表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
買収チートで異世界改革物語【金を制する者は異世界をも制する】  作者: 揺蕩もちゆさ
家出娘は鳥籠の中?
2/9

2話 準備【2】

その後、俺は街の中で比較的余裕のありそうな店を4軒訪れ、それぞれと同様の契約を行い、ついに50万ゴルドの元手を手にした。


そのやり取りの中で俺は権能(スキル)による契約に違反したらどうなるのかを試した。

1秒以内に1000万ゴルド支払わなければ、罰則として店主に(かしず)く。

こんなふざけた内容の契約でも、俺の意思に関わらず俺の身体は勝手に店主に傅いた。

権能(スキル)の強制力は本物だということだ。


しかし、ほとんどの店主はそれを知らずともお金を貸してくれた。

みんな単に人が好いだけかもしれないが、おそらくこの権能(スキル)には、契約の絶対性を疑わせない効力があるのだろう。


また、氏名になってない「ロクト」なんて名義でも契約が成立してるところを見るに、法的な契約とは違い、文面の厳密性が多少崩れていても、客観的に筋が通っていれば絶対性は保証されるのだろう。


…何はともあれ、今ここに50万がある。

改めてみるとすごい…札束だ…さっきまでの極限の困窮状態からは想像できない…

これだけありゃ美味い飯も……


っていかん、これは俺の命の金。一銭も無駄にできない。俺はこの50万を全て有効活用し、依頼を達成しなければならない。

その為に、まず買うべきは──



服だ。


まずは身なりを最低限整える。俺はただでさえFランク。見た目で舐められて依頼を受けられなければ一発アウトだ。


人は見た目で判断するなとはよく言うが、初対面の相手なんて見た目しか判断材料がないのだから、見た目で判断されるのは当たり前のことだ。


予算2万、第一印象だけでいい…まともな人間に見えなければそもそも依頼を受けられない。


俺は近くで一番小綺麗な服屋を見つけ、入った。


──


「すみません。」


「いらっしゃいませ、なにかお探しですか?」


「これから新しい職場に挨拶に行く所でして。きっちりしたフォーマルな服が欲しいんですけど」


「でしたらこちらの紳士服は如何ですか?」


「ほう…」


確かに、異世界の文化でも、これが礼節のある服だということは一目見て分かった。例えるなら、ボタン多めのブレザーのようなものだ。上下、インナーまでやや光沢のある紺で統一されている。

少し触ってみると、伸縮性があるようだ。動きやすいのは良いことだろう。


「これにします。」


「魔力加工はどうなさいますか?」


「魔力加工…?」


「はい。お値段を上乗せして頂ければ、魔法保護膜を付与(エンチャント)し、防御力を上げることができます。」


「必要ありません。このままでお願いします。」


どうせ戦闘になったら勝ち目はないんだ。戦わない立ち回りを徹底するしかない。

それよりも今は金の方が大事だ。


「では、合わせて22800ゴルドです。」


…まあ許容範囲だ。残り477,200ゴルド。


俺は買った服に直ぐに着替え、外に出た。


─────


おぉ、やはり服が変わると気の持ちようも変わる。今まで気づかなかったが、周囲の目もだいぶ変わっただろう。

少し自信が出てきた。さて、次に必要なのは



知識だ。


俺はまだこの世界をよく知らない。一般常識すらないと知れればそれこそ一発で信用を失う。

しかしここに金をかける余裕はない。どこかに図書館みたいな施設は無いものか…


…って、さっきから事ある毎に右往左往しているな。何よりまず優先すべきは地図じゃないのか?

タイムイズマネー。タイムリミットが設けられている以上、時間効率は金を払ってでも買うべきだ。


俺は最初の宿に戻った。もう4度目だな…


「いらっしゃ──って、おぉ!?あんちゃん、えらい立派な格好になったな。」


「お陰様で。」


「で?今度こそ泊まってくか?」


「えぇ、後で泊まらせてもらいます。でも今は、地図が欲しくて」


何でもかんでもこの店主に頼れば良いってもんでもないが、宿泊施設なら外から来た人も想定しているだろうし、地図があるはずだ。


「ほらよ、ストルブ区の観光地図だ。主に施設の場所が載ってる。一応貸出用なんだが」


「これ、買い取らせてください。3000ゴルドで。」


「んぁ?ま、まあいいぜ。持って行きな。」


よし、地図ゲット!残り474,200ゴルド。


「ありがとうブラウンさん!よっ男前!」


「おだてるなってぇ!じゃ、頑張れよ!」


満更でもない顔で店主ははにかんだ。

ブラウンさん…このハードモードの転生生活であんたが唯一の良心だ…。


─────

俺は手にした地図を見て図書館がないか探した。

んん…字は読めるが固有名詞がよく分からない…。この蔵書庫ってとこに行けば本が読めるのか?

日が落ち始めている。急がなくては。


────

ここか…なんだか凄く厳かな雰囲気だ。


「すみません、ここで本の貸出ってしてますか?」


「お客様、本施設のご利用は初めてですか?」


お客様って言われた!つまり借りれるってことだな?


