会議始まりまーす
私は紅葉。
ジョセフ様という主君にお仕えしている東方の侍だ。
今日はジョセフ様の話の種を探しに会議の護衛を受けた。
しかし、私は口下手で上手くジョセフ様の役に立つ話を伝えられるかどうか…
「よおモミジ。しばらくだな」
「ジョーか。ご依頼どうも」
「まあ、別に依頼しなくてもよかったんだけどな」
五国の重鎮にはそれぞれ腕利きの護衛がついていて、英雄であるジョーもいる。確かに私は必要ないだろう。
「じゃあなんで今日は私を雇ったんだ?」
「お前に一つ言いたい事があったからだ。なんせ俺も英雄なんでな。ほいほい動けねえわけだ」
「なるほどね」
ジョセフ様は知りたがりの聞きたがりなのでこの依頼は自分は受けられなくても私を行かせると考えたわけか。
「それで何の話だ?」
「ジャスティーンって奴がいただろ?」
「誰だそいつ?」
「お前が殺した決闘者だ」
「ああ…あいつか」
「ありがとうよ。部下に殺させるつもりだったんだよ。手間がはぶけた。あいつ色んな奴を食い物にしててな。強引に相手を決闘させる事もやってたからな」
「へえ。どんな手で?」
「立会人を知り合いに頼んで自分は口だけの野郎だって決闘相手に言わせて弱そうに見せたりとか…色々だ」
「ゴミだったな。あいつ」
女性をいたぶるとか弱い奴を狙うとか最悪なゴミだった事を思いだし、そのままの感想を言った。
「ああ。殺してくれてありがとうよ」
「社会に貢献できてなによりだよ。私も」
「それでな。モミジ、俺の部下にならねえか」
「前も言ってたな。それはなしだ」
「何故そこまでジョセフの護衛でいることを望む?あいつもクズだろ」
「確かにクズだが…」
ジョセフ様をクズと言っていいのは私だけだ。
私は殺気を放つ。
「…悪かった。ここは大事な会議の場だ。揉め事はよそう」
「そうしよう」
「会議室にはもう代表が集まる頃合いだ。モミジ行くぞ」
「分かった」
「…この町の税の五国分配については終わりました」
最初の議題は税の話だった。よく分からなかった。
ジョセフ様に説明できない…
「次は睨みあいが続く大教国と小競り合いが続く連邦国家、そしてその他の小国についての話に移ります」
次は戦争についての話らしい。
「…それでは並ぶ者なき者アンダー様からお願いします」
しかし、五大国の一つである軍国クランオールのトップが会議にでているとは思わなかった。
会議の流れは完全にアンダーが握っていると政治の素人目でも分かる。
「我は連邦国家を滅ぼそうと思う。何か意見はあるか?」
会場がどよめく。
「…アンダー様…それはいささか性急すぎるかと」
勇気をだして商国ザードリィの重鎮が発言した。
よく分からないが小競り合いで儲かる商売もあるのだろう。それに連邦国家にも英雄はいる。滅ぼすまでいくのには時間がかかるというのもあるだろう。
「もう決めた事だ。クランオールが責任を持って連邦国家を滅ぼす事を約束しよう」
「戦争で私達の国も被害を受けます!」
「そうです!クランオールだけの問題ではないのですぞ!」
「そうだそうだ!」
「黙れ!」
アンダーの言葉に全員が沈黙する。
「我は正直な話、この同盟もうんざりしておるのだ」
沈黙が続く。
「同盟とは聞こえがいい話だが、やっている事は我先にと利権の取り合い。協力などとはまやかしの足の引っ張りあいではないか」
アンダーの言葉に誰もが黙る。
「我はな。心踊る戦争がしたい。もう何年もそんな戦争をしておらぬ」
ジョセフ様がこの場にいたら脳筋だと笑いをこらえているだろう。
私は正直な感想で好感が持てるが。
政治とはめんどくさいし。
陰謀渦巻く利権の取り合いの話はこの町の噂にもなっている。
誰々が暗殺されたとか色々聞く。五国同士でも小競り合いが続いている状態なのだ。
「…そのお言葉はクランオールは同盟を破棄するという事ですか?」
「この状態が続くのであればな。クランオールは汝ら四国とも戦争を辞さない」
「なんと…」
これはすごい現場にでくわしてしまったのかもしれない。
「この議題は国に一度持ち帰りませんと…」
「私もです」
「私も…」
「私もですね…」
四国の重鎮は口を揃えて言う。
「では王共に伝えるのだな。クランオールはやる気だと。二週間やろう。生産性のある意見がでない場合はまずは連邦国家を滅ぼす方針である」
一つの国の王の発言に皆は何も言えない。
「…えー次の議題に移りたいところですが、重要な話がでましたので会議は終わろうと思いますがよろしいですか?」
進行役が勇気を振り絞って言った。
「それでよい。会議は終わりだ。この町の英雄ジョーと言ったな。我と手合わせするがいい。軽く運動がしたい」
会場がどよめく。英雄同士の戦いが見れるかもしれないのだ。どよめくだろう。どよめいてばかりだね今日の会議。
「いえ…並ぶ者なき者アンダー様とお手合わせするなどとてもとても…」
ジョーが言う。
「王様に怪我させたら大変だしな」
あっやばい。つい声をだしてしまった。まあいっか。
「ほう。そこの女。我が怪我をすると?」
「そりゃこの町の英雄ジョー様が相手ですからね怪我しますよ」
「おいバカやめろ」
ジョセフ様をクズ呼ばわりしたお返しだ。どうにでもなれ。
「ほう。面白いな」
「そうです。ジョー様は強いですからね怪我しますよ」
「面白いのは汝だ」
「私?」
「我を前にして物怖じしておらぬ。実に面白い。手合わせ願おうか」
武人としては願ってもない機会がめぐってきてしまった。
「喜んで」
だから答えた。
「ふむ!ますます面白い!」
これは私もジョセフ様に面白い話が出来る。
「どうなっても知らねえぞ…」
ジョーのその言葉が頭に残った。