ホームレス娘との出会い。
001
七月の終わり、耳をつんざくほどにうるさく鳴り響くセミの声に遮られて先生の声はろくに聞こえはしない。
こんな日に授業をしても無駄だろう、そんな思いに馳せつつもノートはしっかり取る、という惰性に流された日々。
高3になり、受験前の最後の息抜きである夏休みも目前に控え、クラスは集中力のない生徒で溢れている。
寝ている者、ずっと携帯をいじってる者、女子の中には化粧をしている者もいる。家でしてこい。
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音がセミの声を、そして先生の声を遮るように鳴り響く。
「おお、終了か、明日から夏休みだけどハメ外して変なことすんなよー、警察から電話かかって来るのは勘弁な」
教壇に立つ先生が何か言っているが聞いているものは半数もいないだろう。我先にと帰りの支度をしている。
俺も特にこのあと用事がある訳では無いが、こんなサウナみたいな教室とは一刻も早くおさらばしたいので帰る支度を始める。外も暑いことには変わらないが。人で溢れかえっていて熱気ムンムンなここよりは幾分マシだろう。
「よー、えーちゃん、帰るの?」
後ろの席の清田が身を乗り出してきた、やめろ暑苦しい。
「帰るわ、暑いし」
「いっしょにかえろー」
ただでさえ暑いのに暑苦しい奴と帰るとなるとさらに暑い。というかまず家の方向が違うので一緒に帰るとしても校門までなのだが、この馬鹿は三年間一緒にいてまだ気付かないらしい。
「まあそこまでな」
と言って席を立ち、清田を先導するよう教室を後にする。
「じゃ、また明日ー」
校門に着くやいなや、この清田とは別れを遂げなくてはいけないのは大変心が痛い。しかも明日から夏休みということに気付いてないことを指摘する前に走って帰ってしまったのでさらに心の痛さが増した。
「…帰るか」
さて、どうしたものか、この日は午前授業だったので、まだ昼飯は食べていない。清田を誘うべきだったか、そうしていれば多少なりとも心の痛みは軽減されていただろう。若干の後悔を胸にしつつ家路につく。
「ありがとうございましたー!」
結局ご飯はコンビニで買って帰ることにした。学校から家までは徒歩五分程度なのだが、この暑さで足取りが重くなり、いつもより遠く感じる。
ようやく家の目の前にある公園までついた。
この公園の中を通り、多少のショートカットを図る。公園と言っても空き地に土管が数本があるだけで、特に遊具などなく、さらには端の方には不法投棄された家具家電が積み重なってる文字通りの空いてる地、空き地なので、そこで遊んでいる子供など見た事がない。
ようやく家につく! エアコン十八度設定だ! と、目の前に見えた楽園に向け、重かった足取りも自然と軽くなった。
と、そんな中、チラッと横目で公園の土管の中に何か動く物が見えた。
猫か何かいるのか? と、軽い気持ちで中を覗いて見ると。
一人の女の子が寝そべっていた。