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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
ロマンスなんて始まらないから!【現代・女主人公・コメディ・短編連作】
6/45

ロマンスなんて妄想の産物だから!

4話の短編連作になります。

 駅の構内に入ると、少しひんやりした空気が届いて、蒸し暑い外気から少しだけ切り離されてほっとする。それが仕事帰りだから尚更。


「あの…」


 私の後ろからかけられた声に、私とその隣に立つ同僚でもある浜田が振り向く。

 その声をかけてきた女性の表情から、私は何が起こるのか悟る。

 今からこの女性は、浜田にアプローチします。

 多分、いや十中八九間違いない。


「この間はありがとうございました! あの、これ大したものではないんですけど、お礼です!」


 ほら、始まった。

 浜田は差し出された贈り物に困惑した表情をする。


「いや、いいよ。そういうつもりで助けた訳じゃないし」

「いえ、でも本当に助かったんです。だから、気持ちだけでもって思って!」


 本当に気持ちだけ? 彼女のその表情は、そうは言ってない。

 もしかしたら、そういう気持ちが溢れている。


「本当にいいから」


 固辞する浜田に、女性はちらりと私を見て、もう一度浜田を見て口を開く。


「じゃあ、せめてなにかおごらせてください。そうしないと、私気がすまないです」


 確実にプレゼントより単価上がったんじゃないかな。多分プレゼントハンカチサイズだもんね。


「一体何助けたの?」


 そこまで気がすまないと言われる何かって何だろうと言う素朴な疑問だ。


「私が貧血で倒れそうになったときに、支えてくれて、お水買ってくださったりとか、駅員さん呼びにいってくださったりとかしてくれたんです」


 うっとりと説明してくれるこの女性は、きっと浜田が実物より数倍美化されてるに違いない。

 まあ、顔は普通と言っていいけど、その優しげな顔と、支えられたら意外にがっしりとした体つきにギャップを覚えて浜田にハマる人も多いと知っているから、特に疑問はない。

 もう、見慣れてしまった光景過ぎて、呆れるを通り越して達観している。

 この人タラシめ。


「いつもやってることだし、お礼言われるようなことないから」

「え?」


 自分だけが特別だ、そう思いたかっただろう彼女の妄想をぶったぎったのは、他でもない浜田だった。


「コイツ、誰にでも親切すぎるお人好しなの。だから、昨日も似たような人助けて仕事遅刻しそうになったんだよね」


 私は補足情報を追加する。

 昨日の朝、通勤の時気がつけば隣にいたはずのコイツが消えていた。

 焦った私がラインをすれば、救護のために駅降りたって言うから、慌てて引き返してバトンタッチして、コイツはタクシーで送り出した。マジでプレゼン間に合わないとかないから!

 そうしないために朝一緒に出勤したのに意味なかったし!


 この尻拭いが、まだ知り合う前の大学入試にいく前から始まったとか、本当に信じられない。

 朝、受験のためにホテルを出た私は、一緒に出たまだ名前も知らぬ浜田のことを、単なる同じ受験生だと思っていた。だけど、浜田は侮ってはいけなかった。コイツはお人好しすぎて、土地勘もないはずの場所で道を尋ねられて、あまつさえその場所を探そうと一緒に行こうとしだしたのだ。

 受験生が一人へると合格率は上がるかもしれないとよぎったけど、良心のせいでそういうわけにもいかず、私はコイツを受験会場に連れていくべく、ここに来たのは初めてで場所がわからないんです、と相手に断って、コイツを無理やり試験会場に引きずっていったのが、私たちの関わりの始まりだ。


 お人好しにもほどがあるだろうって思うけど、浜田は放っておくとか見ないふりをするとかができない性分のようで、その性格は出会ったときから変わることがない。

 だから私が浜田の尻拭いをした数も数知れず。


 はぁとため息をつくと、まだ彼女がそこにいて、どうやら話は終わってないと見える。


「あの、助けてもらって気になるようになったんです。ご飯、一緒に食べに行ってもらえないですか?」 


 どうやら今日の女性は、自信がある系のようだ。今の話の流れでまだ誘おうとする女性は、大体そんな雰囲気だ。

 だから私が隣に立ってたって、ちらりと顔をみて勝てると思ったのか、コイツと呼んだから単に同僚か何かだと思ったのか知らないけど、彼女はきっとこれがロマンスの始まりに違いないと信じてるだろう。


「悪いけど、おれ、この人いないと生きられないから、他当たってくれる?」


 ま、浜田の言ってることはあながち間違ってない。昨日も私がいなければプレゼン成功しなかったはずだ。


「浜田、それ依存されてるっぽくて嫌なんだけど」


 でも、お人好し機能さえ発揮されなければ、浜田は仕事ができる。だからこそ、本当の意味でプレゼンは成功したのだ。


「えー。じゃ、この人じゃないと嫌だから、ならいいの?」

「ま、いいんじゃない」

「っていうか、自分も浜田さんなのに浜田って呼ぶのやめて」 


 え? と声を漏らした彼女が私の左手を見る。指輪はない。


「そう言うことなので、もういいですか?」


 指輪がなくったって結婚している。

 最初から言ってやれよって思う?

 でもさ、隣に私が立ってるのにアプローチ普通にしてくる相手に気遣いなんている?

 それに、お礼を言ってる人を妻ですって威嚇する人間って何だか嫌じゃない?

 それで真実を伝えるのが大体こんな流れになっちゃうのだ。

 仕方ない。


 でも気を付けて。

 ロマンスなんてそこら辺に転がってるわけないから!


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