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怒/ド/努

「きゃあっ!」


 フローリングの床に打ち付けられて、右半身に鈍い痛みが走る。


「なんで……。なんでさぁっ!」

「うぐっ!」


 襟首を掴まれ、持ち上げられる。

 そして……垂れたあたしの顔に打ち付けられる、大好きな人の拳。あたしの左頬に、不快な熱がこもっていく。


「なんで……なんで……」


 また、同じところ。


「『恋人が悲しんだ時の涙』しか、飲めなくなっちゃったんだよぉ! 私の体はさぁっ!」


 そう、あたしの彼女は、あたしが傷ついて悲しんだ時に流した涙からしか、栄養が摂れなくなった。

 嬉し涙でも、アクビでも駄目。負の感情から生まれた涙を飲むことでしか、彼女は生き長らえることができない。

 初めは、軽くげんこつをするだけだった。だけど、『悲しんだ時の涙』という特性上、泣く度にあたしは悲しまなければならない。故に、慣れてはいけない。


「ぅげほっ!」

「ごめんね。ごめんね。私、こんなこと、本当はしたくないのに……」


 つまり、あたしを泣かせるための暴力は、エスカレートするばかり。今も、足でお腹をぐりぐりされて、目が潤んできた。


「あ、やった。もう少し……」

「喜ばないで!」

「あぁあ痛いよぉっ! えぐっ!」


 倒れ伏すあたしの目から、ついに涙がこぼれた。


「そのままっ! そのまま動かないで! 動いたら蹴るから!」


 すっかりぼろぼろにされたあたしに覆い被さり、彼女はようやく恵まれた食事に手をつけた。


 あたしも、彼女も、二人とも得しない。激情と悲哀に満ちた晩餐は、明日も続く。

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