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死後の世界というものの存在を、死んでから初めて知った。
白を基調とした無機質な平面世界。
穏やかで心地よい優しい光がその場所を照らす。
建造物といった凹凸はあまり無く、ひたすら白い世界が続く様は、ここが空に浮かんでいるという事実を除けば南極大陸を想起させる。行ったことはなかったが…。
こっちの世界に来て間もなく、天使というものに遭遇した。羽が生えていることを除けば、案外ただの人間だということに、安堵のような落胆のような、なんとも言えない気持ちになった。
「今しがたお亡くなりになられた方ですね?」
天使は言った。
さきほど天使は、案外普通の人間と表現したが撤回する。口調と仕草に気品すら感じるその天使は、生前に受付嬢でもしていたのかと思うくらい出来が良すぎると思った。
「ここは……?」
夢にしては現実的すぎたこの世界は、夢ではないのだと理解するのにそう時間はかからなかった。
一応、頬をつねってもらったのだが、
「ここでは、五感は余り感じ取れませんよ」
という言葉の通り、期待ほどの痛みを感じなかった。
「ほんとですね……」
「これだとどうですか?」
「イテテ! ……痛い、痛い、痛いっ!」
目の前の天使はクスリと微笑むほか、微動だにしなかった。後に知ったがこの天使はポーカーフェイスで人をいじめる事ができる天才なのだった。
ひと通りその天使のおもちゃにされた後、この世界の事について教えてもらった。
ここは人々が言う所の、天国や天界といった場所だが、特に決まった呼称は無いこと。
地獄もあるが、基本的にこっちの世界と干渉することはないこと。
五感もほぼ無ければ、三大欲求ももはや必要ないこと。
一通り聞いて、私から出た質問は、
「何もする事無いんですね」
「何かする事が欲しいの? おかしな人ね」
と少しだけ笑われた。