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[02.森の中で(Part2)]

まだ続きます。

続けてみせます。

 あちこちで悲鳴混じりの喧騒が湧き上がる。

「―――くッ」

 肩を掠め剣身を尻目にリリィは、左足を大きく踏み出して片手で持った細剣(レイピア)を突きだした。

「―――!!」

 それは襲いかかって来た盗賊の眉間を穿ち、引き抜くと同時に後ろから迫るもう一人を流れるように斬りつける。

 宙を舞う腕。苦痛による痛みか絶叫する盗賊の一人を、リリィは容赦なく首を刎ねた。

 『斬れ味』を強化する魔法を付加した細剣だからできること。だが、

(斬れ味が、鈍くなってる―――)

 すでに五人の命を奪っている自分の剣。そのことにリリィは何かしら思うことはない。騎士になるのなら、必然的他人の命を奪うのは当たり前だから、その心構えはできている。

 だが、人を斬り成れてないゆえに付着した血脂が、剣の輝きを鈍らせていた。

 はっきりいって、この損耗はかなりきつい。自分の未熟さが招いたこととはいえ、リリィは強く歯噛みしる。

 現在、盗賊団の襲撃にあっている彼女の騎士団と、滞在している集落。

そもそもリリィ達騎士団は、街道に出没するある盗賊達の駆逐という任務をこなすため、一時的にこの村に滞在していただけだった。

 だが、盗賊団に奇襲をしかけるハズが、逆に滞在している村に奇襲を掛けられる始末。

 住民の避難すらままならず、奇襲という状態で襲われた現状は最悪に近い。村民は抵抗することもままならず蹂躙され、騎士団すら反撃が難しい事態。

 集団でのまとまった戦闘ならまだしも、こうも仲間とはぐれての戦いではリリィは不安が残った。別に騎士団の面々を信用していないわけではないが、住民の被害は免れない。

 訓練している騎士とは違って、彼らは戦闘経験など田畑を荒らすモンスター程度だ。手練れの盗賊とは訳が違う。

 盗賊の死体と一緒に、地面に横たわる男性の遺体。質素な服装は、彼がこの村の住民であったことをうかがわせる。

 その亡骸も、弄ばれたかのような傷跡が絶えない。そのことにリリィは悲痛な面持ちでそれを見つめ、唇を噛みしめながら走り出した。

 ―――立ち止まってられない。

 彼の死を労らないわけではないが、彼女はそれよりもまず助かる命を優先とした。

 未だに絶えない叫び声を聞きながら、リリィは駆ける。

 その途中にも、殺された村民の遺体がいくつも転がっていた。

「はなしてっ! はなしてよっ!!」

「大人しくしろ、このガキ!」

 幼い子どもの悲鳴に、リリィはハッとして立ち止まる。

 声のした方へと振り返ると―――そこには盗賊と思われる男が、幼い女の子を取り押さえていた。

「イヒヒ、マァ、今からたっぷり泣き叫んでももらうがなァ」

 歪んだ笑みを浮かべる盗賊。少女の顔つきは完全に恐怖に染まる。

「いやっ―――」

「安心しな、すぐには殺さねぇか―――」

「待ちなさい!!」

 盗賊の言葉を遮り、リリィが叫ぶ。

 その声に盗賊が振り返り、彼はリリィの存在に気づいた。

「その子どもを離しなさい、賊」

 冷め切った威圧するような声で、警告する。

 それに対し、盗賊の男は嫌な笑みを浮かべた。

「おーおー、今頃騎士様のご登場か、ちょっとは遅すぎやしねぇか?」

「……二度はないから。その子を離しなさい」

「へ、嫌だね。―――おっと、近づくなよ。子どもを殺されたくなかったら―――だぁ!?」

 刹那、少女が盗賊の手に噛みついた。

「何しやがる! このガキッ!!」

「あぅっ!!」

 憤怒した盗賊は、少女を乱暴に民家の壁へと打ち付ける。

 そのまま怒り狂った表情で、怒鳴り散らす盗賊の男。

「ふざけやがって。そんなに死に急ぎたいなら、今すぐ殺してやるよ!!」

「ひっ、あ―――」

「待っ―――!!」

 歪な笑みで少女に、短剣を振りかぶる盗賊。

 間に合わない。そう頭ではわかっていても、駆け出さずにはいられないかった。

 一歩一歩が遠く、そして遅い。

「――――――あばよ」

 盗賊は歪な笑みを浮かべ、振り上げた手を振り下ろした。

 伸ばした手は届かない。


 ―――助けられない。


「はい、ダウト」

 背後から響いた声。

 瞬間、リリィは自分の顔のすぐ傍を何か通り過ぎたのを感じた。

 刹那―――それは、そのまま少女を襲う盗賊の胸を貫ぬいていた。

「は……ぇ……?」

 理解できないとでも顔つきで、胸に突き刺さる()を見下ろす盗賊。

 そして彼は、そのままゆっくりと仰向け様に倒れた。

 リリィ自身も信じられない光景だった。思わず彼女は放心してしまう。だが、背後からの踏み出す足音で正気に戻り、とっさに後ろに振り返った。

 そこにいたのは、長い黒髪をなびかせる少年。背はリリィより少し低めだが、その顔つきはどことなく年相当より大人びている。そして、彼は不思議に楽しそうな表情を浮かべていた。

 そしてその少年は、リリィに声を掛けることもなくその脇を通り過ぎる。盗賊に突き刺さった剣を手慣れた様子で引き抜くと、鮮やかな動作で鞘に収めた。

 そして彼は肩越しに振り返り、リリィを視界の傍目に収めると、一声投げ掛ける。

「……あー、そこの人」

「え、あ―――ぼ、僕かっ!?」

「この子のこと、まかせていい?」

 そういってポンッと捉えられていた少女頭を軽く乗せる。不思議と安堵する笑みを少女に向ける。

「え、あ―――はい!!」

「そっか……」

 呟き、少女の頭をわしゃわしゃとなで回す。

 そして彼は軽く手を上げると……。

「じゃ」

 そのまま二人を置いて走り出してしまった。

「え―――ちょ、ま、まって!!」

 二人を置いて走り去っていく少年。リリィもその後を追うため駆け出すが、少年の走り去る姿を見て、呆けている少女を視界の隅に捉えて足を止める。

「……ちょっと、ごめんね」

「―――ひゃっ」

 一瞬迷った後、不安げな少女を少荒っぽく抱きかかえると、リリィはその少年の後を追った。

燃えたぜぃ……燃え尽きたぜぃ………。

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