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「おお……」
人間誰しも(今は天使だが)、本当に感嘆させられた時には言葉が出なくなるものだ。
そこに神様がいるというその場所は、天をも見上げるほどの果てしなく巨大な階段が視界いっぱいに広がる。
その先の上に神様がいるとのことだった。
この上に神様はいます
相変わらず簡素な作りの看板にそう書いてあった。ちなみにやはり白。
「貴方も神様にお願い事ですか?」
階段下でキチリとした姿勢で佇んでいた天使に声を掛けられた。
ひと目見て、その天使は私やサトミさんとは少し違うと思った。
「輪っか……?」
頭の上にピカピカの輪っかがプカプカ浮いているのだ。
まるでそれは、輪っかの蛍光灯みたいと言ったら、怒るだろうか。
「はい。私はここの案内役ですので」
案内役だと輪っかが貰える? でもサトミさんに輪っかは無かったはずだ。
「神様にお願い事しますか?」
「はい」
「では左列の最後尾に並んでください」
天使に案内され、私は階段の一番まで続くこの果てしない列に並んだ。
きっと人間時代ならば並ぼうという発想に至ることはないだろう。
そう思わせるほどに、階段の先は遠く果てしなかった。
一年を三日と思い込むほど、感覚の鈍くなったこの世界においては、行列に並ぶという行為もさほど苦痛ではなかった。
なにより、立っていてもあまり疲労を感じない。
まだ終点は見えてこないが、この分ならばたいして苦労せずに行けそうだと思った。
ちなみに暇を潰そうと、自分の前や後ろに並んでいた天使に声をかけたのだが、まともに返事をしてくれなかった。
随分と深刻そうな、悲痛な表情を浮かべていた。
どうしてそんなに悲しそうなのだろう、と思ったが、すぐに理解した。
生前にやり残したことに対する後悔などが、そうさせているのだ。
私にも自分の記憶があったなら、あんなにも悲しい顔でこの場に立っていたのだろうか。だとしたらそんな生前の記憶はむしろ、あるだけ悲しいと思った。
並んでから、階段がある事以外に、視界いっぱいの地上が眼下に広がっていた。小窓からも地上を見る事はできたが、この規模の吹き抜けの床(もはや、一面何も無い)から見える景色はまた格別の良さがあった。単純に綺麗だと思った。