表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
ロマンスなんて始まらないから!【現代・女主人公・コメディ・短編連作】
8/45

ロマンスは継承するものじゃないから!

「あらあらあらあら」


 仕事帰りの夕暮れの中。いつもと同じ帰り道をたどっていると、後ろからおばあちゃんの声が聞こえてきて私と浜田は振り返る。


「ああ。こんにちは」


 ニコリと笑う浜田に、どうやらこのおばあちゃんも、浜田が助けた人なのだと理解する。


「良かった! 会いたいと思っていたところなのよ!」


 おばあちゃんは浜田に近寄ると、浜田の手をがっしりとつかむ。


「あの時は、本当にありがとう。本当に助かったわ」


 感激を体全体で表すおばあちゃんに、浜田が少し戸惑っている。うん。どんなことがあったのかは知らないけど、おばあちゃんの反応は私から見ても結構過剰だ。

 まるで、恋する乙女みたいな。


 でも、あながち外れてはいないのかもしれない。おばあちゃんのその瞳は、キラキラと輝いていて、浜田を見る目がハートに見える。


 恐るべし浜田め。

 流石だな人タラシめ。


「お礼をさせて頂戴な! ちょっとうちに来てくれないかしら?」

「いえいえ。当然のことをしたまでですから」


 まあ、この返事は浜田のデフォルトだ。

 そもそも浜田は通常運転。ちょっとどころじゃなくて人よりお人好し。


「本当にあの時嬉しかったのよ。ね? ちょっとしたものくらいしか出せないけど、お夕飯食べて行って?」

「いえいえ。そこまでのことしてないですから。お礼を言っていただいただけで充分ですよ」

「本当に、いい人ねぇ、あなた。そんなんじゃ人生損してしまってるんじゃないの? 大丈夫?」

「大丈夫ですよ。ですから、そんなにお気にされないでください」


 流石浜田。おばあちゃんに人生の心配までされている。

 でも、損しているかしていないかは微妙なところ。実はその親切心が発揮されたおかげで取ってきた契約が一つや二つじゃないからだ。

 浜田恐るべし。


 でも、つれない浜田の返事に、おばあちゃんがため息をつく。


「ごめんなさいね。駄目ねー。若い人無理やり捕まえちゃって。…一人暮らしが長くて、つい話し相手を探しちゃうのよね」


 あ、それは、結構ダメなワードだ。

 

 案の定、浜田がちらりと私の顔を見る。

 お伺いを立てる、みたいな。

 あー。どうせ、こうなったら行くんでしょ。いいわよ別に!

 私がこくりと頷くと、浜田がホッとした顔をした。

 何せ、浜田はお人好しだ。 


「あの、2人で良ければお伺いさせてもらいますけど」

「あら! いいわよ、いいわよ。1人より2人の方がにぎやかだし。」

 

 パーッと笑顔になるおばあちゃんに、私はいい選択をしたと思うしかない。

 ま、後味は悪くはない。




****




「おばあちゃん。呼び出したのって何?」

「あ、来たわ来たわ!」

 

 私たちが居間に座ったタイミングで玄関の方から聞こえた若い女性の声に、おばあちゃんの声が跳ねる。


「おばあちゃんってば! …あれ、こんばんは?」


 居間に顔を出した若い女性が、ペコリと頭を下げる。


「ほら、梓! 言ったでしょ、おばあちゃんを助けてくれた人!」

「ああ! その節は祖母が大変お世話になりました」


 どうやら浜田に助けられた話は、このお孫さんと思われる女性に伝えられていたらしい。

 女性はぺこりと頭を下げると、おばあちゃんの隣に座る。


「いえいえ。大したことはしてませんから」

「いいえ。祖母にとっては大したことでしたよ。私にわざわざ電話してくるくらいでしたから」

 

 ニコリと笑う女性に、おばあちゃんが、もう、と女性の肩を叩く。


「だって、こんないい人がいるなんて思わないじゃない。今の日本も捨てたものじゃないって思うでしょう?」

「そうね」


 この2人はとても仲がいいらしい。見ていてもほのぼのするやり取りだ。


「だから、今日も来てって連絡したんでしょ」


 おばあちゃんの言葉に、浜田をちらりと見た女性が恥ずかしそうに顔を伏せる。


「おばあちゃん、唐突すぎる」


 おや?

 どうも、話が変な方向に行ってないかな?

 当の浜田も、変な話の方向に行っているのに気づいたらしく、私を見て苦笑する。


「ねぇ、浜田さん。うちの孫娘とか、どう?」


 なるほど。おばあちゃんが惚れるほどの相手だ。孫娘にどうか、と思って当然かもしれない。


「すいません。彼女、僕の妻なんです」


 私を指す浜田の言葉に、おばあちゃんが目を見開く。

 隣の孫娘さんも、え、と声を漏らす。


 道すがらではおばあちゃんと浜田が盛り上がっていて、私の存在意味を問われることもなかったので、妻だとはわざわざ言うタイミングもなかったし。

 それで、座って、それから問われるのかなー、と思っていたら、問われる前に孫娘さんがやってきた。

 で、今に至る。


「そうだったの!? 単なる同僚の方なんだと思ってたわ!」

「おばあちゃん! 早とちりやめてよ!」


 顔の赤いおばあちゃんと孫娘さんは、まあ、反応がよく似ている。

 だから、もしかしたら、好きになる人の傾向も似ていたのかもしれない。


 わからなくはいないけどね。

 自分が好きだと思った男性を孫娘に紹介したいって気持ち。


 でも、ロマンスの妄想はおばあちゃんの乙女心を発揮するのだけに使って欲しい。

 

 本当に浜田は人タラシで困る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