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ニャー


 トラニャンは、自分が任された仕事について語った。

 モンスターのコロニーを潰して来いといわれた話を、仔細もらさず繰り返した。




「以上です。どこからはじめてよいのかさえ、さっぱり分かりません」


「なるほどね。Aランクの討伐か。いきなり大仕事じゃない。

 それで、何が分からないって?」


「……情けない話ですが、本当に何もかも分かっていないんです。

 まず僕は何をすべきでしょう」


「もう、しっかりしてよ。

 あなたは一人だけの合格者という超大物ルーキーじゃない!」


「すいません。がんばって仕事を覚えます」


「うん、よし。

 まあでもね、初手は正解よ。

 分からなかったら、誰かに相談する。これが基本。

 でも基本はそうだけど、相談する相手を選ぶことがとても重要なの。

 それで結論だけど、この件をわたしに相談したっていうのが大正解!

 これから近寄ってくるやつらは、どこぞの勢力の息がかかってるとみて間違いないわね。

 公平中立に見せかけて、自分たちに有利な判断をさせるよう誘導してくるはずよ」


「ふむふむ、なるほど。参考になります」


「話を戻すわよ。

 こういう時、何をするか。

 それはまず、情報収集よ。

 偵察部隊を出して、詳細な敵戦力を調べさせるの。

 これには惜しげなくお金を使うべきね。

 これだけ予算があるのなら、偵察費用として百万くらい割り当ててもいいわ」


「そんなにですか」


「ええ、そうよ。

 この場合、偵察が一番危険な任務だからね。

 情報の質によっては、そのくらい全然惜しくないわ。

 百五十出してもいいくらい。

 戦う前から勝てるという確証を得られるなら、それくらい安いものなのよ」


「なるほど、確かにそうですね」


「話を進めるわよ。

 無事に情報が集まったら、次は作戦の立案と戦力の確保ね。

 必ず勝てるという必要戦力を算出して、部隊を編成するの。

 それでスケジュールを調整して、作戦実行、そして後始末。

 これがおおよその流れだわ」


「勉強になります! やることが多くて大変な仕事になりそうですね」


「ううん、違うわ。むしろその逆かもしれないの。

 やることがいっぱいあるように見えるけど、実際にできることは多分ほんの少しよ。

 トラニャンは全体を見ながら、適任の人をみつけて彼らに任せればいいの」


「ふむふむ」


「わたしの勘だけど、名だたるパーティは既に事情を察知して動き始めているはずよ」


「ああそういえば、ギルドが冒険者さんたちであふれかえっていました。

 ギルド長の見解では、彼らは大仕事が来る空気を読んだのだということです」


「やっぱりね。

 じゃあ戦力の確保は後回しでいいわ。

 詳細なモンスターの規模が分かれば、後は自分たちで調整してくれるでしょう。

 このあたりの話は、むしろ彼らに任せたほうが安心かもね」


「任せちゃっていいんですか?」


「ええ。それよりも、わたしたちはこの仕事で一番難しいことに力を注ぐべきね。

 それは、報酬の分配方法。

 各個人、あるいはパーティの働きをどう評価して報酬に結びつけるか、これが難しいの。

 危険度、拘束時間、労働強度。色々な評価尺度があるわ。

 事前に取り決めをして全員が納得していたとしても、不満は必ずといっていいほど出てくるでしょうね」


「確かにそうですね、勉強になります!」


「はい。では、解説はひとまずこれで終わり!

 さてトラニャン、最初の仕事よ。

 ギルドに戻って、これまでの目撃情報をもらってきてくれるかな。

 それと周辺の詳細な地図……、あとギルド登録パーティの戦力評価も頼めるかな」


「え? 今からですか?」


「ええ、もちろん。

 こういうことはね、初動が遅れるとその分高くつくの。

 だから『明日から』なんて言っていないで、今日から今からこの瞬間から始めるべき。

 あなたがいつ動き始めたかで、ギルド長さんはあなたの評価を決めるはずよ」


「そうだったんですか。

 自由にして良いと言われ、油断していました」


「それに費用を節約できれば、ボーナスが増えるんでしょう?

