第一刃 烏天狗と女剣士
第一話 女剣士と烏天狗
江戸中期、百鬼夜行絵巻に烏天狗なる妖怪あり。
その姿、他の烏天狗とは似ても似つかず。
背格好は当時の庶民よりも大きく、黄金色の髪、右手には小型の刃物。
そして何よりも注目すべきは飛ぶわけでも地を歩くわけでもなく屋根をつたい歩く、その姿まさに忍びか鼠小僧の様。
今宵、その妖怪がとある商家に忍び込む。
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Dear 前野様
今宵、前野家現当主前野士郎様を粛清しに伺います。
ゆめゆめ忘れないで下さい、あなたが誰かに恨まれていることを。
From 烏天狗
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江戸の商家、前野家では昨晩家に投げ込まれた文を危惧し、数名の抱えの剣士を庭に配置させていた。
「しかし...一体誰がこんな手紙を投げ込んだのだ、そもそも私は恨まれる覚えなぞ一切ない。のう、花篠 よ」
「まったくその通りです。真っ当な商売しかしていない御前がなぜ狙われるのか、大方うちの繁盛を目の敵にした別の商家からの差し金でしょう。」
花篠が言っていることは正しい、実際前野士郎は何もしていないのだ、ただひたすらに自身の家を繁栄させるために身を粉にして働いてきた、一般人なのである。
「出る杭は打たれるというやつなのかのう。
しかし、まだ死ぬわけにはいかぬ、この家のためにもさらに利益を上げなくてはならない。」
大きめのため息をし、士郎は立ち上がった。
その時、耳を貫くような悲鳴が庭から聞こえてきた。
「どうした!誰か報告せい!」
士郎が怒鳴るとすぐに庭から一人の男が走ってきた、その姿は血塗れだ。
「報告します...黒装束に身を包んだ謎の男が侵入を....」
男は倒れ、そこで息絶えた。全身を何箇所も切られ夥しい量の血があふれて倒れた場所は血溜まりとなっていた。
「なっ...!」
「まさかっ....」
二人が同時に叫んだ、それと同時に背後に気配を感じた。まるで冷たい刃物が体に触れているような感覚だ。
「good evening 前野様、あなたを...殺しに来ました。」
「うがっ.....」
「御前!」
謎の男によって無慈悲にも突きつけられた刃は士郎の首を真っ直ぐ貫き、絶命させた。
「貴様...御前を殺しておいてただで済むと思うなよ!この場で叩っ斬ってくれる!」
「やれやれ、仕事が終わったのだから早く帰りたいんだが...どうしても僕と戦うかい?」
謎の男はまた先ほど同様の刃物を取り出し花篠に向けた。刀身約十五センチ程、とても花篠の持つ日本刀と渡り合えるとは思えない。
「なめているのか?そのような短い刃物で何倍もの刀身のあるこの刀と打ち合うというのかっ」
「誰が打ち合うなんて言いました?一発当てれば私の勝ちなのに何故打ち合う必要があると言うのです?」
「何を世迷言を、その程度の刃渡りでは皮膚は削れてもこの命まで削れはしない。いざ、参る!」
そういうと花篠は刀を両手に持って突きの姿勢で突っ込んでいった。それは確実に男を捉えたと思われたが、その場所にもう男の体はなく、黒く染まった外燈を貫いただけであった。
「なっ...」
「じゃあ、さよなら....see you in the next life!」
男は花篠の右側の首に刃物を当て、軽く切った。花篠の体に電流が走りその場に倒れ込んだ。
「うあ..あ、誰...か」
「good night」
その言葉が最後まで聞こえるよりも早く花篠の意識は現世からは消え去っていた。しかし、その体には確かに暖かい感覚があった、まるで誰かに抱擁されているような、そんな感覚だった。
黒装束の男は何を言うでもなく花篠の体を抱え、宵闇へと消え去った。月明かりには屋根を走る二人分の影が映るばかりであった。
初投稿ですがこれからも頑張って書きます!
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