第10話 王都ダブリンと樽リュック
街道に出ると左側から荷車と馬がやってくる。
「お、ユニールくん。もう終わったのかい?」
「ええまあ。宝は背中の樽に入れてありますよ。結構収穫ありました。」
「うーん結構あるから半分取るのもな…。街に着いてからの清算でいいかい?」
「それでいいですよ。」
その後、何事もなく進んだ。サーモントバの話で盛り上がったり、宿屋の隣の店や宿屋のおっちゃんと女将について話すなどしているとついにダブリンの街が見えてきた。
「お、ユニールくん。もうそろそろダブリンだよ。あの石壁で囲まれたとこだよ。」
「おお!でっかい街ですね!」
初めて見た大きな町にユニールは興奮していた。彼が見たことあるのは島にある村とウォーターフォードのみなのだ。ダブリンほど大きな町は生まれて初めて。写真など流通していないので見るのは初めて。よっぽど偏屈な人だとしても初めて見た大都市というものには須らく興奮するものなのだ。
「そうだよね。この大都市はこの国の王様が住んでるんだよ。政治の中心地だから人も集まる。すると商人も集まる。人が集まるところには商機が生まれるからね。するとどんどん町も大きくなっていくのさ。だから王都はデカイんだ。これでも世界から見たら小さいみたいだけどね。」
その言葉に驚いた。これほど大きなダブリンでさえ世界のうちではまだ小さい方だと。信じられない、この目で見るまでは。世界を見て回るのがより楽しみになった。
門にたどり着く。何人か列をなしており、最後尾にククリールさんと荷物たちとともに並ぶ。
「次はお前たちか。身分証があれば提示しな。あと商業権利証もだ。」
ククリールさんが権利証を提示する。
「で、こいつは何だ?」
「俺ですか?俺はウォーターフォードから来たトレジャーハンター志望の男ですよ。途中でアゲアゲきのこを食べてしまって苦しんでいるところをククリール氏に救ってもらいましてね、その恩返しとしてここまで護衛してきたんですよ。王都に来たのは初めてなので身分証を持ってないです。」
「そうか、じゃあ5000マルダン貰うぞ。」
ウォーターフォードでつのイノシシを狩りした時のがまだ余っていたのでそれを払っておく。
荷台のチェックに入るのだが、兵士は一人のおっさんが目に入る。
「何だこいつは、違法侵入か?奴隷売買許可証は提示されていないが。」
俺はどう答えればいいかわからなかった。下手に答えたら大変なことになると思ったのでククリールさんが答える。
「こいつは残虐のレプラコーンの頭領の男ですよ。道の途中で襲われたのでこの護衛が拠点まで行ってぶっ潰してとらえてきてくれました。」
「うむ、髪の毛の薄さ、頬に自分でつけた傷、ガタガタで黄ばんでいる歯、こいつは確かに手配書の特徴と一致するな。わかった、報奨金は用意しておく。明日兵士の詰所に来てくれ。よくやってくれた。溜め込んでいた宝は貨幣とトレジャーハンター関係の物以外を提示してくれ。貴族の宝とかあったら面倒なことになるからな。それ以外は法律で決まっているからそれでいいさ。」
「ありがとう。残党とかは残っているだろうからそっちで一掃してください。」
その後、書類に自分の名前や目的を書いたり待たされたりしたが無事終わったようだ。
「手続きは終わりだ。もう入っていいぞ。」
「お疲れ様、続きも頑張ってください。」
「何事もなく入れたな。どこ行くんだ?」
「とりあえずうちの店に行きましょうか。早く倉庫に荷物を詰めたいですし。そこで分けましょうか。」
ククリールさんの店はそれほど大きなものではなかったがしっかりした作りだった。煉瓦造りの落ち着いた赤っぽいものだ。しっかりと掃除されており、店構えが質実剛健と言うククリールさんの人柄を表しているようだ。
「いい店ですね。」
「自慢の店だよ。帰ったよ、ただいま。」
「お帰りなさい頭目。」
中から老人と若い女、それと小さな少年が出てきた。皆真面目そうな人だ。
「うん、ただいま。荷車の荷物を倉庫に、馬は片してブラッシング、餌も与えといてくれ。それといなかった時の店と王都の様子をヌース、報告してくれ。それとこちらはユニールくん。トレジャーハンター志望の男の子だ。歳は……」
「16だ。」
「16らしい。かなり強いし索敵等の腕もいい。すでに持っている鍵も3つと有望だ。今のうちにつながりを持っておきたいから大切な客として接してくれ。」
本人を前にそんなことを言うのか。これもきっと戦略の一つなのだろう。ま、この人は悪い人ではないから付き合いはしていきたいと思うけれどな。
