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買収チートで異世界改革物語【金を制する者は異世界をも制する】  作者: 揺蕩もちゆさ
家出娘は鳥籠の中?
7/9

7話 同類【7】

「なんでお前が泣きそうな顔してやがる…。

同情のつもりか…?」


「同情なんかじゃない…。

気付いたんだ、俺とあんたは、同類だって…。」


アドニスは怒りの籠った目でこちらを睨んだ。


「お前に何が分かる…!」


「俺はあんたと…同じだった。」


「分かったような口を…聞くなッ!」


「悪かったな…。俺は……」



「初めて会って、依頼を受けたあの時から、あんたが犯人だと睨んでたわけじゃないんだ…。」



「────は?」


「あんたを契約(スキル)詐欺(ペテン)にかけたことについては、紛れもなく俺の罪だ…。」


「なに…?」


「ただ俺は、必死だったんだ。生き残る為。金を稼ぐため…。あんたと同じだ…。」


「あんたにも娘が居るって聞いた瞬間に、思い付いちまった。最悪、領主の娘が見付からなくても、このトリックで生き残れる。しくじった時の保険になるって…」


「結果的にその保険が、たまたま犯人を追い詰めるカードになっただけ。」


「未遂とは言え、俺のやろうとしたことは、本質的にはあんたと何も変わりはしない…。」


「だから分かる。生き抜くのに必死で、人道を外れた人間の気持ちが。金に困窮し、追い詰められた人間の気持ちが。」


「お前……」


「俺には、あんたを責める権利はない。」


「俺もあんたも、同類だ。弱者であり、生き残る為に人を騙した、情けない詐欺師(ひきょうもの)。」


「アーシスがあんたを殴るなら、俺も同じだけ殴られるべきだ…。」


「ロクト……。」


アーシスはアドニスの胸ぐらを掴んでいた手を離し、アドニスは床に腰を落とす。


「パパ、パパ…。」

娘は状況こそよく分かってないが、項垂れる父親を見て心配そうな顔で抱きついた。


「チクショウ………。」

アドニスは静かに頬を濡らしながら、娘を抱きしめた。


俺は、地に膝を付き、頭を下げた。

これがこの世界で謝罪の誠意を意味するかは分からなかったが、それでも俺の気持ちを最大限表明する手段として、土下座をした。


「済まなかった…」


「おい、やめろ…」


「あんたも領主と娘に謝るんだよ!!!」


「…………っ」


「当然、謝れば済む問題じゃない。罪を犯したら償うんだ…。人間に戻りたいのならな…。」


「俺は俺の償いも含め、領主にあんたへの情状酌量を求める。領主から貰う報酬100万は、捜索経費75万を返済した残りを全額あんたにやる。もちろん契約はチャラにする。」


