長谷川君は聖人に違いない⑥
「なー、長谷川。このお……純さんって、彼女なのか」
なぜか私は、長谷川君、君津君とともに、駅に向かっていた。
いや、みんな駅に向かっているからなんだけどね。
この長谷川君の熱烈な信者と言っていい君津君と長谷川君を二人きりにしてあげたかったんだけど、私がじゃあ、って手を挙げて先に行こうとしたら、ニコニコ笑った長谷川君が、どうせ駅まで一緒でしょ、って言うから、私はもちろん、君津君も何も言えなくなった。
聖人って、時々その笑顔で人の発言権を奪うんだなー、って理解した。
「ちがうよ」
「そっか」
長谷川君の否定に、ホッとした君津君。
……なぜ、ホッとするのか。やっぱり自分が遊んでもらえないのが嫌なのかな。…本当に、この人狂犬君津君でいいんだろうか。
はっきり言って、噂で聞いていたイメージなど、すでにガラガラと崩れている。
「どうして、彼女かどうか気にするの?」
至極当たり前ともいえる長谷川君の疑問に、君津君がぐ、と詰まる。
…まあ、聖人に向かって、俺と遊ぶ時間が減るから、とか言えないか?
いやでもさっき、遊んでくれないって拗ねてたしなぁ。
「…俺が一番じゃなくなるから」
まさかの理由に、私は笑いをこらえられなくなってしまって、プッと噴き出してしまった。
「あぁ?」
とたんに狂犬君津君の片鱗が現れる。ああ、これは見ちゃいけない。きっと睨まれてるはずだ。
「君津君、人を睨んじゃ駄目だよ」
その長谷川君の言葉に、私に突き刺さっていた視線が外れたのを感じる。
おお怖い。さすが狂犬君津君。その視線の鋭さが半端ない。
「でも純さん。人が真面目に言ってることを笑ったりしちゃいけません」
おお、まさかの私への説教。
「ほら、2人ともお互いに謝って」
私は君津君をそろそろと見る。君津君は私から視線をそらすようにそっぽを向く。
「ごめんなさい」
「わりぃ」
「これで仲直りだね」
長谷川君の締めの言葉に、私は脱力する。
…聖人の前では、誰もかれもが友達になるらしい。
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