「ユニールくん、事務所で僕と一緒にヌースに今の王都の様子を聞いてから分けようか。君も情報も必要だろう?」
「それはありがたいね。」
二階に上がる階段を登り事務所の応接の間に入る。ソファーがフカフカで気持ちがいい。少女がやってきてお茶を淹れてくれた。
「先ほどご紹介していただきました、番頭のヌースでございます。今王都は少し不安に包まれております。何故かと言うとアリスという女が王の側室に入ったからでございます。」
「アリス、アリス……。どっかで聞いたような。」
「ククリール様、夫殺しと言うワードで思い浮かぶのでは?」
「ああ、夫殺しのアリスか。そんなのが何で側室に?」
「民の間では夫殺しと言う蔑称で呼ばれておりますが、全く今まで証拠が上がっていないので貴族の7割は結婚した夫が新婚生活を送る前に病死してしまう可哀想な女という評価らしいです。」
何だ?そいつらバカなのか?証拠が上がらなくとも何かしら殺す方法はあるだろうに。
「病死にしか見えないようにしている工作のあとすら見えないのですよ。外に出ている間に皆死んでおりますし、接したことのない使用人で周りを固めていても死んでしまう。謎でございます。しかもその女処世術がうまいようでそのバカかと思われる貴族に取り入っているみたいでですね、そのような評価になっているのだと思われるのですよ。」
「何つー女だ。怖いなぁ。そういうのって普通に殺されるもんなのに何で王様の側室なんかに入れたんだ?身分とか大丈夫なのか?」
「元公爵夫人ということで満たしているみたいです。そして王様が籠絡されてしまったのでしょうね。」
「王様がお亡くなりになられるのは秒読みとなったというわけですな。良き王だったのに殺されてしまうのではないかと。まさにアリスは傾国の女となり市民を不安にさせているわけか。」
「そうでございます。」
なるほどね、うーんどうにかしようと思わないけど証拠もなく殺せるっていうのは強いな。もしかしたら宝具を使っているのかもなそこらへんは気になる。
「ユニールくん、とりあえず報酬と薬代の清算をしようか。薬代は137000マルダン。結構レアな薬で即効性があったからね。ちょっと高くなるよ。で、君が拾ったお宝は182万5600マルダン、余裕で払えるね。」
「じゃあそっから137000マルダン分引いてください。」
「で、盗賊からの護衛で137000マルダンの報酬を出すよ。それでチャラだね。」
「え、いいんですか?」
「別にいいさ。優秀なトレジャーハンターは全世界に名前が売れる。それでうちの商会を宣伝してくれればいいさ。」
「わかりましたと、言いたいところなんですけどククリールさんとこの商品の一つも知らないんですよね。」
「じゃあ君にはカバンをあげるよ。軽量樽リュック。背中は体にフィットするようにクッションをくっつけたんだ。樽の大きさだけど使った木は普通のものより薄くて軽い。いろんなものをぶっこめるから君の持っているカバンよりたくさん入るよ。」
樽リュック。宝を運ぶときにやったがククリールさんのところで作っているとは。試しに背負わせてもらうと、背中の形がとてもいいし何より軽い。最高だ、これはいいな。
「これいいっすね。ぜひ使わせてください。でもいいんですか?俺近いうちエァルでるんですよ?」
「うん、うちの商会の銘が彫られているからね。それだけで宣伝になるよ。それに世界進出しようと思っていたからね。ここはそれほど大きくないけど親会社は王都では3番目だ。一部門として海外部を作るって話だったから別に問題ないさ。」
「じゃあありがたく使わせてもらいます。それで、早速トレジャーハンター登録しに行きたいんですけど。」
「そうか、中央街の2番区の酒屋の前にトレジャーハンター協会があるよ。そこで試験受ければなれるよ。頑張ってね。終わったらうちの隣にある宿に泊まりな。知り合い価格で泊めさせてあげるよ。」
「ほんと何から何までありがとうございます。じゃ、行ってきます。」
新たな樽リュックに金と荷物を詰め替え、店を飛び出し外に出る。ようやく、ようやく夢に見たトレジャーハンターになれるのだ。
街をかけて行くユニール。酒屋を見つけ、その反対側を見る。
トレジャーハンター協会だ。
少しボロボロになっている古い造りの建物。ドアは立て付けが悪く力を入れねばあかないようになっている。しかしユニールは全く気にせずドアを開ける。
「ようこそ、トレジャーハンター協会へ。」