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[05.首都の街(Part3)]

 あの後、さっそくその身一つで迷宮に挑もうとする俺をリリィが半強制的に止め、成り行きで街の散策に付き合うことになった。

 本人は、警邏(パトロール)がてらの案内と言っているが、俺としては案内のおまけに見回っているようにしか見えない。

 ―――正直、街の地理にそれほど詳しくないので助かったけど。

 そんな楽しい時間はあっと言う間に過ぎゆくもので、気がつけば真っ赤な地平線が夜の闇に追いやられていた。

 そしてここは(しゅと)。村とは打って変わり、日が暮れても明かりが絶えない。

 夜の明かりは火ではなく、ランプの明かりのように淡い明かりを灯す不思議な鉱石。それが水に浸かると、発光して辺りを照らす。中々幻想的な光景と言えよう。

 脇道には小さな水路が走り、澄んだ水が暖かな光を受けてこれまた一興に景色を彩った。そんな喧騒の中、俺たち二人はなるべく寄り添って歩く。

「おっ、あれうまそう」

 行き交う人を眺めながらも、俺の目は出回る露店に奪われてた。

「君………それだけ食べてまだ食べるんだ」

 呆れ果てた様子のリリィを尻目に、俺は目をつけた露店へ一直線。

 二本分のお金を支払い、それを手にして彼女のもとに帰ると、一口囓りながら俺はもう一本のほうを差し出した。

「たべる? なんだかよくわからない奴だけど?」

「……それはチョルチェだよ。この国の割と大衆的(ポピュラー)なお菓子。子どもの頃よく食べた」

 呆れながらも懐かしむリリィは、俺の差し出した一本を受け取ると、ほんの少し囓りつく。

 チョルチェと言われた菓子は、見た感じ揚げたパンを細長くしたような代物だ。シンプルに『揚げた』だけのものだが、漂う(かぐわ)しい香りに思わず喉が唸るほど食欲をそそるお菓子だ。一口食べた感じ、ラスクのようにカリッとして癖になる味をしている。

「うん、おいし。あの露店はけっこう揚げ方がうまいね」

「そうなのか?」

 カリカリした感触を楽しみながら二人横並びに夜の街を進む。

 そんなことをしてしばらく経った頃、リリィが俺を見やると口を開いた。

「……ねぇ、これからどうする?」

「今の所、街をぶらぶらしつつ買い食いすることしか思いつかないけど?」

「そっか―――じゃあ、ちょっと付き合ってよ」

 橙色の明かりに照らされ、思わず胸が高鳴ってしまうような笑顔を向けられた。

 

 リリィに連れられ、俺は人通りの少ない薄暗い路地裏を進んでいた。

 聞こえるのは二人だけの足音。月だけが俺たちを見ているそんな状態。

「……一体どこに行くつもりだ?」

 言いながら、俺は別の露店で再び買ったチョルチェを囓る。

「それはついてからのお楽しみ」

 意地悪く言い、ひたすら暗闇を突き進む。

 そして、この辺りで一番高いと思われる建物の前―――いかにも立ち入り禁止の看板や封鎖をうかがわせる縄が入り口に張り巡らされている。

 だというのに、リリィはそこに平然と立ち入っていく。

「………入っていいのか?」

「ほんとはダメなんだけどね。今回はちょっと特別」

 優しく微笑むリリィはそのまま建物の奥へと突き進む。俺もその後に続き、辺りを見渡しながら瓦礫の散乱する廃墟を歩いた。

 奥に進むほど月明かりが届かなくなり、真っ暗闇へと移ろいゆく。そんな何も見えない状態の中、彼女に連れられるがまま進む。

 そして、幾つかの角を曲がった所で、夜の光が差し込んだ。

「……階段?」

 幻想的な光景だった。おそらく天井が崩れ、月夜の光が差し込んでいる。いくつもの瓦礫が辺りに転がっている中、古びた螺旋階段が月明かりに晒されて、まるで一枚の絵のような光景を作り上げる。冷たくもないのにひんやりとした光景に、俺は見とれていた。

