2 鬼は内
「二つ目」
当然味は変わらない。
……今年も、変わらず隣にいるだけで良かったのに。
去年は、元彼と特にどこに行くでもなく、ケーキをつついた。
それで、満足した。
「三つ目」
カサカサモソモソとしているのは、私の心だったのかもしれない。
隣にいてくれるだけで良かったのに、言外にそれ以上を望んでいたのかもしれない。
良い彼女のふりして、元彼に別れを切り出させてしまったのは、私の無言の圧力だったに違いない。
「四つ目」
25で結婚して、30になるまでには子供がいる予定だったのにな、って言ったのは、2年前くらいのこと。
何の気なく言ったつもりだった。
だけど、どこかで望んでいた。
30までには、って。
「五つ目」
5年も一緒にいれば、何となく相手が言わなくても伝わることってある。
今夢を追いかけている元彼には、それがきっとプレッシャーだったんだろう。
邪魔するつもりがないといいながら、そんなプレッシャー感じさせてるとか、全然良い彼女じゃない。
「六つ目」
元彼と、6年目を迎えたかったなぁ。
結婚とか抜きにして、6年目を一緒に迎えたかった。
ただ、一緒にいたいだけだったのに。
でも、自分の年齢を気にして、結婚に焦っていたのも事実だった。
だけど、それは誰でもよかった訳じゃなかったのに。
「七つ目」
今、元彼が隣にいないのは、結局自業自得だったのかもしれない。
友達たちに別れたことをまだ言えずにいるのも、元彼の別れの言葉を、自分が引き出したせいだってどこかで気づいていたからかもしれない。
「八つ目」
わかった、なんてものわかりの良い彼女のふりして、もしかしたら元彼がすがってくれないかな、とか期待してた。
でも、引き留められることなんてなくて。
だから、心のなかで元彼だけが悪いんだって責めてきた。
「九つ目」
もちろん、元彼の非がゼロって訳でもないとは思うけど!
5年も付き合ったら、期待しちゃうでしょ!
……2年前には、いつか出来たらいいね、って言われたし……。
「十」
ただ、私にも十分非はある。
この別れは、片方だけが悪い訳じゃない。
私が誰とでも結婚したかった訳じゃなくて、元彼と一緒に居たかったってことを元彼に感じさせられなかったってことも、一因だろう。
「じゅう……いち」
ボロボロと涙がこぼれていく。
今さら、別れの言葉に対してすがり付かなかった自分が嫌になる。
カッコ悪くても、何でも、嫌だって、別れたくないんだって、すがり付けばよかった。
好きだから隣にいたいんだって、言えばよかった。
「じゅう……に」
でも、もしそれで付き合い続けてたら、単なる都合の良い女になるだけ、だったのかな……。