「それで許してくれないか…?」


「金は受け取れねぇよ…くそ…。」


「分かった。なら個人的に、娘にお小遣いをやろう。」


「それであんたは、領主にチャンスを貰えたら、今度はあんたが領主と娘さんに自分で償うんだ。」


アドニスは何も言わずに頷いた。


──────

俺はアドニスから娘の匿い場所を聞き、鍵を受け取り、ついに解放しに来たのだった。

そこは、さっきまで居た商店跡地と似たような、何らかの廃施設。


錆びついたドアの鍵を開け、石の牢獄を解き放つ。


ギィィ…


中に入ると、青い長髪の少女が、石壁の亀裂から外を覗いていた。


「………アドニス様ですか?」


「違う、俺は君は助けに来た。」


青髪の少女がこちらを見る。


「………!貴方は……?」


「ロクト、ただのFランク冒険者だ。」


「ロクト…様…!」


「さあ、外に出よう。そして王都に帰るんだ。」


石の牢獄を出てすぐ、少女は俺に抱きついた。


「遅くなってすまない…。」


「いえ…助けてくれて、ありがとうございます……っ!」


アドニスが娘を誘拐してから、恐らく3週間は経ってるが、それ程やつれてるようにも見えない。


俺は少女の髪を手で掬った。

透き通る様な青い髪は、するすると指の間をすり抜けた。


ちゃんと洗われている。

アドニスは最低限の生活は提供していたみたいだ。


「ロクト様…?」


娘は惚けた顔でこちらを見つめていた。


「え?あ…す、すまない…!君の髪が綺麗だったから…」


「綺麗だなんて、そんな…」


「あっ、いや…今のは変な意味じゃなくて…」


二人は暫し視線を逸らし、顔を赤くしていた。


「──貴方は、私の命の恩人。このご恩は一生忘れることはありません。」


「そんな、やめてくれよ…。俺はそんな大層な人間じゃ……」


そうだ。出会いが対称的だっただけで、俺とアドニスは同類の、ただの卑怯者だ…。


「いいえ、仮にあなたがどんな人間だったとしても、私を鳥籠から救い出した恩人であることは、私にとっては揺るがないのです。」


娘は腕に抱きつき、頬を寄せた。


俺はその好意を、肯定することも否定することも出来ず、立ち尽くしてしまう。


「君の名前は…?」


「申し遅れました、私はセレナ・マクファーレンと申します。セレナとお呼び下さい。」


「セレナ…とりあえず、宿に行こう。風呂に入って、服を着替えて、飯を食って、それから王都に帰ろう。宿は取ってある。」


「ロクト様…そこまでしていただけるのですか…?」


「あぁ。とりあえず、王都に戻るまでは一緒に居よう。」


そして俺達は、歩いてブラウンさんの宿に向かった。

──────

「いらっしゃ──おぉんっ!?あ、あんちゃん…1日振りに見たかと思ったら、そのべっぴんさんは……」


「女性用の服を一式借りたい。」


「どうしたどうした、えらい温度差あるなぁ。女に腕を抱かれてなんだそのお通夜みたいな顔は…」


「…って、もしかして、その娘さん、件の探してた娘さんかい?」


「あぁ。」


「達成したのか!そらぁ良かった!」


「あぁ…。」


「ロクト様、疲れてらっしゃるみたいで…」


「ふぅむ…なんや、状況は分からんが、元気だしてな…?」

ブラウンさんは服を差し出しながら言った。


「娘さん、ナイスバデーだから胸の辺りが苦しいかもしれんが、とりあえずはそれで凌いでくれ。」


「………ありがとうございますっ」

セレナは顔を赤くして俯いた


「あぁ、悪い悪い!おっさんデリカシーなかったな…!」


「ブラウンさん、ありがとうな…。」


俺はセレナと共に、借りている部屋に戻った

──────

「取り敢えず、シャワーを浴びてくるといい。その間に、近くで簡単な食いもんを──」


しまった…買収でちょうど金を使い切って、今は一銭もないんだった。


「…悪い。王都に帰って報酬を貰うまで、金がない…。」


「いえ、お構いなく。」

セレナは屈託のない笑顔をこちらに向けて会釈した。


どこまでも格好付かないな、俺は。

当たり前だ…。俺はセレナを救った救世主なんかじゃない。依頼を見つけた時の俺は、金のことしか考えてなかった。命の恩人面するのも烏滸がましい。


「ロクト様、これを──」


セレナは俺に札を手渡した。


「これは?」


「父の連絡先です。」


「あぁ、分かった。お父様に話は付けておく。」


「お願いします。では、失礼しますね…」

