第五刃 烏天狗と和蘭人②
白烏でのドタバタから一日、上演会の当日、クロウはなんとか復活できていた。
「ふー...まったく服着るだけでなんでそんなに時間がかかるんだよ....」
「いやはや、来たことのない服だったし、着付けてもらったのも昨日の一回だけだったからいまいちわからなくてな...ははは」
やっとのことで燕尾服に着替えた花篠はすでに疲れているクロウの前まで行って右に一回転した。
「ちゃんと着れているか?」
「まぁ、多分着れてるんじゃない、それよりももうすぐ時間だから早く行くよ」
そう言ってクロウはそさくさと店を出て行った。
〜上演会場〜
「ここか...」
着いたところには多くの人が集まっており、中にはかなり裕福そうな外人の夫婦も混ざっていた。
「やっぱり私たちここにいるのは場違いじゃないか?みんな品が良さそうというか裕福そうというか...」
「いいんだよちゃんと券持ってるんだから」
そう言って持ってきた上演会の券をひらひらと揺らしてみせる。
「ようこそお集まりくださいました。今日は私たち、アワジズの公演に来ていただきありがとうございます。
私、通訳兼司会のハゼスです。以後お見知り置きを」
「この人達実は淡路の出とかないよな、クロウ...?」
「そんなわけないでしょ、どう見ても外国の人だよ」
いつのまにか舞台の上には白のタキシードにシルクハットを被った老紳士がおり、声が聞こえた次の瞬間にはシルクハットを外し深々とお辞儀をしていた。
するとシルクハットから数匹の鳩が飛び出し空へ飛び立っていった。
「おっと失礼、私の飼い鳩が出てきてしまいました。今日はこんな風に何が飛び出すかわかりませんので、十分驚きにはお気をつけなさって下さいください」
拍手喝采の中、老紳士は再びシルクハットを被り舞台の端に下がっていった。
マイクがあるのでおそらくそこから紹介などをするのだろう。
「それではお楽しみ下さい。それでは一人目、ルロガーです!」
小さな爆発の音とともに黒のタキシードと大きめのシルクハットを被った碧眼の若い男性が飛び出した。
「へー結構若い人もいるんだ、みんなハゼスさんみたいな老紳士かと思ったよ」
「まぁ、こことは勝手が違うのだろう、そんなに驚かなくてもいいんじゃないか?」
そんなことを話していると、また舞台から声が聞こえた。
「彼が得意とするのは消失マジック、彼がマントを被せたものは、すべて目の前から消え去ります」
ルロガーと呼ばれる男性が目の前の台の上に置かれた、小さな子供程の大きさの樽に着ていたマントを被せた。
「3.2.1.open!」
マントを素早く取ると樽がその場から消えていた。
「へー、すごいもんだねー」
と、同意を求めるように花篠の方を向くが...
「うーん、あれはどういう仕組みで....」
と考えてばかりで話を全く聞いていなかった。
「皆さん、盛大な拍手を!」
パチパチという音と大歓声の中ルロガーのマジックは終わった。
他にも数人の団員がマジックをみせたが、どれもルロガーの前では霞んで見えた、それほどルロガーのマジックの完成度は高かったのだ。
「それでは皆様、これにてマジックショーを終わりたいと思います。good-by!」
ポンっという音と共に舞台上に煙が立ち、ハゼスは舞台から消えた。
「最後まで演出が凝ってるねぇ」
ショーが終わり、客は散った。
後に残るのは静寂と舞台だけ、しかし、この舞台がなくなることはついぞなかった。
それどころか消えたハゼスや団員達も、この場に現れることは二度となく、元から存在しなかったように消え去ったのだ。
今宵、江戸の町で、二つの波紋がぶつかり合う。