ホームレス娘との生活の始まり。2
女の子は大きく息を吸い込むと、意を決したように事情を語った。
「私、親から逃げてきたの……」
と言うと、それまで羽織っていたジャージを脱ぎ、両腕のアザ、傷の痕を見せてきた。
厳しく、の概念を履き違えていた。
親が子供に厳しくする、というのは '躾' のそれでもあるが、同時に '虐待' のそれでもあることを、一分前の自分は思いつくことができなかった。
女の子の話に、そしてその姿に言葉を失ってしまった。
この場合、語彙力うんぬんの問題ではなく、こういう場面に直面したのが生まれて初めてだったので、どのような言葉を投げかければいいのかが、わからなかった。
しばらくの沈黙の後に、女の子が話を続ける。
「ずっと一人で……適当に……ふらふらと……ここまで歩いて来たの……」
ここが家からどれくらい離れてるかわからないけど、と女の子は続けた。
「そ……か……」
虐待されていて、そこから逃げ出してきた女の子にどう対応するのが正解なのだろうか。やはり警察に……でもそれでは親の元に帰されてしまって根本的な解決にはならない。
「……じゃあ……しばらくうちに泊まる?」
考え抜いた末、導かれた最良の結論がそれだった。うちに居ればとりあえずホームレスではなくなるし、ご飯も、風呂もうちで済ませばいい。もしも、このことが公になれば自分は少女誘拐犯、として捕まる危険もあるが……。
でも、自分の中では、自分の事よりまずこの子の身の安全を確保することが優先された。
「……なんで……私なんかに……優しく……」
突然の言葉に驚いたのか、一瞬こちらを見て、すぐまたに俯き、自分を卑下する。
「優しさとか……そんなんじゃないよ。ただのおせっかい。君を放っておけないんだ」
そう言うと、女の子は涙を浮かべた。
ありがとう、ありがとうと涙を拭きながらくり返す。
自分の中の無駄な正義感が、この子を守ると決意させた瞬間だった。