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さすがの私も地上を見下ろす眺めに飽きてきた頃、中間地点に差し掛かった。(例の看板が教えてくれた)
相変わらず周りの天使は沈黙を続けたままだし、何ら変化を感じるようなこともないので、やはり退屈だった。
人間あまりに退屈になると、ろくでもない事を始めようとする。
ただあらかじめ弁解させて欲しい。
これから始めようとする事は、普段の私なら決してやろうとは思わないことだ。記憶のない私が、普段の私というのもおかしな事だが、今持ちうる私の判断基準を持ってすれば、私はきっとやらないであろう事を今からやろうとしていた。
それだけ退屈だったのである。
つん。
と、気が付けば私はおもむろに、私の前に並んでいる天使の首に、ちょんと軽く人差し指でつついた。
なんなら、相手が振り向いたときに、指が頬に刺さるように配置するあのトラップを仕掛けようと思ったが無意味だった。
「無視ですか……」
会話もまともになければ、反応すらない。
天使とは、かくもつまらないものなのかと落胆させられた。
ちょっとだけサトミさんが恋しいと思った。もっともあの人は普段、新規にやって来る天使につきっきりで、私にかまってくれる時間はそれほど長くはないのが寂しいところではあるが。
仕方ないので私は鼻歌を歌うことにした。メロディは頭に思い付いた、軽快で明るめのオリジナル曲だ。
私が思い出せないだけで、もしかしたらとびきり有名な曲かもしれないけど。
再び長いような短いような時間が経過した後、私はふとある疑問を抱くようになった。
広い階段の左側に、びしっと縦に一列整然と神様直行の行列が並んでいるが、逆に降りてくる天使の数は圧倒的に少なかった。
元々天使は、私を含め皆、感情の起伏が少ない。
が、それにしても降りてくる天使の表情は、はっきりと変化させてはいないものの、これから上がっていく天使に比べてより一層落胆の色を強めているような気がした。
一体この先で何があったのだろうか。
なんて、自分が不安を感じてるかどうかも分からない鈍い感性でそんな事を思っていた。
でもまたすぐにそんな事を忘れて、地上を眺めていた。