3話 受注【3】
「おう、あんちゃんお疲れぃ。」
「満を持して、泊めて頂きたい。」
「まいど!一泊8000ゴルド、以降1日延泊する毎に5000ゴルドだ。」
「支払いはチェックアウトの時でいいのか?」
「おう、そうだぜ。」
「なら9泊10日で。借金と一緒に払います。」
「そうか、ならなおさら、あんちゃんには稼いでもらわないとな!」
「必ず100万稼ぎますよ。そしたら美味しいものでも食べに行きましょう。」
「おっ!期待してるぜ!」
俺は渡された鍵の番号の部屋に足を運んだ。
──────
ふーーーっ。
部屋に着くなり、俺はベッドに倒れ込んだ。
疲れた…身体も頭も。
契約時から10日以内に返済だから、9日以内に依頼達成、つまり今日が終わればあと8日か。
帰りに晩飯を買ってきて、残りの金は、473,000ゴルド。
宿泊代が後払いでいいってのは助った。それだけ軍資金を多く持てるからな。
収支の計算もしておこう。
50万借りて、100万稼いで、70万返す。
俺の純利益は30万。
娘の捜索に50万を使いきったとしたら、報酬を受け取った後に宿泊代+αで49000ゴルドを払って、残る手持ちは25万ちょっとか。
これだけあれば、立て直せるかな……
不安だが、今はそれより目先の依頼だ。
俺はルーシアさんから聞いた話のメモを見て、この世界の常識の復習をし、風呂に入り飯を食べて、泥のように眠った。
───────
翌朝、小鳥が一日の始まりを告げる。
「ふぁぁあ…」
よく寝た…寝すぎて背中が痛い。
時計を見ると、午前10時。11時間程寝てたらしい…。いくら疲れたは言え、生きるか死ぬかの瀬戸際で一秒も時間を無駄に出来ない状況だという自覚が足りてないな、俺の体は。しかし、睡眠は大事だ。これは必要経費ということにしておこう。
今日やることは決まっている。準備は整った。
満を持して、依頼を受けに行く。
俺はブランチを済ませ、顔を洗って髪を簡単に整え、正装に身を包み冒険者ギルドへ向かった。
────
「いらっしゃいませ。」
昨日と同じ店員だが…明らかに俺を見る目が違う。
昨日は「なんか変な虫が入ってきた」くらいにしか見てなかったのに、今日は一人の客として認識しているようだ。
やはり見た目は大事ということか…。
「クエスト、『家出娘の捜索』の受注を希望します。」
「申し訳ございません、昨日申し上げた通り、依頼主様のご意向といたしましてはCランク以上の冒険者の方に──」
ドン!
…と俺は、約47万ゴルドの札束を受付帳場に叩きつけた。
「………(ビクッ)」
「捜索資金だ。まずは依頼主と話をさせてくれ。」
「…畏まりました。」
受付嬢は少しビクビクしながら念話で依頼主と話し始めた。
…必要な演出とは言え少し高圧的だったかな…。
「依頼主様が、直接会ってお話したいとの事です。お越しになるそうなので、応接室でお待ちください。」
よし…!来た!ようやくスタート地点に立てる…!だが気を抜くな……本番はここからだ…。
────
ガチャ
「あぁ、あぁ。そうだな。」
20分程待ち、漸く現れた依頼主の男は念話をしながら入ってきた。
「いや、まだだ。あと2、3週間もすれば──」
「分かった。あぁ、またかけ直す。」
男は念話を終え、こちらに向き直った。
「悪いね、お待たせして。」
「いえいえ、御足労感謝します。」
見たところ30手前くらいの齢。無精髭とキツめの目付きが特徴で、左前腕に大きな傷がある。ブラウンさん程ではないがこちらも体格のいい、威圧感のある男だった。
「この貧困地域で50万も捜索費用を出すなんてどんな奴かと思えば、見ない顔だな。しかもFランク冒険者…最近越してきたのか?」
「そう思って頂いて差し支えありません。」
「そうか。──単刀直入に言う。この娘を探して欲しい。」
そう言って差し出された資料に載っている青髪の少女の絵は、見たところ15歳前後。
この男の娘にしては大人過ぎるように思える。
「この依頼は王都からのものってことは知ってるか?」
「はい、依頼概要にありましたから。」
「俺はただの仲介業者。この娘は王都のとある領主の娘さんだ。」
「なるほど。あなたの娘さんかと思ってたので、びっくりしました。」
「そんな訳あるか。俺の娘はまだ5歳だ。」
「それは失礼しました。」
「それで…その領主の娘がある日、行方不明になった。初めは王都中を探し回ったが、見つからないもんでな。娘は遠くに攫われたんじゃないかって話になった。」
「それで領主は、娘が居る可能性のある各地方へ個別に捜索依頼を出したって訳だ。」
「なるほど。」
「質問はあるか?」
「今はまだ何とも」
「そうか。なら捜索を頼む。」
「一つお願いしてもいいですか?」
「言ってみろ。」
「僕と『契約』して下さい。」
「契約?もちろん、するに決まってるだろ。」
「依頼契約だけでなく、個人的に、です。」
「個人的に、だと?」
「えぇ。失礼ですが、僕はまだこの冒険者ギルドと仲介業者に全幅の信頼を置けるほど信頼関係を築けては居ません。」
「僕が娘を見つけても、ギルドと結託して僕が見つけた事実を揉み消し、手柄を横取りして領主に娘を献上する可能性も無いとは言えない。」
「疑ってやがるのか?」
「こういうお金が絡むことはキッチリしたい主義でして。」
ふーーっ、と男がため息を吐いた。
まずかったか…?
「…ガキかと思ったが少しは頭が回るみてぇだな。確かに、この貧困区じゃ違法が金や暴力でまかり通っちまう可能性は考えるべきだ。まんざら間違った意見でもねぇ。」
「だがそれはお前と個人的に契約を交わしたって同じ事だろう?」
「いえ、こちらに同意してくだされば問題ありません。」
「『契約』──!」
「な、んだ?魔法か?」
「僕の権能です。法より強制力のある絶対的な契約を結ぶ力。」
「ふん、なるほど。それしか信用しねぇってんなら、いいだろう。同意してやる。」
〜契約〜
甲:アドニス・ウォーカーは「娘」を探す依頼をし、乙:ロクトがそれを引き受けた。乙が甲の目の前に「娘」を連れて来たら依頼達成とし、甲は乙に約束の報奨金百萬ゴルドを支払う。
「ありがとうございます。これで安心して捜索できます。」
「あぁ、頼んだぞ。」
ついに俺は、報酬100万ゴルドの依頼『家出娘の捜索』を正式に受注した。
残り、472,500ゴルド。
これを使って俺は、必ず『娘』を見つけ出し、そして俺は生き残る…!