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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
プロポーズのその後で【切ない・女主人公・ざまぁ】
40/45

 乗り込んだバスは、いつも乗ったことがない行き先のバスだった。

 たぶん、終点まではあと1時間くらいかかるだろう。


 一番後ろの窓際の席が空いたから、そこに座って、外の景色を見る。

 誰かの車で行ったことがある方面ではあったけど、バスで行くのは初めてで、景色が違うように見えた。…何も心は踊らないけど。自分で墓穴掘ったようなものだけど、ダメージだらけだ。

 きっと、私があの時清春の子供がほしいな、とか思わずにいたら、私はまだ清春の部屋でのんびりと過ごしていたんだろう。

 だけど、きっと。遅かれ早かれ、こういうことは起こったんじゃないかと思う。


 結婚はタイミングだって友達たちに聞いてはいたけど、本当にそれを実感する日が来るとは思わなかった。

 もう11年も付き合っているから、そのうち結婚するんだろうなぁ、と私の方は何となくは想像してたけど、 清春はきっと想像もしてなかったんだろう。清春も同じように思ってるだろう、なんて、私の思い上がりでしかなかったんだと、今気づく。

 11年付き合ってるからって、相手の心をすべてわかるわけもないってことを、今更思い知らされる。


 …そもそも、清春が私と付き合いたいと思ってくれたのだって、奇跡的なことだったんだと思う。清春は毒舌だ。私も負けず劣らず毒舌で、1年の頃は顔を合わすたびに喧嘩をしていた。でも、私が毒を吐いても、嫌そうな顔もせずに嬉々として戦ってくれる清春に、いつの間にか惹かれていた。だから、清春に毒を吐くのは、私なりの愛情表現で、友達にはわかりづらいし相手にも伝わらないからやめろって言われてたけど、それでも私は辞めれなかった。

 だから、清春とこうやって喧嘩友達でいられるだけでいいやって、思っていたのだ。


 だけど、清春が付き合いたいって言ってくれて、私は二つ返事でそれを受けたわけだけど、もうその時点で、私と清春の気持ちには乖離があったのかもしれない。清春のことを好きで好きでしょうがなかった私と、ちょっといいな、と思うぐらいで付き合おうと言ってくれたのかもしれない清春と。

 それが11年間積み重なってきた結果で、今日があるんだと思うから。その乖離はもっと大きくなってるはずだ。

 自分で考えながら、自虐的だな、と思う。


 ふと、誰かに言われたことをまた思い出す。

 長すぎる春は結婚遠ざけるって言う、と言われて、私たちには当てはまらないと思いながら、それで? と答えたのは半年くらい前のことだったか。

 あの時の自分がどれだけ己惚れていたかということが、今日分かったわけだけど。

 

 清春を認識したのは、大学の入学式の日だ。あ、かわいい、と思ったら、男物のスーツを着ていて面食らった。それぐらい、まだ幼さがある女の子のような姿だった。

 毒舌を持つことを知ったのは、新歓コンパの時。

 かわいさをからかう男の先輩に、これでもかと毒舌を吐いた。そのギャップにその場は騒然としたし、毒舌を吐かれた方の先輩はお酒の力もあって怒り狂い出すし。


 でも、外に出ろとのたまう酔っぱらいに、僕黒帯なんですけど別にどうなってもいいんですね?と念押しして怯ませた。まだ怒りを滲ますその先輩を落ち着かせたのは、今も清春の友達をやってる滝田くんと茂木先輩(一留して同学年なんだけど先輩呼びを強要された)で、それでその新歓コンパはお開きとなった。

 で、その毒舌っぷりに、かわいいとどこかペットのように可愛がろうとしていた女子たちは戦意を喪失したみたいで、清春の回りをふわふわしてた女子の同級生たちは、完全に愛でる対象として遠くから眺めることにしたらしい。なので、清春の周りは急に男くさくなった。


 そんなドン引きされる感じの毒舌をもつ清春に、私が何を思ったかと言えば、毒舌であいつを負かしたい、という欲求だった。

 私自身も毒舌が過ぎることは自覚していて、ただ私と同じくらい毒舌を吐く人は同級生の中になかなか見ることはなかった。

 だから、単純にその毒舌を戦わせて打ち負かしたいという欲求が沸いてきた。

 そして、私は挑んだ。だけど、あとわずかなところまでいっても勝てることは少なくて、負け込んでいた。一勝した頃には十敗してる、みたいな。


 1年も経てば、私と清春が犬猿の仲だと皆には認識された。でも、私の中にはそれとも違う気持ちも生まれてきていた。

 それまで、毒舌を吐いても、うんざりした顔をされたことはあっても、キラキラとした目で楽しそうに対峙されたことはなかったから、途中からは、そのキラキラとした目を見たくて清春に戦いを挑んでいたのかもしれなかった。

