ラブレター
『私はいつも失恋している。』の番外編
週に1回のこの日を、最近の私は心待ちにしているような、していないような、そんな複雑な気分で迎える。
それは、アランから必ず渡される、それこそ文字通りの手紙のせいだ。
古典で言えば、ラブレター、というもの。
それを、週に1回のこの授業の時に、私はアランから渡される。
「はい、レイ。マスターからの手紙だよ」
ニコリと笑うアランに、私は目を伏せる。
「いらない」
「レイが読んでくれないと、俺まで悲しくなるんだ」
困ったように笑うアランは、恋愛感情は持ち合わせていない癖に、他の喜怒哀楽はマスターであるヴァイスとシンクロしている。
目の前で好きだと思っている相手から悲しそうに見える瞳を見せられて、それでも突っぱねられる強者がどれくらいいるだろうか。
私は渋々その手紙を受けとる。
美しい紋様が地に入ったその封筒は、それだけでも芸術的価値がありそうだ。
私はため息をつくと封筒を開いて、同じ紋様の刻まれた便箋を取り出す。
本当は講義室で読むものじゃないんだろうと思う。だけど、毎回返事を求められるので、翌週まで持ち越さないように、最近はその場で読むことにしている。
開いた便箋には、一言だけがしたためられていた。
会いたい。
ドキリとしながら、それを隠すように私はため息をつく。
「何が会いたいよ。会いにも来ないくせに」
私がヴァイスに会ったのは、アランに引き合わされたあの一度きり。
それ以降は、このラブレターのやり取りしかしていない。
強引そうなあの人は、こうやって手紙で私を翻弄だけして、顔も見せない。
好きだよ。
愛している。
俺の気持ちは伝わっているかな?
全部、直筆の文字だけ。
姿を表すこともなければ、アランを騙って電話の向こう側に出てくることもない。毎回アランの手首を確認しているんだから、間違いない。
「レイ、マスターが授業が終わったら待ってるって」
アランの声に、我にかえる。
「え?」
何を言われたのかが、理解できなかった。
私はアランを見る。
美しい顔が、見惚れるような笑顔を見せた。
「レイが会いたいって言ってくれたから、マスターも喜んでいるよ」
私は瞬きをする。
そして、一瞬で我にかえる。
「そんなこと、言ってない!」
だけどアランは微笑んだまま、首をふった。
「レイの、会いにも来ないくせに、は、会いたいって意味だってマスターが」
私は自分の顔に熱が集まる感覚を、初めて実感する。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
楽しんでいただければ幸いです。