ゴミ拾い2袋目
「月島さん、これ箱から出しといてくれるかな」
「あいあいさー!」
あいあいさー…って、なんだ?
時々、月島さんの発言には年齢の差のようなものを感じるな。
…最近の流行りなのか?
「あーーーーーー!!」
「どうした!月島さん!」
「こ…この景品…」
中身が違うのか、はたまた不良品なのか?
嫌な予感を感じつつ、俺はダンボールの中を覗いた。
「…………ん?」
「銀さん…どう思いますか…」
「どうって…どこがおかしいんだ」
「何も思わないんですか!」
ダンボールを覗き込む俺を押しのけ、月島さんが中から景品を1つ取り出した。
その景品を両手で高々と、まるでサッカーワールドカップの優勝カップを掲げるかのように持ち上げてみせた。
「このクオリティ…もはや、ゲーセンの景品の域を超えてると思いませんか!」
「月島さん…」
「銀さんも思いますよね!ね!ねっ!」
まるで捲し立てるように語り続ける月島さんに、俺の大人の対応が炸裂した。
「月島さん…とりあえず仕事しようか」
冷静な俺のトーンに、ハッと我に返る月島さん。
だが、少し興奮した様子はいまだに続いているな。
「その景品、何?」
「これは、最近話題のゲームのキャラクターです!」
「へぇ…面白いの?」
「スゴく面白いです!オンライン対戦も出来て、全国大会も開催してるんですよ!私はまだ、ランク80って位なんでまだまだなんですけど、前のシーズンではかなりいい所までいったんです!今シーズンも、今のままいけば上位ランカーの中に私のネームがのって…」
「月島、まてぇ〜い!」
興味があるわけでもないのに、迂闊に聞くもんじゃないな。
このマシンガンのような言葉の銃弾を、ずっとあびるのは流石に御免こうむりたい。
「月島さん、それが君の大好物だと言うことは理解した…だが、もう一度あえて言おう」
俺は月島さんから景品をとるとダンボールへ戻し、今度はダンボールごと月島さんへ渡した。
「月島さん、とりあえず仕事しようか」
「はい!」
少し呆れている俺とは対照的に、やたら嬉しそうな月島さんは、景品の陳列を楽しんでいるようすだ。
それじゃなくても、普段からニコニコしたイメージばかりだからスゴいもんだな。
「この景品を私が陳列出来るのも、宇宙の神様の仕業なんですよ!」
「また宇宙か?」
「えぇ!宇宙です!今日、この時間にバイトに私がきて、この景品と出会えたんですよ!」
「ただの偶然だろうに」
「わかってないなぁ〜銀さんは…必然なんですよ」
「なんでだよ、この景品が今日納品されたのは俺達には関係ない事じゃないか」
「そうじゃなくてですね…つまり、自分の好きな事に自分を導くと、必然的に好きな物や好きな事が勝手に集まってくるんですよ」
「って事は…お金持ちになりたいとか思ってたら、お金持ちになれるのか?」
「違います」
「いや、すまん…まったくわからんのだが」
「良いですか?お金持ちになりたいんじゃなくて、もうお金持ちなんです」
どうにも宇宙の発想ってのは難しいな。
正社員にもなれず、ゴミ拾いとアルバイトの日々の俺が…月島さんに言わせると、お金持ちなのか?
「これは一度、銀さんとじっくり話をする必要がありますね」
「…遠慮しておく」
「なんでですか!」
「雲をつかむような話っぽいからな」
「今度教えてくれって言ってきても、教えてあげませんからね!」
少し怒ったような口調でも、どこか楽しんでいるようなアッカンベーに、月島さんが怒っていない事は容易に想像できた。
まぁ、いずれにしても雲をつかむような話どころか、宇宙をつかむような話にはまだまだついていけそうもないな。