その6「よくわかるILT 先進的認知行動療法について」
調剤室に来ている。
「ええと……君達は何をしているんだい」
調剤室で、部屋を今まさにちらかしている白衣の幼女たちに、俺はたずねた。彼女達は答える。
「おくすりをまぜてるの!」
「まぜまぜしたおくすりをつくってるの!」
「…………そう、なのか」
そういうのが精一杯だった。
幼女達はせわしなく歩き回り、壁の薬棚からプラスチックの袋に入った『調剤道具一式』を机に運び、運んだら袋を破いて中からプラスチックのトレーといくつかの小袋を取り出した。プラスチックのトレーには、端の方に三角形の軽量カップ様のものがあり、幼女達はこれを切り離して部屋奥の流しに水を汲みに行く。そしてまた中央の机に戻ってくるわけだが、これが毎度お約束のごとく水をこぼす。これが繰り返されて床が滑りやすくなっているためか盛大に転んでしまう幼女もおり、結果床はさらに滑りやすくなっていく。
無事に机に水を運んだ幼女は次の工程に進む。
一番目の粉をトレーに入れて水を入れる。付属のスプーンでこれをかき混ぜる。粘度の高い乳白色の謎の液体が生まれる。
続いて二番目の粉をトレーにあけるのだが、この粉が……青いのだ……真っ青の粉なのだ。これをねるねるした液体はさらに粘度を増し、色は青白く染まる。
最後の袋をトレーに開ける。これに入っているのはカラフルなラムネ菓子であった。この一連の工程で彼女達のいう『合成された薬』が出来上がる。正直、幼少の頃あれと同じものをスーパーで買ってもらった記憶がある。
あとはスプーンで青白い液体を絡め取り、ラムネにまぶして食べれば作業は終了だ。おい、それは薬なんだろう? なんで薬剤師役のあんたらが食べるんだ?
「あー、もうおじかんだー」
「はたらいたねえ〜」
「ねえ〜!」
全然働いてない、駄菓子を作って食べてただけだろ、そもそもまだ午後三時をまわったところだぞ、いろいろと言いたいことはあったが幼女は風のごとく去ぬ。俺に残されたのは水が散乱した床と、机の上の大量の生ごみであった。
部屋を片付けている途中で割烹着の幼女・クオンがやってきたので、俺はたずねた。
「聞いてもいいか」
「なんでも〜」
「俺が今やっているこれは……何のためにやっていることなんだ? 治療、なのか?」
こくりとクオンが頷いた。
「幼女さんたちに触れて、彼女たちのために行動を続けることによる認知行動療法……専門用語でいうと『In the LOLI Traning (インザロリトレーニング)』通称ILTだね」
最悪な専門用語が飛び出して来た。時代が早すぎる。