 だが、目的地はそこではないらしく、リリィはその絵の中に突き進んで行ってしまう。

 俺もその後に続くが、途中でその足が止まった。


 ―――月明かりに銀髪が照らされ、まるで煌めく清流のように光をなびく。


 静かな世界―――青い色彩(はいけい)が螺旋階段の手すりに手をかける少女と重なり合う。瞬間―――今まさに絵画が完成したかのように、俺は思わずその姿に見入ってしまった。

 思考が停止し、ただただその姿を食い入るように見つめた。

「………ヤクモ?」

「―――あ、ぁあ悪い、呆けてた」

「……? まぁいいけど、もう少しだから」

 そう言ってにこやかに微笑んだ彼女は、思わずため息が零してしまうほど美しかった。

 ……よくよく考えてみれば、彼女がかなりの美少女であることを再確認させられる。華奢な肩に線の細い輪郭、きめ細かい色白の肌に細長く折れてしまいそうな繊細な指。運動によって引き締まった体躯は、純白な儀礼服の上からでもその存在を強く象徴する。

 改めて考えてみると、これは逢い引き(デート)なのではと、そんな言葉を脳裏によぎらせる。

 が、俺はすぐにその考えを打ち消した。意味合い的にはそうかもしれないが、内容はまったく違う。どちらかといえば友達感覚……。

 それにリリィ(かのじょ)のことだから、どちらかというと職業柄で、というほうがしっくりくる。そう考えると相手は善意でやってるのだし、邪な考えは失礼だろうとその結論に至った。

 階段を上っていく音だけが単調に響く。何階まであるんだとそろそろ嫌気が差してきたところで、味のある―――扉のようなものが見えてきた。

「ここか?」

「うん、そう。―――さて、ヤクモ君……心の準備は大丈夫?」

 古びたドアノブに手を駆け、俺に振り返るリリィ。そんな彼女に俺は気軽に答えた。

「いつでもどーぞ」

「じゃあ、行くよ」

 ドアノブが軋んだ音を出しながら回り、扉が開かれた。

 瞬間、そよ風が俺たちに吹き付ける。

 そして扉の先―――広がった光景に俺は目を奪われた。

 橙色の明かりが点々と暗闇の中に存在する。まるで人の営みを見ているようで、さっきの光景とは打って変わり暖かな印象があった。

「おぉ……すごいなこれ」

「でしょ? 僕のお気に入りの場所なんだ」

 高所ゆえに風に吹かれながら、二人横並びにその光景を眺めた。

 点在する一つ一つの光。それに照らされ、天にそびえる摩天楼の姿があった。

「……あれって」

「やっぱり気になった? あれが、この都市の迷宮」

 それは『塔』というより『柱』と呼ぶべき代物だった。

 街の中央にそびえ、幾何学的に織り成すブロックをいくつにも重ねようなそれは、アンバランスに見えながら、最も効率的に積み重ねたように思える。鈍く鋼色に輝くその姿形から、この文明とは根本的に違う―――もっと超越した技術で作られた場違いな人工物(オーパーツ)

 それが首都の真ん中で、星浮かぶ夜空に突き刺さるようにそびえ立つ。

「そっか―――あれが」

 その後はただ沈黙だけが支配した。二人して目の前の絶景に浸る(ひたる)

 真っ暗闇の世界の中に、ポツンと出来た明るい世界。行き交い、賑わう人々が見え、橙色の明かりが街を、そして『塔』を照らした。

 そんな光景に二人して静かに眺めている。

「なぁ、リリィ。……ちょっといいか?」

「……ん? 何、ヤクモ」

 こちらに振り返る彼女。

 そんな顔を見ながら、俺ははっきりと言った。


「奴隷って、どこで買える?」

誤解を招きそうなラスト……。

主人公はけして善人ではないけど、悪人でもないという曖昧な立場。今後の展開で変わる予定。

くどい書き方をどうにか出来ないか検討中です………。

ドグマ中毒を発症中。


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