長谷川君は聖人に違いない⑩
「ね、サンタクロースって、今頃何して過ごしてるんだろうね?」
駅に向かう道すがら、突然始まった季節外れな話題に、私はもちろん隣を歩くお兄ちゃんも表情が固まる。
GW前だというのに、この季節外れな話題を出したのは、それこそクリスマスには崇め奉られているうちの一人になっていそうな、聖人長谷川君。
「そうだな、今頃トナカイの世話してんじゃねーの」
そして、それを至極真面目な顔で返したのは、狂犬のはずの君津君。
私は笑いをこらえようと頑張ったのに、隣のお兄ちゃんは笑いをこらえきれなかったらしく、ぷっ、と吹き出している。
「はぁ? 笑うんじゃねーよ!」
すぐさま君津君がお兄ちゃんをにらみつける。
「それ…真顔で言うことかよ」
もう笑いをこらえることすら放棄したお兄ちゃんが、クククと面白そうに答える。
「君津君は変なことは言ってないと思いますよ?」
そして更に追加されたその一言に、お兄ちゃんは驚愕の表情で長谷川君を見る。
いや、もちろん私もだけど。
「……もしかして長谷川君は……」
「トナカイもメンテナンスしとかなきゃ、クリスマス当日万全な状態で働けないだろうしな」
お兄ちゃんが最後まで言うのを遮るように、君津君が声を重ねる。
「そっか。そうだよね。トナカイだって生き物だもんね。お世話は毎日しなきゃだめだよね。クリスマスだからトナカイ行くぞって言われたって、トナカイもストライキ起こしちゃうかもしれないよね。君津君、よくそんなところに気が付くね」
「まーな」
その内容だけを聞けばほのぼのした内容ではあるんだけど。
「マジか」
小さな声でお兄ちゃんが漏らすのを、私も同じ気持ちで聞いていた。
これは、どう考えても……。
長谷川君がサンタクロースの存在を信じている、としか思えないんだけど!
そして、それを理解している君津君は、それに話を合わせているんだということだ!
「そっか。サンタクロースは今頃、トナカイに餌とかやってるんだねー」
流石にお兄ちゃんも、まだ信じている人間の夢は壊しちゃいけないと思ったのか、もう口を開くことはなかったけど、別の意味で尊敬のまなざしを長谷川君に送っていた。
ああ、お兄ちゃんの中で長谷川君がどんなイメージになってるのか、知りたいような知りたくないような。
もう、私たち16年は生きてきてると思うんだけど。
16年生きてきているうちに、サンタクロースが実はいないんだって、どこかできっと教えられたり気づいたりすると思うんだよね。
でも、長谷川君はいまだにサンタクロースがいると信じている。
流石聖人。
その純粋さが半端ないんだって、よくわかった。
駅で長谷川君たちと別れた直後、なぜかお兄ちゃんが真面目な顔で私を見る。
「純」
「何?」
「あんなに純粋な長谷川君を、泣かすんじゃないぞ」
うん。長谷川君が純粋なのは認めるよお兄ちゃん。
でもね、それは誤解だと思うわけ。
「泣かすわけないし」
「あの純粋さが失われたら日本の損失だと思うわ。くれぐれも彼女としてあの純粋さを守り通せ。いいか?!」
私たちが付き合っているという誤解はまだお兄ちゃんの中で解けていない。




