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買収チートで異世界改革物語【金を制する者は異世界をも制する】  作者: 揺蕩もちゆさ
家出娘は鳥籠の中?
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1話 転生【1】

「──くとくん!ろ──ん…!」


声が…聞こえる…。


ぼやけた視界には、朧気に月が映っている。


背中が熱い。身体が動かない。



「ろ────!」


微かに聞こえていた声も聞こえなくなり、

微かに見えていた空も見えなくなり──


やがて静寂と漆黒に包まれた。


────


「……………んぁ?」


目覚めるとそこは、土の上だった。


頭がぼやける…俺は一体──


目を擦りながら起き上がる。

嫌な夢を見たせいか、記憶が混濁していて現実を認識できない。


「えーっと……」


見渡すと、やけに閑散とした街に、舗装されてない柔らかい土。


俺はこんな田舎住みだったっけ。


街ゆく人の服装は、まるでファンタジー世界の住人の様な格好に見える。


何もかもが俺の記憶している世界とはかけ離れていた。


あ、そうか。なるほど。ようやく理解した。

つまりこれが──




異世界転生ってやつか。




────────

俺の名前はロクト。多分下の名前。16歳。今はそれしか思い出せない。


どうやら俺は何らかの事故で死んでしまい、そして何らかの理由により異世界に転生してしまったらしい。

我ながら突飛な仮説だとは思うが…今はそう思うしか、この状況を飲み込む手段がないと俺の本能が告げている。


何はともあれ、まずは状況把握だ。俺は興味の向くまま、その辺を散策してみた。見た感じ家屋は西洋風、そしてこの辺りは田舎の方だと思う。比較対象はないが、この寂れた人通りで都会だったら俺が困る。


比較的賑わっている方へ足を運ぶと、商店が立ち並ぶ通りに出た。


商店街──と呼ぶにはまだ閑散としているが、人の多い場所を散策して色々分かったことがある。


まず明らかに見た事の無い食べ物が売っている為、ここは異国でなく異世界だと確定してしまった。


そして彼らの会話が理解出来たということは、言語は習得済みということになる。


また、窓に映る自分の姿は、ハネ散らかった黒髪に覇気のない目、そしてこの世界の文化に隷属する、みすぼらしいローブ…明らかに自分の知ってる姿では無かった。なるほど、異世界転移の可能性も考えたが、転生の方で間違いないようだ。


サクサクと状況把握を進められたはいいが…身振り手振りしてもシステムメニューは開かないし、転生の割に道端に捨てられてて知り合いは居ないし、そもそも最初に神様からの説明もないしで、俺は途方に暮れていた。


俺が嗜んでたラノベって文化じゃ異世界転生はもっと親切設計だったはずだぞ、どうなってんだ。スマホとかくれよ。それかせめてチートスキルの一つくらい…


って、そうだスキル!この世界ってスキルとかあるよな!?ある、きっとある異世界なんだし!もうそれに賭けるしかない…!


俺は「宿」の字が書かれている建物を見つけ、とりあえず入ってみることにした。


────────


「すみません…」


「いらっしゃい、予約のお客さん?」


出迎えたのはかなり大柄な男だった。筋骨隆々とした前腕からでも相当な鍛え様であることが窺い知れる。


「えと、自分、今ちょっと記憶喪失なものでして」


「は」


「知り合いとかも、何も思い出せないんですけど、そういう人って何処に行けばいいんですかね」


「おーん、えーーっと、なるほど。記憶喪失…マジかいな?」


「マジです…」


「そうか…とりあえず、役所にでも行ってみるといいんじゃあないかい?」


そう言って受付の逞しい男は簡易的な地図を書いて渡してくれた。


「ありがとう…!このご恩は必ず!」


────────────

「ここで合ってるのかな…」


俺は地図を見ながら、なんとかそれらしき建物に辿り着いた。


「ごめんください」


「……どうされました?」


受付のお姉さんは俺を不思議そうな顔で見た。伝わってはいると思うが、言葉遣いがネイティブではなかったのだろうか。


「自分、記憶喪失になってしまいまして」


「記憶喪失…」


「はい。身寄りも、多分いなくて。どうしたらいいですかね。」


「覚えていることを教えて下さい。何でも構いません。」


「ロクトって名前と、たしか今16歳ってことです。」


「畏まりました。ただ今戸籍をお調べしますね。」


「お願いします。」


この世界って風貌からして情報技術とか無さそうだしどうやって調べるのかと思えば、受付のお姉さんは白紙に手をかざし、文字を浮かび上がらせた。


紛れもない、魔法だ……予想はしてたが、改めて見ると目を疑う。


「申し訳ございません。お客様のお名前とご年齢に該当する戸籍は見つかりません。」


「さいですか…僕、どうしたらいいですか?」


「成人済みということでしたら、まず権能(スキル)測定を行い、権能(スキル)に合った職業に就いて自立して下さい。次の方どうぞ〜」


「えぇ…っ?自立してください!?」


なんか冷たくない…?

