後日談③
「ねえ、これ何なのよ。」
私は差し出された紙を見て、前に立つ従兄弟を見上げる。
「え? 契約書だよ。そこの下にサインして。」
しれっと言う従兄弟に、私は大きくため息をついてやった。
「この契約書の紙質と、名前書くところの紙質が全然違うんですけど!」
「気のせいだよ。」
従兄弟よ、目を逸らすな。
「何で紙と紙の間にこんなものはさみこんでるのよ!」
私がその紙と紙との間から抜き出したのは、やはりと言うか、あほかと言うか、役所に行けばもらえる婚姻届けだった。
「…せっかく作ったのに。」
がっかりしたように言う従兄弟に、恵子さんがうーんと唸る。いや、このクオリティで良くバレないと思ったよね!
「だから所長、駄目ですよって言ったじゃないですか。紙質揃えないと、珠緒さんは騙されてくれないって! 婚姻届けダウンロードして印刷しておけば良かったんですよ!」
おい!
「恵子さん、公文書偽造を嬉々として手伝わない!」
「だってさ、やっぱりあのいかにも! って婚姻届けを出したかったんだよ。」
従兄弟よ、どんなドリーマーだ!
「聞いてる? 弁護士が公文書偽造をやろうとしない!」
「知ってるかタマ。これは私文書偽造であって、公文書偽造ではない。勿論、役所に提出した後に戸籍に載ったとしたら、公文書偽造になるがな。」
「そんなチマチマした知識要らないから! 勝手に婚姻届け作ろうとするな!」
「…じゃ、そこにサインして。」
しれっと従兄弟が署名欄を指さす。
「は? あんたの頭沸いてるんじゃないの?! この弁護士事務所大丈夫?!」
「珠緒さん、大丈夫よ。今日も絶賛先生の仕事つまってるから!」
恵子さん、私が求めてる答えは、そんなことじゃありません…。
「そうそう。大丈夫。俺はタマが専業主婦になったって養えるから。」
…こいつら…。
「朝のこの貴重な時間をこんなことに費やすんじゃない!」
勢いよく立ち上がると、婚姻届けをびりびりに破ってやった。
私は悪くないはずなのに、哀しそうに眉を下げる従兄弟に、何だか罪悪感が湧いてくる。
「…もう5枚しか残ってないのに。」
「…全部捨てろ。」
朝から疲れた。




