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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
プロポーズのその後で【切ない・女主人公・ざまぁ】
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 かわいい!

 送られてきた写真を見て、ベッドで悶える。

 本当に天使だ! 

 生まれたばかりの小さな女の子と、その女の子を大事そうに抱える4歳の男の子。二人ともかわいい!


 悶えつつも、おめでとうございますの言葉と、お見舞いに行きますねの言葉を返信する。

 ああ、いいな、赤ちゃん。

 そう思って、ソファーに体を預けてゲームにいそしむ清春を見る。


 清春は、少なくとも10年くらい前までは女の子に間違えられるくらいかわいかった。でもだんだん…特にここ数年、男らしくなったと思う。…ベッドの中では11年前から男らしいと思っていたけど、ここ数年で、それが表に出てきたみたいな感じだ。…だから、昔はマスコットみたいに見られていたのに、二十歳を過ぎてから伸びだした伸長と共に、余計にモテるようになった。

 …ああ、今はそれはいいや。


 そんな感じで、清春の見た目は整っているし、私もそれなりに整っているらしい(清春談)から、私たちの子供もかわいいと思うんだけど。

 はた、と思う。

 どうして私たち結婚しないんだっけ?

 付き合い始めたのが20歳くらいで、私はもう31歳になった。つまり、もう11年の付き合いになるんだけど、なぜ私たちの間には結婚の話が出ないんだろうか。

 …一人で考えても仕方ない。聞こう。


「ねぇ、清春?」

「ん?」


 ちらりと私に視線を向けた清春は、またゲーム機に視線を戻した。先週買ったばかりのゲームに、清春は夢中だ。


「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「どうぞ。」


 視線はゲーム機に残したままだったけど、一応意識を私に向けてくれたことはわかったから、単刀直入に言ってみることにした。


「結婚しよ。」

「今は無理。」


 あっけなく断られた。しかも清春はゲーム機から顔を上げもしない。あまりにあっさりとした断りの言葉に、一瞬、思考が止まる。


「無理、なんだ?」

「無理、だね。」


 問い直してみて、ようやく頭の理解が追いつく。

 清春は言った。“今は無理”って。

 学会の発表は先月あったばかりで、今は論文に追われてるわけでもない。受け持ちの患者さんがいるのはいつだって同じで、忙しいのはいつだって同じ。それは私も同じだからわかることだ。

 …それなら、いつになったら無理じゃなくなるんだろうか。

 それを、私は待たなきゃいけないんだろうか。

 もう付き合い始めて11年も経つのに? 確かに私たちは医者で、まだ独り立ちしてから日も浅い。一人前とは言えないかもしれない。

 けど、子どもはいつでも産めるわけじゃない。私は31だ。再来月には32になる。欲しいと思ってすぐできるわけでもないし。従妹は結婚して10年経ってようやく授かっていた。それを見ているから余計。

 今じゃないいつかを私はずっと待っていられる?


 清春のことは好きだ。結婚したいと思うし清春の子供が欲しいとも思うくらい好きだ。

 …でも、清春の性格なら言いそうなものだけど、清春はそのいつかを示してはくれない。しかも、清春には、その曖昧ないつかの約束を果たす義務なんて存在もしない。

 …それに、“今は無理”って言ったとき、顔すら上げてくれなかった。そんな約束ですらない約束が、有効になることがあるんだろうか?

 そもそも、私が“結婚しよ”って言ったのに、喜びもせず、あっさりと断ったわけだから。


 あ、もう無理だ。うん。確かに無理だ。

 私は無言で立ち上がると、バッグを持って、玄関に向かう。


「帰るの?」


 さっきまでゲーム機に視線を向けていた清春が、私を見る。清春が学生のころから住んでいるワンルームの部屋は、ソファーと玄関の位置が近い。

 私は靴を履いてドアを開けると、体を外に出してから、清春を見る。


「うん。別れる。私の荷物は捨ててくれていいから。じゃね。」


 ドアが閉まる前に、清春が何か言ってる声がしたけど、もう聞きたくはなかった。だから、足早にマンションを後にした。パジャマ姿の清春が外に出てくるとは思えなかったけど、一刻も早く、ここから立ち去りたかった。

 丁度マンションの目の前にあるバス停でバスが止まったから、どこ行きのバスかも確かめず乗り込む。

 今は別にどこ行きのバスでも良かったから。とりあえず終点まで行って、それから考えよう。

 泣きたい気持ちを我慢したまま、私はバスに揺られることにした。

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