セレナが入浴しようと服を脱ぎ始めたので、俺は部屋を出た。


──────

セレナのお父様か。王都で力を持つ領主様だと思うと、念話する前から緊張してしまう。


俺は手を耳に当て、セレナの父に繋いだ。


「…こちらロッド・マクファーレン。知らぬ連絡先だが…其方は?」


「ロクトと申します。ご息女様の捜索依頼を受けたFランク冒険者です。セレナ様を見つけましたのでご連絡を──」


「本当か!!セレナを見つけたというのは本当なんだな!!?今そこに居るのか!?イタズラだったらタダじゃ済まさぬぞ──」


「…ゴホン。すまない、私の連絡先を得ている時点で、イタズラでは無いのだろう。嗚呼…、本当に良かった……。」


「ロクト君。よくぞ娘を見つけてくれた。送迎に飛竜を遣わす。直ぐにでも王都に来てくれたまえ。直接謝礼をさせて頂きたい。」


「畏まりました。それと、実は私の他に、連れて行きたい者が居るのですが。」


「ほう。よかろう。連れてくるが良い。」


「ありがとうございます。では──」


俺は念話を切り、ふぅ…っと一息ついた。

威厳と貫禄を感じさせる声だったが、その中に確かに娘への愛を感じた。…それだけに、アドニスの処遇はどうなるだろうか、ということが頭を過った。



扉にもたれかかって考え事をしていると、しばらくしてから、内側からノックされた。


「ロクト様。ただいま上がりました。」


「あぁ。」


俺は再び部屋に戻った。


──────

「話はつけた。飛竜を寄越してくれるらしいから、それに乗って帰ろう。」


「ありがとうございます。」


セレナはまだ少し濡れている髪を拭きながら微笑んだ。


「なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」


「私が答えられることなら、なんでもお聞きください。」


「なんでセレナは、自分でお父様に念話して助けを求めなかったんだ?」


セレナは首を横に振った。


「…それがアドニス様の権能(スキル)にございます。」


「念話とは、この世界全体に満ちている微弱な魔力の影響──魔力場(まりょくば)を媒体に、自分の声を対象まで届ける初級魔法にございます。」


「アドニス様の権能(スキル)は、その魔力場(まりょくば)を乱すものらしいのです。」


…なるほど。本人が生産性のない権能(スキル)だと吐き捨てるだけの事は有る。職に活かせないというのも言ってた通りだ。


逆に言えば、こんな権能(スキル)を与えられたから、誘拐という手段を思い付き、実行してしまったのかもしれない。


いや、権能(スキル)に罪がある訳ではないんだ。悪いのは誰なのか、何なのか、今回の事件を通して、俺はもう分かっていた。


「だから、私は幽閉されていた間、完全な孤独でした。不安に押しつぶされそうになっていた所を、ロクト様が助けてくれたのです。」


「だから貴方は、私の中では、白馬に乗って迎えに来てくれた王子様も同然なのです。」


「違うんだ…。俺は…君を助ける為に動いてたんじゃ、なかったんだ…。」


助けた女の子の前で胸を張ることも出来ない卑怯者の自分が情けなくて、彼女の目を見ることが出来ない。


「ロクト様、顔を上げてください。」


セレナは俯いていた俺の頬に両手を添え──


「…………っ」


「……んぅ………」


口づけをした。


「──っはぁ、な、何を…」


「………、ご無礼をお許しください。」


「貴方が何に思い悩んでいるのか、私には分かりません…。ですが、勝手な事だとは分かっていますが、それでも貴方には、笑っていて欲しいのです。」


「………」

突然の接吻に頭が混乱し、言葉が出ない。


「虚勢でも良いのです。笑顔でいれば、そのうち心から笑えるようになります。父から教わった、辛い時に前を向く魔法です。」


魔法……

魔力適性値12の俺でも使える、笑顔の魔法。


そうだ、彼女の言う通りだ。俺が思い悩んでクヨクヨしてても何も良いことは無い。彼女を不安にさせるだけだ。

フッと息を吐いて、不器用に笑顔を作って見せると、セレナも優しく微笑んでくれた。


その日から俺は、自分の心もペテンにかけることを覚えた。


彼女の口づけには、本当の魔法が宿っているのかもしれない。俺は少しだけ、自分を肯定して行けるような気がした。

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