 だったら尚更早く行動を開始すべきね。

 早く動いた分、ボーナスが増えるわよ。

 というわけで、今すぐ動きましょう」


「分かりました、ではギルドに向かいます」



 トラニャンが立ち上がる。

 だがタマニャンがそれを引き止める。



「あ、待って。一つお願いがあるの。

 下調べの仕事を、わたしに回してもらえないかしら。

 お金がほしいってのもあるけど、こういう情報収集の仕事、興味があったのよね」


「それはもちろんかまいませんが……。

 ですが大丈夫ですか? 相手はAランクの魔物ですよ?!」


「大丈夫大丈夫、わたしもAランクよ。

 それにわたし、どうやら隠蔽系の才能あるみたいなの。

 もちろん無理はしない。

 無茶もしない。

 あくまで正式な偵察部隊を出す前の下調べ。

 だから心配しないで」


「……分かりました。そういうことならお願いします。

 ではギルドへ行って来ますね。

 タマニャンさんも一緒にどうですか?」


「あ、ごめん。

 わたしはあまりギルドには顔を出したくないの。

 面倒なことになるかもしれないからね。わがままばかり言ってごめんなさい」


「なるほど。そうですね。その方がいいでしょう。

 では情報が手に入ったら、どうしましょうか。

 ここに戻ってくればいいですか?」


「うん。それじゃここで待たせてもらって良いかな?」


「はい。ではひとっ走り行ってきます!」






 ※ この一行は、肉球マークに脳内変換してもらえると助かります。場面変更です。






「おい、トラニャン様が出ていったぞ! どこへ向かってるんだ?」


「ギルドへ戻るみたいですね」


「どういうことだ? 忘れ物か?」


「うーん、分かりません」


「ひょっとしたら、もう動き始めるのかもしれん」


「赴任当日にか? さっきまで日用品の買出しに来ていたのにか?

 ……いや、トラニャン様は切れ者って噂だから、十分ありえるな」


「女のほうは出てきませんね」


「まあいい。俺はここで張り込む。

 お前はリーダーに、このことを報告してこい。

 もしかしたら、忙しくなるかもしれないとな」






 ※ この一行は、肉球マークに脳内変換してもらえると助かります。場面変更です。






 三十分ほどして、トラニャンが戻ってきた。



「早かったわね。それで、どうだった?」


「はい、こちらがその写しになります」




 トラニャンは数枚の書類をタマニャンに手渡す。

 その一番上には、モンスターの情報が記されている。






豚人ピッグピープル 脅威度:ランクA


 単体での脅威度はランクC以下。しかし、その繁殖力から脅威度Aと分類される。

 通常は数匹の群れで行動しており、この状態では警戒心が非常に高い。

 ひとたび安全な場所にコロニーを形成すると、その数は爆発的に増える。

 そしてコロニーの発展とともに、各個体が分岐進化していく。


 労働タイプ、戦士タイプ、騎士タイプ、魔術師タイプ、王タイプ。


 コロニーの発達度合いに応じて分岐も加速する。

 魔術師タイプが出る規模のコロニーは、数組のパーティでも攻略は難しいだろう】






「あちゃー、豚人ピッグピープルか。

 早めに動いて正解だったわ。

 この書類もらっていい?」


「ええ、かまいません」


「じゃあちょっと偵察に行って来るね」


「え? 今からですか?」


「そうよ。こういうのは時間が勝負って言ったでしょ。

 なんのためにトラニャンを急がせたと思うの?」


「……分かりました。僕は次に何をすればいいでしょう」


「んー、今日トラニャンはもう十分働いてくれたわ。

 だから予定通り買い物をすませて、宿で休んでいてね。

 そうそう、宿を教えてもらえるかしら。

 偵察が終わったら報告に行くわ」


「了解です。

 それにしてもタマニャンさん、なんだか楽しそうですね。

 生き生きとしてきましたよ」


「ふふ、分かるかニャー?

