その4「We call her...ようじょ」
「なんなんだ……なんなんだ? これは……」
「君が寝ていた三〇年間の間に世界はこれだけ変わった、ということだ」
クオンだけではない。アンドロイドも来ていた。
「少しは納得したか?」
「できるわけがないだろ! 何がどう起きれば、こんなことになるんだ?! さっきからあっちこっちにいる子供はいったいなんだ?! 俺はなんでこんなところにいるんだ?」
「君が今ここにいるのは」
アンドロイドは言った。
「三〇年前君が真冬の川に飛び込み、深い昏睡状態……すなわち植物状態に陥ったからだ。当時の警察の見解では事件性はなく、自殺未遂だったと結論付けられている。違うか?」
絶句する俺に、アンドロイドはなお続ける。
「本来であれば君は再び目覚めることはなかったはず、その君が目覚められたのはひとえに『彼女達』の超越的科学力のおかげだ。何が起きたか、という質問に対してはこういう風に回答できる、この現状は全て『人類と彼女達の出会いに起因する』と」
アンドロイドが水没し廃墟となった街並みを見渡してそう言った。さらに続けた。
「そして『彼女達』とは……そのままの意味だ、君が見ているあの幼い子供達のことさ……彼女らこそ我々に超科学をもたらした地球外生命体、我々は彼女達をこう呼んでいる……『幼女』と」
何言ってるんだお前。
「今からおよそ三〇年前のことだ」
「待て」
「その日、この世界に『幼女』が現れた」
「待ってくれ」
ある日、世界中で生まれた子供が全て女の子になった。事前に男と思われていた赤子も、全てね。化学物質が原因であるとか放射性降下物が原因であるとか、宗教的なことに原因を求めようとする動きもあったがね、とにかく原因はわからないが全員が女の子として生まれた。その次の日もそうだったし、そのまた次の週も次の月も次の年もそうだった。
彼女達は、ほんの数週間というサイクルで五、六歳の見た目にまで成長した。その後もゆっくりと成長はしたが、しかし決して『大人』にはならない。そうでありながら、科学・化学・医療その他の知識は人間のそれをはるかに凌駕し、あり得ない高度な文化水準を生得的に持っていた。
彼女達は人間が持っていないものを持っていたし、人間が生物として当たり前に持っているものを持っていなかったりもした。つまり彼女達は食物摂取を行わず、生殖活動も確認できず……その真似事のようなことはするが、決して必要としていないようだった。睡眠らしき行動は確認されたが、真似事以上の意味は持たないと推測されている。
「つまり私が何を伝えたいか……わかるか?」
「彼女達は……人間ではないことはもちろん……俺たちの知っている『生命体』ですらない……?」
「違う、それだけ幼女はすばらしい、ということだ!」
はあ?
「幼女は素晴らしい! 私のようなアンドロイドとも、人間とも違う完璧な存在だ! かわいく、かわいらしくて、かわいすぎる、つまり3Kだ!」
1Kだろうそれは。
「改めて名乗ろう! 私はLO-426、ロリコン-タイプの医療従事アンドロイドだ!」