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恋愛短編集【過去作品】  作者: 三谷朱花
私は毎回失恋している。【切ない・近未来・人工知能・女主人公・未来・アンドロイド】
18/45

不毛な恋の行く末は③

「ねえ、レイ。マスターがレイに会ってみたいって」

 帰り支度をしていると、アランが私の顔を覗き込んだ。

「えーっと、マスターって……」

「うん。俺の契約主だよ」

 ニコリと笑うアランに、私はドキリとして、首をかしげる。

「どうして?」


「俺が良くレイの話をするからだろうね」

「えーっと、いやでも……」

 アランのマスターに会う理由が、私にはなかった。

 会えばアランと恋ができるって言われれば、会うかもしれない。けど、そんな可能性はゼロだし、お金持ちのヒトの暇潰しみたいで嫌だな、と思ったのは、ちょっとあった。


「マスターは、純粋にレイに会いたがってるだけだよ? 俺とレイのレポートも読んでて、レイの考え方が面白いから、一度話してみたいって、前にも言ってたんだよ?」

 それはちょっと嬉しいかもしれない。

「……どこかでお茶くらいなら」

 さすがに、どこの誰とも知れない相手と、会うのには躊躇する。


「いいよ。マスターがOKだって。行こうか?」

 即座に話がまとまったことに驚く。……この会話が筒抜けだったのかな、と思うと、ちょっと居たたまれない。

「あ、レイ。この会話は、マスターに筒抜けにはならないから。俺が、レイがお茶ならOKだって伝えたら、すぐに返事があっただけだからね?」


 どうやら私が気まずい顔をしたのがばれたらしい。

 ……でも、筒抜けではなかったことにほっとする。

「そっか。……あんまり返事が早いから、筒抜けなのかなって」

「さすがに、会話が筒抜けはないよ。禁止されてるし」

 確かにそうだ。アンドロイドをスパイとして使わないために、筒抜けの仕様は許されていないんだった。


「じゃあ、行こうか?」

「ええ」

 アランと一緒に立ち上がると、女性たちの視線が向けられる。

 でもそれに、嫉妬の感情は含まれない。

 皆、アランと恋愛ができないと知っているからだ。


 *


「ああ、アラン。ヴァイスが奥の部屋で待ってるよ」

 品のよい喫茶店にたどり着くと、アランが店のヒトからそう声をかけられていた。

 どうやらアランのマスターはヴァイスというヒトらしい。

「どうぞ、レイ」

 アランが奥の部屋のドアを開ける。


 私は入口で固まる。

 その先には、アランがいたからだ。

「レイ、入ってくれるかな?」

 後ろからアランに声を掛けられて、私はアランを振り向く。

「えーっと、アランが……二人?」


 クスリと笑ったのは、アランと、奥に座るヒト。

 全く同じタイミングだった。

「俺は、ヴァイス。アランのマスターであり、姿と知能と感情のコピー元」

「コピー元……」

 私は、まばたきをした。


 聞いたことはあった。とてつもなく金持ちなヒトのなかには、自分の姿と知能と感情をそのままコピーしたアンドロイドを作るヒトもいるって。

「アランの反応は、ほとんど俺の反応だと思ってくれていいよ? 週に1度は同期しているから」

 それって、どういうことなんだろう。


「残念ながら気づかれなかったけど、レポートの打ち合わせの時、時々アランと入れ替わっていたんだよ?」

 微笑むヴァイスに、私はアランを振り向いた。

「……えーっと?」

「さすがに大学へは行けないって悔しがっていたけどね。光彩はさすがに同じものではないから」


「今日の教授は、素晴らしいことを言ったみたいだね」

 私はヴァイスの声に視線を向ける。

「恋は素晴らしいものだよって。あいにくアランには理解できないけど。どういうことか説明してくれって言うから、言ったんだよ。俺がレイに会いたがっているのを知ってるだろうって」

 瞬時に何を言われたのか理解して、顔が熱くなる。


「俺に恋をするチャンスをくれないかな、レイ」

 それでも、ヴァイスの言葉は、あまりにも唐突だった。

「えーっと、いえ、あの……正直戸惑っていて」

 私が好きなのは、アラン、だったはずだ。

「マスターも、恋がわかってないんじゃないかな」

 私のとなりにいるアランが、肩をすくめる。


「仕方ないだろ。俺だってヒトを好きになったのは初めてなんだ。……でも、回りくどいことなんてしたくないから」

 アランと同じように見える瞳が、アランとは違う熱っぽい瞳で私を見ている。

「えーっと、あの……」

 私はアランを好きだったはずだ。

 でもヴァイスにドキドキするのは、ヴァイスの顔がアランと瓜二つだから? 

 それとも?


「……えーっと、出直してきます!」

 私は立ち上がった。

「あ、ちょっと待って! 俺の連絡先!」

 ヴァイスも立ち上がる。でもその前に、アランが私にメモをくれる。

「これ、マスターの連絡先だから」


 何だかショックを受けたのは、やっぱりアランのことが好きだからだよね?


 ……とりあえず、今日は逃げます! 

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