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死んでからこの世界に放り投げられて思ったのは、
「退屈ね……」
確か人間として生きていた頃は、毎日何かに追われて急かせかと動いていたと思う。
それがこの世界に来た途端、全部今までの出来事が夢だったかのように暇を持て余している。
私は今、 小窓と呼ばれる、白い床に空いた小さな四角い穴から足を伸ばしてぶらつかせていた。
殺風景な世界ではあるが、この穴からは地上が見下ろせるので割とお気に入りだった。
ただあまりに高い場所にあるので、私が住んでいた場所も、あの辺、というくらいにしか分からなかったが。
この世界に来てからというもの、何をするわけでもなくこの辺を彷徨っていた。
が、やはり何かある訳でもなく、こうして天使がみな、小窓と呼んでいるこの穴に、ぽつんと一人、座っていた。
「また、ここに居たのね」
そう声をかけてきたのは、初めて天使を知るキッカケとなった、サトミさんだった。
サトミさんは普段から、初めてここを訪れる者にこの場所を説明する役目としてこの周囲をぶらついている。
この周囲というのは、この平坦な白の世界に不意に打ち付けられた小さな白い看板の事を指す。
その白の看板には、“はじめての天使はこの辺から”と書かれている。
これはつまり、現世で亡くなった者はおおよそこの辺りからやって来るので、それを知る為に立てられた看板というわけである。
かく言う私も気付いたらこの辺にいたから間違いない。
時間の感覚は分からないが、時折、新たな天使がここに流れ着いてはサトミさんの餌食になる。
「また新しい人をからかって……。そんなに面白いですか、それ?」
サトミさんは退屈しのぎとして、この世界の事を教える代わりに、こっちに来たばかりの天使の頬をつねったり、からかったりする。
その様子は、さながら地獄の使者を彷彿とさせるが、当の本人は容姿端麗で、基本的には誰にでも礼儀正しく優しい。
あの趣味さえなければ、頼れるお姉さんなのだが、やはりどこか怖いという感情は拭えない。
「この世界に戸惑っている人の最初のリアクションは、皆それぞれで面白いわよ。この世界はどこも平凡だし……。でも、最近だとやっぱり貴方が一番かしらね」