長谷川君は聖人に違いない⑦
「長谷川は学校面白いのか」
「うん。楽しいよ。君津君は?」
「長谷川がいないってだけで面白くないに決まってんだろ」
あともう少しで駅までの道を歩きつつ、君津君の長谷川君ラブっぷり、そしてそのデレっぷりに、笑わないようにするのに必死に唇を噛む。
ええ、あんな視線二度と受けたくはないですから!
「二人にはもう喧嘩はしないでほしいなぁ」
一体今の会話の流れからどうしてそうなった、と突っ込みたいくらいのその唐突な長谷川君の言葉に、私と君津君の歩みが乱れる。
長谷川君の願望ではあるだろうが長谷川君を崇める君津君からすれば断れない案件だろうし、私からすれば、そんなの無理って言うのも人としてどうなのと思うところもあれ、それより何より、狂犬君津君にそんな喧嘩を吹っ掛けるようなことなんて出来るわけもない。
「…うん」
「…ああ」
私と君津君の苦渋の選択の声が重なる。
「良かった! じゃ、ゆびきりげんまんしよ!」
「は?」
「へ?」
そのまさかのまさかの提案に、私と君津君の口から、間の抜けた声が漏れる。
「ほら二人とも小指出して!」
全く悪気のない悪意のない声で、歩みを止めた長谷川君が急かす。
だが、喧嘩しないでほしいという言葉に同意したのと同じ理由で、私はそろそろと小指を出した。
そして反対側から、恐らく同じ理由だろう君津君の指が差し出される。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます」
我々は、通り掛かる人々のやや奇異な視線を受けながら、長谷川君の紡ぐリズムに合わせて手を揺らす。
うん。やっぱり長谷川君は聖人に違いない。その考えは、我々の思い付かないところにあるのだから。
それに、狂犬君津君に指切りさせる猛者なんて、きっと長谷川君以外にはいないに違いない。
じゃあ、狂犬君津君と指切りする私って、何だろう。