いや…見たところこの辺り寂れてるし、謎の浮浪者を食わせる余裕なんて無いのか…


とりあえず権能(スキル)測定ってやつに行こう。チートスキルとは言わない。それで最低限職に付けるスキルが判明してくれれば…

でなけりゃいきなりゲームオーバーだ…。


俺は役所のお姉さんに事務的に渡された地図を参考に、たらい回しの末、冒険者ギルドにやってきた。


───────

「すみません、権能(スキル)の診断をしてもらいたいんですけど」


権能(スキル)測定ですね、こちらへどうぞ。」


よかった。無料で受けられるんだ。

俺は小部屋に通され、上着を脱がされた。


「では、こちらの椅子に座ってください」


「座るだけでいいんですか?」


「大丈夫ですよ。」


椅子に座ると受付嬢が真正面に相対し、右手を俺に、左手を浮遊する紙にかざした。


…………

一瞬、受付嬢の右手が光ったかと思うと、すぐにその光は収まり、代わりに紙の方が少し光った。


「測定終わりました、受付にてお返ししますね。」


「ありがとうございます」


運命の瞬間だ…これで外れスキルだった場合俺は路頭に迷ってしまう。

頼む…せめて職に就けるスキル…!


「お客様の権能(スキル)は『契約』ですね。」


「契、約?」


「魔法適正値は12です。」


「それって高いんですか?低いんですか?」


「最低ランクですね。」


「えぇ…っ!じゃあ、契約ってどういうスキルなんですか?」


「3件の前例によると、文字通り約束した事柄を必ず実行させる権能(スキル)になります。」


「へ、へー。悪くなさそう。ていうかこの世界って契約法ないんだ。」


「…?ありますよ?」


「じゃあこのスキル要らなくない!?」


「…お疲れ様でした。」


そのお疲れ様でしたは人生お疲れ様でしたって意味ですか?


くそ……俺はここで野垂れ死ぬのか…?そんな異世界転生有っていいのか…!?


ぐぅぅ……お腹すいてきた………死ぬ……


そうだ、冒険者ギルドってことは依頼掲示板があるはずだ…!そこで何かの依頼をこなして…!


───────

一角獣の角の納品、害獣撃退、熊討伐、送迎護衛…


分かってはいたが、冒険者ギルドに来る依頼ってことは基本的に戦闘力を必要とするものばかりだ。

身体能力も魔法適正値も低く、武器や防具を揃える元手もない俺には受けられない…


なんとか、なんとか戦闘力を必要としない依頼がひとつでもあれば…!


俺は掲示板に張り出された依頼書を必死で見渡し、一つだけ気になる掲示を見つけた。


「家出娘の…捜索?」


こ、これだ…!俺が唯一受けられる依頼!

えーっと?成功報酬形式で、報酬はいちじゅうひゃくせん…ひゃ、ひゃくまん?100万ゴルド!?


えーっと、この世界の貨幣価値は…街で売ってたりんご程の大きさの果物数種が1個平均100ゴルド前後だったから…取り敢えずは円と同程度と考えよう。


となると、100万ゴルドは間違いなく大金だ…!もうこれしかない…!死ぬ気で娘さんを探し出す!そんでこの100万を元手に定職について自立できる環境を整える!それしかない!!


