4 福は内?
「二十五」
25才の時から5年間。
社会人になって初めて再会して、やっぱり好きだな、って思って。
でも、付き合えるようになるなんて思ってもなくて。
付き合い初めてからも、やっぱり好きだな、って、ずっと思い続けて、5年。
「二十六」
付き合って1年くらいの時には、イベントで一緒に過ごすだけで嬉しくて、他には何にも要らないって思ってたのにな。
どうして、どんどん人って、わがままになっていくんだろうな。
「二十七」
クリスマスに、初めて指輪をもらって、嬉しくて泣いちゃって。
元彼がワタワタしてたな。
それまでも幸せだったけど、もっと幸せな気分になって。
……もうはずしてしまったけど、まだ残している。
あの幸せな気持ちを、捨てられるわけもないから。
「二十八」
元彼も、私と同じくらい好きでいてくれるのかなって思えたから、昔思ってたことを口にしても大丈夫なのかな、って思って。
軽い感じで話したら、元彼がニコニコして、いつかできたらいいね、って言ってくれたことに、一人で勝手に舞い上がって。
結婚できるつもりになっちゃって。
「二十九」
いつプロポーズしてもらえるんだろうなー、って思ってたら、改まった元彼に、あ、と思ったら。
起業しようと思う、って言われて。
期待したことと全然違って、心のなかで苦笑して。
でも、元彼が頑張るって決めたことだから、心から応援するって決めて。
「三十」
そして、結局私と元彼は、道を違えるしかなかった。
それは、どちらもが悪くて、どちらもが悪くないことだ。
もし、一つだけ願いが叶うのなら、元彼が幸せでいてほしい。
今でも好きだから。だから、せめて笑って過ごしていてほしい。
まだ袋にたくさん残った豆を見て、苦笑する。
本当に三十、数えるとか思わなかったな。
でも、良い儀式だったかもしれない。
元彼のことを、本当に終わりにするための。
きっと、もう元彼は、前を向いて歩いているだろう。
だから、私も前を向いて歩き出さなきゃ。
元彼との時間を、無駄だったなんて思いたくないから。
私に残された思い出と幸せだった気持ちを、これからの人生のかてにしなきゃ。
私は息を吐くと、スマホをつかんだ。
親友に、報告しなきゃ。
元彼と別れたことを。
ついでに、誰か紹介してもらおうかな。
恋を忘れるためには、新しい恋だって言うし。
……もう前を向いているんだって、伝えなきゃ。
*
ピコリ、と返ってきた返事に、あ、と思う。
『行くから』
そんなつもりじゃなかったし!
しかも今日平日だよ! 明日も仕事だし!
「そんなつもりじゃないから!」
『もう向かってる』
ゴメン、ありがとう。どちらもの言葉が、同時に押し寄せる。
やっぱり、持つべきものは親友だ。
ピンポーン。
インターホンを見るまでもなく、あわてて玄関に向かう。
ガチャリとドアを開ける。
そこには、泣いている元彼がいた。
「ゴメン、諦めようと思ったんだけど、無理なんだ。……聖奈のためには別れた方がいいって、わかってるんだけど……。俺のことに執着してないこともわかってるけど……」
これは、親友からの誕生日プレゼントなのかな?
完
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただければ、幸いです。