれないのだから、どれだけ鍛錬を続けても狂い桜・満開を会得できそうにない私は、一体なんなのだろうか。


 姉さんはブレインに頼りきるという事が嫌いだ、だからこそブレインが関係なく己が技量によって全て決まる流派を極める道を進んだ、対して私はどうだ、《斬撃支配(スラッシュショット)》に頼り、狂い桜を心の拠り所にしている、中途半端な私だから中途半端な実力しか身に付かないのだろうと自虐したくもあるがそれはできない。

 なぜなら東雲と言う男にだけは負けたくないから、私の状況を見て手を抜いたあの男を私が認めてしまったら、それこそ本当に私は弱者になってしまう。

 思い出せ自分が昨年の剣聖祭で何をされたのかを。


「ゼェ……ハァ……し、東雲!何故手を抜く!」

「手は抜いていないよ、こっちも全力だ」

 鍔迫り合いをしながら目の前に佇む男と対話をする、いや対話と言うにはこちらから一方的に話しかけていて、それを東雲がご丁寧に返してくれていただけだ。

 私は剣聖祭の準々決勝と言う大事な時期に、自らの生活を狂わせ風邪を引いた、それだけならば私も東雲に劣情を抱いたりしない、これは私の不手際であちらは何も悪くないのだから、けれどアイツは。

「それならば、何故ブレインを使わない!」

「先輩と全うに戦いたいから、使わないんじゃない、使うつもりが無い」

 その言葉に私の心は火が付いた、許せなかった、どうせやるならボコボコにして欲しかった、けれどアイツは…東雲は…手を抜く事で《全てを習得する(オールラーニング)》を封じる事でせめてでも対等で、平等であろうとした、だから私は。

「同情のつもりか!情けのつもりか!そんなモノを私は!」


 ここからの記憶は曖昧だ、ただ覚えているのは次に目が覚めた時に私は負けていて、病床の上だったという事。

 姉さんに怒られた、専属の鍛冶師にも怒られた、どうしてそんな無理をして戦いに挑んだんだと、もしかしたら最悪死んでいたかもしれないんだぞと、本気で怒られた。姉さんに本気でボコボコにされる事はあっても、本気で怒られた事はなかったからその時は少しだけ嬉しかったのを覚えている、でも悔しいじゃないか学園に入るまで、名前すら聞いた事の無い1年がいきなり予選を勝ち抜いて、全く苦戦せずに剣聖祭を勝ち上がっている。

 なんでお前は無名だったんだ、なんでお前はそこまで強いんだと思いながら過度なスケジュールを剣聖祭中に組んだ私が愚かだった。

 敗戦した私にできる事は剣聖祭が終わるまで、暇をつぶす事だけだ。だから私はずっと東雲武蔵と言う男の戦い様を見た。

 相手の技術を自分のモノにする戦い方、酷い酷評の嵐だったことは覚えている、ブレインのお蔭と(ののし)られていたのを私は覚えている。

 最初は私もそう思った、相手の技術をコピーしてより高みへ向かわせる技、確かに異常だといってもいいブレインだ、けれどそのブレイン以上に東雲武蔵と言う男がどれ程天才なのかを、私はこの目で見てしまった。

 《斬撃支配》を簡単にいなす事のできる俊敏性と判断力、それに異常とまで言っていい程のアウトレンジからの攻めと守り。

 万全ではない、しかしそれでも私はブレインを使って、そして東雲はブレインを使わずに私を完封した、それが意味するのは東雲武蔵と言う人間がどれ程優れているかと言う証明に他ならない。

 それをわからずにギャラリーはその特性をずるいと罵る、それは私にとっても侮辱だ、ずるいと言われる特性を使われずに私は完封されたのだから。

 どれだけ追いかけても届きそうにないと感じたのは姉も合わせて二人目だった、今はアーサーと言うバケモノを入れて三人だが、しかし劣化としたとは言え一度は追いつき届いたのだ、だから今度も届いて見せる、それしか私が狂い桜の継承者であるという証明はできないのだから。


 しかし疑問に思う事がある東雲の開花は完璧だった、完璧に狂い桜・開花であったはずだ、それは私から見ても姉さんから見ても確かだったと思う。

 ではどうやって東雲は狂い桜・開花を会得したのだろうか?《全てを習得する瞳》でコピーをしていたのだろうか?だからこそ一度《習得し尽くした(ラーンド・アイ)》で未完成の開花を実行したのだろうか?いやそれはおかしい《習得し尽くした瞳》で使用した段階では、とても開花とは思えない技だった、けれど東雲は相手の攻撃を食らう事で試行回数を得て着実に完成へと近づけたという事になる、それはもはやブレインに頼った習得方法ではなく、たった一試合のたった数分で習得したという事を意味する。

「異常……」

 つい口に出してしまうがそれ以外に思い当たる言葉が無かった、異常と言うほかならないだろう、そんな数分でやってみようと言う事をやれるというのは、恐らくアーサーですらできない事だ。

 そう考えると笑えてくる、私と同レベルの存在とは思ってはいなかったがまさか次元すらも違うという事を改めて教えてくれる東雲武蔵と言う存在に私は挑み勝とうとしているのだ。

「はは……」

 渇いた笑いが一人寂しい空間に響く。

 私は勝負に絶対は無いと信じている、それがたった数%であってとしても己が実力で手繰り寄せることが可能だと信じている、それでも今の私ではアイツに勝つビジョンが一切見えない、たった数m先すら見えない猛吹雪の中で落としてしまった小銭を見つけよと言わんばかりの難易度だと私は思う。

 しかしそれでも見つけようとするのであれば、もはや文明の利器に頼るほかなるまい。他の対戦相手を気にする事は辞める、そうする事で苦戦する事があったとしても、私は東雲武蔵に追いつきたい。

 すぐさま自身をサポートしてくれる人間に東雲武蔵の映像や直近の戦闘、鍛錬記録を集めるように自身の通信端末でお願いする。全て暴いて見せる、どのように成長したのか、どのような癖があるのかを、おはようからお休みまでの間にどれだけ剣舞に打ち込んでいるのかも、全て。そこまでして私はアイツに並ぶことができると思うから、姉さんやアーサーそして東雲が見る景色を私も見たい。

「そうか、そうだったんだな」

 私と言う人間は、東雲武蔵を恨んでいた訳ではないのだろう、ずっと妬み続けていたんだ、自分ではどうあがいても辿り着けない領域に立っているアイツを、その領域に居る癖に、楽しくないとツマラナイと吐き捨てる東雲に、どうしようもなく憧れていたのだ。

 時間が既に残っていないというのも分かっている、けれど私はその短い時間でも並んで見せる、もう妬む事はしない、もう恨み言を言うつもりも無い、どれだけ大変でも。

「そう、それでも」

 私は東雲武蔵という天才に勝ちたい。


今回セリフパートが殆ど無いんですけれど、大丈夫ですか?読みづらいでしょうか?よろしければお教えいただけると幸いです。

本文を読んでいただき誠に感謝します

ここまで読んでいただいた皆様、ここまで読まなくても本文は読んでくれた皆様、そして前書きで読むのを止めた方や途中でつまんないと思ってブラウザバックされた皆々様全てにこの作品を一度開いていただいた事を感謝します。

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