 キラキラとした目をした女の子みたいな清春は、一部が囁く天使のように見えたし、私の気持ちを強く惹いた。


 私たちの転機はあれだ。

 2年に上がってからの新歓コンパ。

 何の因果か、そこでまた清春は毒舌を吐き、私もそれに加勢した。

 そう清春対私、という構図ではなかった。

 きっかけは、2つ上の中森先輩と言うハーフの美人な先輩について、別の先輩が下世話なことを言い出したからだった。


 その時は付き合ってなかったらしいけど、中森先輩は滝田くんと仲が良いい(恋人同士だと思っていたほど!)けど、他の人に対してはあまり関わり合おうとはしない人で、その飲み会にも来てはいなかったけど、滝田くんはきていて、それに中森先輩に横恋慕していただろう先輩方が絡んできたのだ。

 最初のうちはまだ聞いていて耐えれる内容だったものが、滝田くんが大人しく否定するだけでいるのに余裕を感じて気を悪くしたのか、先輩たちが調子に乗りすぎたのか、どんどん下世話さは増していった。 聞いていて気分が悪くなるほど。


 滝田くんはそれでも怒りを抑えつつ静かに否定していたんだけど、清春が耐えられなくなった。

 去年と同じく場はしんとして、清春の独壇場になるかと思われた時、先輩方の中に潜んでいた毒舌ファイターが名乗り出た。

 年の功と言うべきか(確か6回生だった)、中身はえげつなくて仕方ないのに、正論なのに清春が押された。

 清春が私以外に負けるのが許せなくて、私は加勢した。余裕で勝てるかと思ったけど、火に油みたいになって、更にヒートアップして。何とか鎮火した時には、辛勝って感じ。ただ、それは先輩対私たちの構図の上だけで、その場の空気は完全に私たちの味方だった。だから耐えきれなくなった先輩方が去ったのだけど。


 ちなみにこの話には後日談があって、楯突いた私たちにあの先輩方からの報復は全くなかった。

 なぜなら、あの場で静かではあったけど一番怒っていた滝田くんが、あの会話をレコーダーで録音していて(確かに、この会話録音してますけどと忠告していた気がする)、これで名誉毀損で訴えられるし、 これを教授陣が聞いたらどう思うかよく考えろと脅…諭したらしい。

 少々抵抗があったらしいけど、他の学部で教授をやっている中森先輩のおお父さんが出てきたらもっと厄介ですよ、と更に脅…諭したら大人しくなったとのこと。我々のなかで一番敵にしちゃいけないのは滝田くんだとの共通認識になったのだけど。


 …まあそれで先輩方が帰ってようやく落ち着いて私はへなへなと力が抜けて。それを支えてくれた清春の腕の中が心地よいことを感じながら、達成感を感じて清春に笑いかければ、清春の目の中に、今までは感じられなかった熱を感じて。

 そのあとろくに言葉を交わさないまま、私は清春の部屋に連れていかれて…付き合うことになった。

 それまでは、喧嘩を吹っ掛けている限りは清春にそういう対象として見てもらえることはきっと無いなと思っていたから、私としても驚きはあったけど、あの事がなければきっと清春のそういう対象とはならなかったんじゃないかと思っているから、二度となくていい出来事ではあるけど、私にとっては忘れられないきっかけになった。


 それから11年。

 カッコ良くなった清春に言い寄る子はいるけれど、いつも毒舌で撃退してるのを見てきたから、私が清春の唯一なのだと安心はできていた。私は私で毒舌なのが知れるとそれだけで恋愛対象から外れるから、モテたことも、告白されたこともないし、我々の間に波風は立つことなくいつの間にか11年経っていたっていうのが私の認識だ。

 …いや、わずかには立たせられていたのだけど。清春のことを好きだと言う女性たちの嫌味によって。でも、それは彼女たちの勝手な言い分だとわかるから、大きな波など立つわけもなく。ただ、それが全く波をたたせないか、と言えば、ほんの小さなざわめきほどの波くらいはたたせられるわけだ。


 毒舌なのが物珍しくて付き合ってもらえてるのよ、なんて、当たり前のこと過ぎて、それで?としか思わないけど。

 そんなんだから結婚の話が出ないんだ、と言われたら、流石にチクリとはする。

 付き合う相手と結婚する相手は違うっていうから、と言われたときには、結婚を約束してるわけでもないから言い返す言葉があるわけもなく。

 全部それで?って返すから、言いがかりをつけてくる相手はおしなべて私にダメージを与えられないことを悔しがって帰っていくけど、ダメージが全く無いわけではない。


 それがもっと目に見えるダメージだったら、私は清春に言葉にして訴えていただろう。だけど小さな小さなかすり傷にもならないダメージの積み重ねは、思いの外私の気持ちを苛んでいたようだ。

 さっき、結婚のことを尋ねて、清春が「今は無理」と言った時、あっさりと言われたことにショックもあったけど、実はああやっぱりという気持ちもあった。それは…。


「お客さん?終点ですよ?」


 肩を叩かれてびくりとすると、バスの運転士さんが一番後ろの席まで来ていた。


「降り損ねたかな?あと10分もすれば折り返しますけど?」


 窓の外を見て、どうしようかな、と思う。

 …のどかだ。ここで降りても仕方ないしな、と思う。

 うちに帰る手段はこのバスに乗って駅方向に向かうしかない。


「そうしま…。」

「佳織。」


 名前を呼ばれて、驚く。

 なぜ?

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