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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
長谷川君は聖人に違いない【コメディ・女主人公・学校・青春?】
31/45

長谷川君は聖人に違いない⑫

 その話は、唐突だった。

 もうすぐ1学期の期末試験が始まる。そんな時だった。


「え? 引っ越し?」


 私の聞き返しに、隣を歩く長谷川君が頷く。


「父親がイギリスに赴任することになって」


 長谷川君があっさりと肯定する言葉に、何だか私の心がざわめく。


「赴任期間も長くなるらしくて。いい機会だから、向こうに行って勉強してみようと思って」


 私の感情の動きなんて気付いてないように、長谷川君は決意に満ちた表情でそう言い切る。

 長谷川君は、最初の実力試験で学年4位、中間試験でも学年3位だった。勉強は嫌いじゃないとも言っていた。

 だから、そういう気持ちになるのも、おかしくはないのかもしれない。

 おかしくはない。

 おかしくはないのに、どうして私の心の中は、こんなにもざわめいてるんだろう。

 あっさり、そっか頑張ってね、って言葉が出てこないんだろう。


「純さん、どうかした?」


 顔を覗き込んでくる長谷川君に、私は咄嗟に首を横に振る。

 そして気付く。

 あ、私、長谷川君のことが好きになってたんだ、って。

 そんな対象だと思ってなかったし、お兄ちゃんが、お母さんが勘違いしてるの、本当に困るなって思ってたはずだったのに。

 私、いつの間にか、長谷川君が近くにいるのが当たり前になってたんだ。

 だから、特別な感情なんだって、気づけてなかったんだ。


 ようやく納得のいく答えにたどり着いたら、途端に絶望感に襲われる。

 だって、もう長谷川君は遠く離れたところに行ってしまうから。 聖人どんかんな長谷川君には、きっとどうやっても私の気持ちは伝わらないから。


 ふいに、目の前が涙で滲む。


「え? 純さん?!」


 長谷川君が私の涙に気付いたみたいで慌てだす。

 …いけない。ごまかさなきゃ。

 だって、長谷川君はもう決めてるんだもん。

 それを、泣いて困らせるわけにはいかない。

 私が聖人だって認定するくらいに、長谷川君は素直でいい人だから。

 私の恋心は伝わらないしどうにもならない以上、しまっておくしかない。


「いや、やっぱり、急に引っ越しって聞くと、寂しくなるもんだね!」


 私は涙を軽くぬぐって、ニコリと笑って見せる。

 笑顔になってる? 大丈夫?

 そんな気持ちで笑って見せる。


「そうだね。僕も寂しいよ」


 私を見てホッとした様子の素直な長谷川君に、私もホッとする。

 うん。最後のお別れの時まで、私は長谷川君の友達として、明るく振舞おう。

 そして、長谷川君を心配させないようにしよう。


 だって、長谷川君のことが好きだから。

 笑顔でお別れしたいから。





「遠恋になっちゃうね」


 長谷川君の言葉に、え? と声が漏れる。

 長谷川君は微笑んでいる。


 …長谷川君は聖人に…違いない?



最後までお付き合いくださってありがとうございました。

楽しんでいただけたら幸いです。

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