長谷川君は聖人に違いない④
痛い。
何とも言えない痛みに、私はおなかを抱え込む。
「純さん、大丈夫?」
長谷川君が、私に声をかけてくる。
「ん。大丈夫」
私は少し顔を上げて、一応笑って見せた。
心配をかけたいわけではないのだ。
「全然大丈夫って感じしないよ? 顔色も良くないし。保健室、行こ?」
うん。長谷川君、絶賛聖人力が発揮されている。でも、今は発揮してもらわなくても大丈夫。
「本当に大丈夫だから。自分のことは自分が一番よくわかってるから」
大変申し訳ないが、できたらそっとしておいてほしい。
「純さん、そう言って困ったことになる人だっているんだよ。行こ」
何だろう。今日の長谷川君は強引そうだ。既に私の腕をつかんでいる。
珍しく強い口調の長谷川君に、視線が集まっているのも感じる。
…うん。聖人って、現代日本にいると、迷惑なのかもしれない。
「長谷川君、声小さくしてくれる?」
とりあえず、声のトーンは落としてほしい。
「あ、ごめん」
慌てたような長谷川君は、いつもの声のトーンに戻った。
「でも、保健室行こうよ」
心配そうに重ねてくる声に、長谷川君は心配性なんだなー、とか思う。
まあ、心配してもらえるのはありがたいことなんだろう。でも、今の現状は、本当にそっとしてほしいというか…。
「大丈夫だって。薬も飲んだし」
「薬って! やっぱり大丈夫じゃないんでしょ」
…長谷川君には、全然通じないらしい。
もう、これは言うしかないんだろうなぁ。
「女の子の日なの。そっとしといて」
私の小さな声に、長谷川君が耳を赤くする。
「ごめん。…いつも元気そうなのに元気ないから…」
聖人は、これまでどうやら女子との交流は少なかったらしい。
流石聖人?
でもね、聖人力もちょっと迷惑なんだって、今日ようやく気付いた。




