ホームレス娘との生活の始まり。
003
少女は自らをホームレスだと自己紹介した。
その年齢でホームレス? 親はなにしている?
ご飯はどうしていた? 風呂は?
様々な疑問が浮かんだ。
こういう時はどうするべきだろうか、本来ならば警察に保護を要請するべきだろうか。
しかし、この女の子を放っておくことは……。
自分にはできなかった。
ーーー
勢いで家につれこんでしまったけど、これって普通に誘拐になるんじゃないのか?
明日のニュースのトップを飾るなんてことにも……。
いや、考えるのはやめておこう。
「腹、減ってる?」
女の子に尋ねる。少しの沈黙の後に、首を縦に降った。
「ん。じゃあ買ってくるから待っててよ、その間に風呂貸してあげるから入りな」
居間にある押入れには自分と、そして姉が着れなくなった洋服がしまってある。その中から女の子が着れそうなサイズ感の服を引っ張りだし、バスタオルと共に女の子に差し出した。
「姉のおさがりだけど……、嫌じゃなかったらこれ着ていいよ、風呂はそっちの扉ね」
こくりと頷き、風呂の扉の方へよろよろと歩いていった。
再び、財布と鍵、携帯を持ち、玄関の扉を開け、今度こそコンビニへ向かった。
ーーー
やかんから甲高い音が鳴り響く。
深夜に腹を満たす物といえば、カップラーメンくらいしか思い浮かばなかった。
昼間にも'それ'を食べた女の子には悪いが、他の味を買ってきたので許して欲しい。
コンビニから帰ってきた時、女の子は先ほど貸した姉のTシャツの上に、もともと着ていたジャージを羽織り、居間のテーブルの前にポツンと座り、涙を浮かべていた。
焦って、どうしたの? と、聞くと、なんでもない、と言い、涙を拭っていた。
余程の事情があるのか、それとも見ず知らずの男に家に連れ込まれた恐怖か……。前者だと信じたい。が、限りなく後者の可能性が高い……。夜が開けたら親御さんの元へ帰してあげよう……。
「ほら、食べな」
三分たった頃を見計らい、カップラーメンを台所からテーブルに移し、女の子へ差し出した。
自分はさっき食べられなかったシーフードヌードルが無性に食べたくなったのでそれを買い、女の子の分はしょうゆヌードルを買ってきた。これも自分の中のオススメ商品だ。
女の子は昼間と同様に、勢いよく麺をすすり、あっという間に完食した。やはりあれからなにも食べていなかったのだろう。
程なくして自分もシーフードヌードルを食べ終わり、女の子に事情を聞くことにした。
「えと、話を聞いてもいい?」
女の子は俯いてしまった。
「なんで……。」
か細い声が聞こえてくる。
「なんで……私にそんな優しくしてくれるの……」
「なんでって……女の子がそんな状況で……放っておけない……と思ったからかな」
優しく、と女の子は言ったが、自分は優しくしたつもりはない……ただのおせっかい焼きだ……と、自分の中では思っていた。が、それは女の子にとってはそういうものだったのだろう。
この程度で優しくされた、と認識するなんて、この子はこれまでどれだけ厳しく躾られていたのだろう……と考えていたが、女の子からの言葉は自分が思っていたより、はるかに深刻な状況だった。