────

受付に戻り、俺は受付嬢に申し出た。


「クエスト、『家出娘の捜索』を受けたいです!」


「…は、はあ。畏まりました。…では一応依頼主に確認しますね。」


そう言うと受付嬢は手を耳に当て、誰かと話し始めた。

へー、この世界は魔法で電話みたいなこと出来るんだ。


「失礼ですが、お客様、冒険者ランクはおいくつですか?」


「冒険者ランク?とは?」


「…Fですね。少々お待ちください。」


初期値がFなのか。


「申し訳ございません、依頼主様のご意向としては冒険者ランクC以上をご希望との事でして」


「な、なんだと…」


「またの機会によろしくお願いします。」


「そ、そうですか……」


最後の希望があっさり絶たれてしまった…


さっきの役人といいこの受付嬢といい…対応の冷たさからして浮浪者への救済処置とかは無いんだろうな…


と、とりあえず……お金貸してくれる人を探さないと…し、しぬ…餓死する……。


でも、傍から見たらこんな職に就けるかもわからない俺に金を貸してくれる人なんて…


──────

俺は最初の宿に戻り、ダメ元で頼んでみる事にした。


「ん、さっきの記憶喪失のあんちゃんじゃねぇか。」


「先程はどうも…」


「どうした、フラフラして、大丈夫か?」


「えぇ、ちょっと、というかもう限界レベルで空腹で…その…大変申し上げにくいのですが…」


「お金を貸してください…」


「あんちゃんなぁ、悪いけどウチも余裕ないんや。この辺りは特に貧困地域やしのぉ、返ってこない金を貸す余裕はないんよ。」


「就職したら返しますから…!」


「そんな口約束じゃあなぁ」


く…やっぱダメか…


ん…?口約束?


「じゃ、じゃあ店主さん。こういうのはどうですか?」


「んぉ?」


「500ゴルド貸していただけたら、1000ゴルドにして返す。もし10日後までに返さなければ、俺は1ヶ月ここでタダ働きする。」


「だからなぁ、そうは言っても」


「『契約』」


「はぇ?」


「俺の権能(スキル)だ。さっき鑑定してもらった。診断書もある。」


「ふむ、なるほど?契約…ほーん。」


「これならどうだ、返せなきゃタダ働き、これなら逃げられないだろ?」


「約束を強制的に守らせる権能(スキル)…………なるほどなぁ。おう、それならいいやろ。」


「ありがとうございます!!」


や、やった…!とりあえず死なずに済んだ…!


俺はその金を握りしめて商店街に戻った。


─────

もうなんでもいい。食べれればなんでもいい…!

そんな思いで俺は最初に目についた派手な色の果物を買った。

何が美味いかなんて知らん。極限状態の人間が直感で選んだ獲物を信じるんだ。


俺は買い物の直後、外でそのまま果物を一心不乱に頬張った。

………もっ……もしゃ……もっ……

瑞々しくも食べ応えのある食感と、柑橘系の爽やかな甘さが広がる。

空腹のあまり美味しいとか感じる余裕もなく気づいたら完食していた。


ふー…生き返った…。

糖が脳に巡り、思考力が少しはまともになったことで、状況が冷静に見えてきた。

そう。安心してる暇はない。今ここで死ななくなっただけで、状況は何も変わってない。

しかし、契約を使えばお金を貸してくれる人はいるから、それであと何日かは……


いや、違う…!それじゃダメだ!

死なない為じゃない、生きる為に使うんだ…!

俺がこの先も生きていくためには…

なんとか娘の捜索依頼を受け、達成し、報奨金を元手に生活を立て直す…


そうだ、この権能(スキル)は「信用を得る為の権能(スキル)」なんだ。

これを使って、なんとかお金を集める……。


俺がFランクの冒険者だとしても、例えば50万ほど用意して見せたら?

この辺りの貧困度合を考えれば、50万は超大金。これを捜索費用に充てると言えば、Fランクでも馬鹿には出来ないはず…


あとは、そんな大金を借りれるだけの担保だけど…

そんなのひとつしかない。俺の命だ。

元々この依頼を達成出来なきゃゲームオーバーってとこまで追い詰められてんだ。

命をかけて命が助かるなら安いもんさ。


──────

「おぉ、またさっきのあんちゃんか。」


「お陰で生き返りました。それに、活路も見えました。」


「それは良かった、で、どうする?泊まってくかい?っても、金がないんじゃ──」


「そうですね…まず、10万ほど融資して頂きたい。」


「いやあんちゃんそれは流石に──」


「10日で14万にして返します。返せなきゃ俺の全権利は貴方のものだ。一生奴隷にするなり臓器売り飛ばすなり好きにしてくれて構わない。」


「ほ、本気なのか…?」


「あぁ。お願いします…!」


「…さっきまでの腑抜けた顔なら断ってたが…少しはマシな目してるじゃねぇの。」


「10日で4万か、一生使える奴隷がタダで手に入る…それを契約で保証してくれるんなら、こっちとしては美味い儲け話やな。」


「あ…ありがとう…!」


〜契約〜

甲:ニック・ブラウンと乙:ロクトは以下の契約を締結する。

甲は乙に金拾萬(10万)ゴルドを貸し与える。

乙は甲に、契約執行から(10)日以内に貸付利子含む金拾四萬(14万)ゴルドを返済する。

乙がこれを逸した場合、乙は罰則として全権利を甲に捧げる。(ただし罰則規定は甲に返済を受け取る意思がある場合に限る。)


「必ず熨斗(のし)つけて返します…!」


「おう、頑張れよ!」



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