「はい初めてです。」


「ではまず会員証を発行致します。ここにご自身のお名前をご記入下さい。」


名前…そういや俺まだ戸籍ないんだけど大丈夫なのかな。

とりあえずロクトと書いて提出した。


「ロクト様…すみません、こちら本名で登録して頂くものでして」


く、ダメか…どうする……


途方に暮れていた時、そこに一人の女性が現れた。


「──入館を。」


会員証を受付に見せている所を見るに、お客さんか。


「あら、君、何かお困り?」


「あ、えっと…」


腰まで伸びた赤い髪に、品を感じさせる整った顔立ち。落ち着いた服装に、物腰柔らかな口調…

如何にも文系って感じの上品なお姉さんに俺は暫し見蕩れていた。


「私ここの常連なの、何か困ってたら教えて?」


「俺、本名が分からなくて…それで会員証が作れなくて…」


「本名が分からない?」


「はい…記憶喪失でして…」


「そう、なら少しあちらでお話しましょ。ここじゃ邪魔になるでしょうしね、ふふふ…」


俺は導かれるまま、お姉さんについて行った。


────

そして俺達はお洒落なカフェに来ていた。


「セリビアティーのホット、君は何か?」


「あ、じゃあ同じものを」


「畏まりました。」


店員が下がったのを見てから、赤髪のお姉さんは話し出した。


「…さて、君お名前はぁ?」


「ロクトです。」


「ロクトくん、記憶喪失っていうとはどういうことなのか、落ち着いて説明してもらえる?」


「はい…目が覚めたら道に倒れてて、思い出せたのは名前と、歳だけで…」


「一応戸籍を調べてもらったんですけど、見つからないらしくて。」


「そう…あなたは『召喚』されたのかしらねぇ。」


「召喚…」


「異世界の魔物を呼び寄せる魔法よ。」


「じゃあ、俺は何者かによって、その魔法でこの世界に…」


「ふふ、今のは冗談よ。あなたはどこからどう見ても人間だもの。」


一般常識がないので何が冗談かも分からない…


「失礼、それじゃあ一先ずは、私が本を借りてきてあげるわ。何の本をお探しで?」


「俺、まだこの世界のこととか、そういう常識的なことも分かってないので、簡単な歴史書とか、社会の教科書みたいなのとか」


「…そういうことなら、私が教えてあげるわぁ。そっちの方が早いでしょう?」


「え、いいんですか?」


「えぇ、記憶喪失の人間なんて珍しいものが見れるならお易い御用よ。ふふ。」


………もしここで嘘を教えられたら、俺はこの世界の常識を誤認し、完全に詰む。

だが、ここで断って本を借りて来いなんて言えるはずもない…。俺はこの女性を、信じるしかないのだ。


「じゃあまず、『魔法』と『権能(スキル)』について簡単に教えてください。」


「えぇ。いいわよぉ。」


ルーシアさんは店員の運んできたホットティーを口にして、一息ついてから落ち着いた様子で語り始めた。


「まず魔法っていうのは、魔力というエネルギーを利用した現象全般の事よ。」


「魔力は目には見えないけど、人の周りに常に滞留してる。そのエネルギーを使って何かをしたら、それだけで魔法。」


「魔力量は血統によって先天的に決まっていることがほとんどよ。貴族と呼ばれる家は魔力に優れた一族であることが多いわね。」


「対して、魔法は知識の量で使い勝手が変わる。」


持ってるエネルギー量は才能で決まるが、それを上手く使えるかは魔法の勉強次第ってことか。

…どっちにしろ、才能のない俺には、おそらく魔法は一生使えないということか。


「そして、権能(スキル)というのは、神から与えられた『特権』。」


「魔法のように色んな事が出来るわけじゃないけれど、ただ一つの特権を行使する上で魔力は必要ない。」


なるほど…だから魔法適性──つまり魔力量12の俺でも使えたわけか。


「スキルは変更できないんですか?」


「出来ないわよ、神から与えられたものですもの。」


「ちなみに、お姉さんのスキルは…」


「ちょっと、女性にスキルを聞くなんて失礼よ?」


失礼なのか…


「すみません…」


「まあ、記憶喪失なら仕方ないわね。他に質問は?」


「役所で16歳は成人してるって聞いたんですけど、この国の就学期間ってどうなってるんですか?」


「3歳〜5歳は初等部。6歳〜9歳が中等部ね。ここまでで一般教養を学ぶわ。」


「その後、10歳〜15歳が、高等部。みんな自分のスキルに合った職業の勉強と実経験を積むの。魔術師志望の人は魔法科が該当するわ。」


「へぇ〜なるほど」

今の俺はものすごく遅れをとっているということは確かなようだ。


それから俺は、この世界のこと、この国のこと、この区のこと、歴史、文化、法律、モラルなど常識的なことを色々教わった。


────


「すっかり日が沈んでしまったわね。」


「遅くまですみません、本当に助かりました。」


「私も忘れかけていた当たり前を再確認する良い機会だったわ。また何か聞きたいことがあったら聞いてちょうだい?」


そう言って女性は、茶代と一枚の札をその場に残し、席を立った。


「最後に一つ、聞いてもいいですか」


「えぇ、どうぞ?」


「貴方の名前を教えてください。」


「…ルーシア・スカーレットよ。今後ともよろしく。ふふふ…」


彼女は背中越しにそう言って、その場をあとにした。


…不思議な人だったな…。

いやしかし、一日でこれだけ知識を得られたのはかなりアドバンテージを取れたはずだ。

転生以来初めての幸運!ありがとう、ルーシアさん…!

使ったのはお茶代だけ、残り473,800ゴルド。…しかし、戸籍がないってのは困るな。


…で、最後に渡してきたこの札は一体?ルーシアさんのサインらしきものが書いてあるけど、名刺的なものだろうか?



すっかり夜になり、冷え込んできた。今日は本当に密度の高い一日だった…。

そろそろ体力も限界なので、俺は五度、宿に足を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