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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
長谷川君は聖人に違いない【コメディ・女主人公・学校・青春?】
22/45

長谷川君は聖人に違いない③

「増見さんごめんね? 折角協力してくれるって言ってくれたのに」


 案の定というか、まあそうだろうな、って感じで木村君にノート要るか長谷川君が尋ねたら、木村君には断られたらしい。


「いや別にいいけど、何て言って断られたの?」


 この間の感じなら長谷川君を邪険にはしないだろうと思ったけど、気になって聞いてみた。


「友達に借りるから大丈夫だって。余計なお世話しちゃったな、と思って。木村君の友達があのメンバーだけとか、勝手な決めつけだね」


 反省している様子の長谷川君は、ちょっと凹んでいる。


「いやきっと、面倒だから適当な嘘ついただけだと思うよ」


 そう告げるのが、長谷川くんの気持ちを慰めるかどうかはわからなかったけど、何か言ってあげないといけないだろうな、と思って口にする。


「そんなこと…人に嘘つく必要なんてないんだし」


 だけどどうやら私の言葉は、聖人長谷川君の苦悩を深めただけらしい。 失敗した。人を疑うことを知らない人の対処法など、初めてだし、そもそも知らない。


「きっと木村君にもプライドがあってさ、そんなこと友達がしてくれないとか言いたくなかったんじゃないかな」


 ようやく長谷川君の凹みを軽減するだろう理由をひねり出すと、パッと表情が変わった長谷川君に、ちょっとホッとする。


「そっか。そうだよね、プライドとかあるよね。…じゃあ、そっと机にノート置いとくとかどうだろう?」

 

 いや、それはきっとそのノート打ち捨てられるし、そのノート私のになる予定だから、絶対嫌だ。


「長谷川君、そんなことやると、本当に親切の押し売りになると思う」

 

 我ながら良いコメントを思いついたものだと、一人納得する。

 長谷川君の一度パッと輝いた表情が、わずかに陰った。


「…そっか。結構難しいものだね、親切って」

「というか長谷川君、今までも同じように人のこと気にして生きてきたんだと思うんだけど、今までの相手って、どんな感じだった?」

 

 この長谷川君が、高校で聖人デビューしたわけでもないと思うのだ。


「…ここまで人のために何かしようと思ったのは、初めてかもしれない。増見さんが僕のために声を上げてくれたの見て、僕も人のために何かできるかも! って…思ったけど、僕はそんな器じゃなかったみたいだ」


 哀しそうに首を横に振る長谷川君は、親切高校デビューだった!

 しまった。私のバカ! 長谷川君に悪影響与えてる!


「…誰かのために何かしたいって気持ちは大事だと思う。ただ、人によっては、それを嬉しいと感じない人もいるってことじゃないかな。力加減が難しいし、だからこそそうやって積極的に親切にする人は少ないのかもしれないよね。この間の私がやったことだって、長谷川君の気持ちによっては、迷惑なだけだったかもしれないんだし」


 私の言葉を神妙に聞いていた長谷川君が、最後の言葉を聞いてブンブンと勢いよく首を横にふった。


「あの時、増見さんカッコよかったよ! 僕には真似できそうにないよ!」

「あ、うん。そう言ってもらえるならいいんだけど…」


 長谷川君の力の入った言い方に、そこまでのことはしてないはずなのに、と何だか戸惑う。

 私には長谷川君の聖人っぷりっが真似できそうにないけど。


「長谷川君はさ、そのままでいていいと思うよ。無理に何かをやろうとしない方が、長谷川君らしさが生きるって言うか」

「そう、かな? …でも、僕も増見さんみたいに積極的に生きてみたいんだ」

「いや、私は言うほど積極的じゃないし! あの時はたまたま!」

 

 知らぬ間に聖人の目標になってしまっていたことに慌てる。

 私を目標にしちゃったら、不味い方向に行きそうな気がする!


「でも、僕がそうありたいと思うくらい、増見さんかっこ良かったよ」


 何だか急に恥ずかしくなる。こんな風に手放しで誉められることってないから。


「うん。いや、ありがとう。…ところで、ずっと気になってたんだけど、私のこと増見さんって呼ぶの嫌じゃない? 自分の名前呼んでるみたいでしょ?」


 恥ずかしさをごまかすついでに、気になっていたことを聞いてみる。


「ううん。だって増見さんで間違いないんだし」


 きょとりと私を見る長谷川君は、間違いなく純粋にできていると思う。


「純って呼んでくれていいから。私が逆なら複雑だし」

「え、いや…」


 恥ずかしそうにうつむく長谷川君に、逆に私が照れる。そんな照れるような提案をしたつもりはなかったのだ。


「ごめん。それも呼びにくいんだったら、そのままでいいけど」

「純さん、って呼んでもいい?」


 そろそろと顔をあげた長谷川君が、恐る恐る口にした名前に、何だかクスリと笑える。


「どうぞ」

「僕のことも下の名前で呼んでくれていいから!」


 私の肯定にパッと顔が明るくなった長谷川君がそう言うから、私はプッと吹き出す。


「それ、意味ないから」


 その意味を即座に理解したらしい長谷川君が、真っ赤になる。

 うーん。この天然っぷり、面白い!

 うん。長谷川君は私を目標にしちゃいけないと思うんだよねー。

 でも、変わりたいと思うこと自体が悪いことじゃないとは思うけど。

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