 前に言ったかもしれないけれど、情報収集と分析って大好きなのよ。

 特にこういう分かりやすいのはね」




(分かりにくい情報って何だろう。ああ、人の噂ってやつかな?)



 トラニャンはそんなことを考えながら、自分の猫耳を撫でた。






 ※ この一行は、肉球マークに脳内変換してもらえると助かります。場面変更です。






「二人が出てきました。どうやら別行動のようです」


「よし、女の後をつけさせろ。トラニャン様の方は俺たちで様子を探る」


「兄貴、待ってください! あの少女のほうですが、どうやら只者じゃないらしいです」


「どういうことだ?」


「今年の冒険者試験、合格者一名だけって話覚えてます?」


「ああ、それは噂が間違って伝わってきたって話だろ?

 冒険者ではなく、職員試験合格者が一名だけだったっていう……」


「いえ、そうじゃないんです。冒険者試験の方も、一名だけだったんです」


「ん? 何の話だ?」


「最後まで聞いてください。

 冒険者試験の唯一の合格者、その名前がタマニャン。

 これも実は正しい情報でした」


「だから何だというのだ! 結論から話せ!」


「……ですから、そのタマニャンというのが、あの少女なのです。

 既に彼女は、ランクA冒険者として認定されています」


「なんだと? まさか、あんな小娘が……!?」


「既に彼女は、いくつもの通り名を持っているそうです。

 『ダンジョン潰し』、『デビルキラー』、そして『ギールマッシュさんの再来』……」


「『ギールマッシュさんの再来』だと……?! ありえんだろう!?

 いや、それほどの実力者だからこそ、トラニャン様が親しくされているのかもしれん」



 そこへ別の男が話に割り込んできた。



「なるほど、そういうことか。確実に理解した」



 この男、どうやら『確実』が口癖らしい。



「何がどういうことなんだ?」


「お前ら、支度金のことは覚えているか?」


「ああ、冒険者になった時もらえたやつだろう?」


「そうだ。あれは受験料の一部を集めて、合格者に確実に分配される仕組みになっている。

 そして知っての通り、支度金の使途はスキルや装備品の購入に限定される」


「何が言いたいんですか?」


「まだ分からんのか?

 例年だと、毎年数十人の合格者が出る。

 しかし合格者が一人の場合、その支度金は全額一人の冒険者に確実に渡される」


「うん? それって……」


「ああ、本来数十人で分配するはずの支度金を独り占めってことだ。

 強力なスキルや武具が取り放題になる。

 彼女が、いや、タマニャン嬢が、すでにそれだけの通り名を持っているのも、それならば納得がいく。

 ほかの受験者を蹴散らして、一人だけで合格を勝ち取れるほどの実力。

 さらにそこへ、常人の数十倍分のスキルが宿るのだ。

 それを想像してみろ!

 冒険者になって日は浅いかもしれんが、実力は確実に俺たちよりも上だ。

 見た目で判断すると、確実に痛い目にあうぞ」


「確かに……」


「うむ……」


「ちなみに彼女は、試験合格以後一番稼げる土地を探してあちこち渡り歩いているそうです。

 それで大方の見解では、おそらくこの地に留まるのではないかと……」


「その見解は、確実に間違ってるな。

 トラニャン様の赴任地が決まるまでの間、見聞を広めるために各地を行脚していたと見るべきだ。

 あの二人、確実に裏でつながってるぞ」


「なるほど、その方が説得力ありますね。おそらくそれが正解でしょう」


「うむ。

 では、ひとまずあのタマニャン嬢の行方を探れ。

 相手はAランク、応援を要請しろ。気を抜くなよ」


「ハッ、ではそのように!」




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