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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
電車が来るまであと5分【切ない・幼馴染・大学生・高校生・年の差】
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電車が出るまであと5分

 信号が青になるのを必死に待つ。

 いつもなら気にならない待ち時間が、異様に長く感じる。

 トラックが連なる交通量の多い道でなければ突っ切りたい。けど、本当の意味で二度と会えなくなるとかシャレにならないから、絶対しない。

 時計を見れば、電車の時間はあと5分。

 担任が模試の結果をさっさと配ってくれていれば、余裕で間に合うはずだった。

 でもお陰で現実味のある約束が出来るからと、カバンに入れずに手に握りしめたままの模試の結果を落とさないように握りなおした。これは約束の切符だ。

 信号が変わったら、全速力で自転車を漕ぐしか俺には選択肢はない。

 幼馴染の乗る電車が、もうすぐ出てしまうから。


 2年前まで単なる2つ上の幼馴染だと思っていた。

 それでも、誰にも明かしたことがない進路希望を、俺だけにそっと教えてくれたことが嬉しかった。

 いや、誰も知らない幼馴染の夢を一番初めに俺に教えてくれたことが嬉しかったんだと、今ならわかる。

 俺は幼馴染にとって特別なんだと、そう理解できたから。

 でも、幼馴染が離れていくことが現実味を帯びてきたとき、俺は複雑な気持ちを持つようになった。

 幼馴染の夢を応援したい気持ちと、大学に受からなければいいのにと願う気持ちと。

 あの時は、俺と違って夢を持って邁進する幼馴染に嫉妬してるんだと思っていた。俺には夢と言えるものも目標と言えるものもなかったから。

 だから置いてきぼりになるような気がして嫌なんだと思っていた。

 いつでも会える相手が、いつでも会えない相手になって、それでも俺は気付いてなかった。


 気付いたのは、長期休みで実家に帰ってきているはずの幼馴染が、俺の前に顔を出してくれなかったから。


 会いたい。


 今までだったら、幼馴染が会いに来てくれていた。だから、来てくれると思っていた。

 でも、来てはくれなかった。

 GWも、夏休みも、冬休みも、春休みも。

 一度も顔を出してくれない幼馴染に、恋心だけが募る。


 GWはすれ違って会えなかった。だから夏休みは家にいるのを見計らって会いに行った。

 幼馴染が帰る日、俺の補講が終わった後の電車を選んだのは、どうして?

 己惚れる気持ちが、自転車を漕ぐ力を与えてくれる。


 投げるように自転車を置いて、もつれるように走り出す。

 駅の待合室の中に人気はなくて、焦る気持ちで駅舎の隣のフェンスを目指す。

 幼い頃、そこから電車を眺めた記憶があったから。


 ガシャン! と勢いよくフェンスにぶつかり、幼馴染の名前を呼ぶ。

 振り返った幼馴染に、俺は今の気持ちを叫ぶ。

 乗るはずの電車が乗客を吐き出したのに、幼馴染は俺を見たまま固まっている。

 この電車は飛行機の時間ギリギリだと言ってたのに。

 俺が叫べば、幼馴染が我に返って電車に乗り込む。


 幼馴染の視線が俺と絡まったまま遠ざかる。


 幼馴染から好きと言われたことはない。

 だけど、幼馴染が頷いてくれたから。


 そう考えて、ようやく息をつくと、肝心なことを思い出す。


 まだ好きって言ってない。


 完

このファイル、どこかで見かけた気がするんだけどなぁ、と思って、ずっと探していたんですが、「5分」というキーワードでは全く引っかからず。

最終的に「電車」というキーワードで引っかかり、発見。

ファイル名「そして今」……。わかるわけないわ!

どれだけ適当にファイル名つけてるかわかる話です(笑)。


最後までお付き合いいただきありがとうございました。

楽しんでいただければ幸いです。

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