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異世界物書き道中  作者: トッキー
4/10

エルフとドワーフ

 それは奇跡の恋物語…

 ジョセフ著。ある二人の出会いより。





 今日は何もせず酒場で俺は食事をしていた。

 ふと周りの客を見回すと珍しい組み合わせの男女がいた。

 ドワーフの男とエルフの女性だ。

 これら二つの種族は、自分の親を殺されたのかと思うほど仲が悪い。

 一緒に酒場で飲むなんて事はまずない。

 そんな二人の事が気になり声をかけてみる事にした。

「すみません。同席してもいいですか?」

「なんだ人間。席は他にも空いてるだろ?」

 エルフは尊大で他の種を下にみる傾向がある。

「…リオン。座らせてやりなさい」

 ドワーフの男が言った。

「…分かった。座れ人間」

「ありがとうございます」

 大人しく俺は席に座る。

「それで貴方は僕たちに何用ですか?」

「いえ…私は物書きをしていましてね。とてもお二人が珍しい組み合わせだと思いまして、お話をよければ聞かせていただけないかと」

「話す事など何もない」

「二人はどういったご関係で?」

「…なかなか好奇心が強い方なんですね」

「ええまあ。それが仕事なので」

「僕たちは夫婦です」

 夫婦だと。

「おいクラッグ!」

「クラッグさんとリオンさんは夫婦だったんですか」

「やはり珍しい組み合わせだと思いましたか」

「私の知る限りでは種族間で仲が悪いと有名ですから」

「今でもクラッグ以外のドワーフの事は嫌いだ」

「僕も他のエルフは吐き気がしますね」

 似た者同士かこいつら。

「ますます二人の出会いが気になりますね」

「…僕たちは昔冒険者でしてね」

「ふむ」

「それである洞窟で他の仲間をお互いに失い、遭難してしまったんですよ」

「なるほど」

「そしてその洞窟はとても真っ暗でお互いの姿がはっきりと確認できませんでした。松明もなく彼女も魔力が底を尽き光を照らす呪文を唱えられずにいました」

「お二人は最初、お互いにエルフとドワーフだと気付かない状態だったと」

「そうです。それでその洞窟はなかなかに強いモンスターもいて出会った私達二人は協力して洞窟を脱出することになったんです」

「ふむ。無事脱出できたわけですね」

「ええ。本当にかすかな光と覚えていた道筋を頼りに二人で協力しあって脱出できました」

「それで脱出した後はお互いの姿を確認できたわけですよね?」

「ええ。できましたね。笑ってしまいましたよ。先祖代々憎んでいたエルフと協力して命がけの洞窟脱出をしたんですからね」

「私もクラッグが笑っているのをみて笑ってしまったな」

「それでさらにおかしな事に協力していく内にお互いの事を好ましく思っていたんですよ」

 そこでクラッグはドワーフの赤い顔をさらに赤くした。

「…私は出会った時、たくましい王子様が私を過酷な洞窟から助けだしに来てくれたのではないかと妄想してしまった」

 リオンも美しい顔に赤みがさす。

「僕も勇ましい姫君を助ける王子の気分でしたけどね。脱出してるときは」

「なるほど…」

「そう。それでお互いに燃え上がってしまったんですよ。僕は他のドワーフ族と縁を切り、彼女もエルフ族と縁を切りました」

 身分違いや、家同士が反目しあっている恋人同士の話は聞くが種族自体の縁を切るなんてあるんだな。

「やはり他の種族の方たちは反対でしたか」

「反対も何も正気を疑われました」

「私は最高齢の長老が普段表情を動かさないのにその時だけは驚きの感情を表したな」

「なるほど」

「それでまあ…ここからは血生臭い話もあるので食事の席で言うような事も他人に話すような事でもないですね」

「そうですか。ありがとうございました」

 二人の仲を引き離そうとどちらの種族も相手方を殺そうとしたのだろう。それは血生臭い話だ。

「子供が成人したので今は夫婦で旅行中なんですよ」

 子供いるのか。さすがお互いに長寿の種族だな。だとすると最近の話ではないのか。これは本に書けそうだな。

「それはリオンさんとクラッグさん。二人の仲をお邪魔してすみませんでした」

「…まったくだ」

「僕は誰かにこれを話したいというのもあったから…お構い無く」

「なるほど…自分の幸せな恋物語を他人に話したいというのはありますよね」

「ええ。貴方も恋をするとよろしい。僕たちのような燃え上がる恋をね」

「ええ。できる事ならしてみたいです」






「ジョセフさんどうでした?あの二人」

「マスターが決闘の取り決めしてるだろうとか言ってたけど違かったよ。逆だ。あの二人夫婦」

「えぇ…嘘でしょ?」

「本当だよマスター。二人の愛しあっている者同士特有の空気にあてられて砂糖吐きそうだ。そこそこ強い酒を頼む」

「了解」

 浴びるように飲んで忘れたいほど二人の雰囲気は甘かったが、物書きという仕事はそれを許さない。

 エルフとドワーフの決闘話を書けるかと思ったが逆の話を書くことになりそうだ。

「やれやれ。命が軽いこの世界の価値観に俺も少し染まってるんだな」

 戦争よりも俗っぽい愛のほうがよっぽど高尚で素晴らしいものだというのに…


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