[03.襲撃の後(Part4)]
宿に戻った俺たちは、とりあえず食事にしようという話になった。
「とりあえず、僕は着替えてくるから、ちょっと待ってて」
「りょーかい」
パタンっと閉まる木製の扉。リリィを見送った後、俺はすぐ傍の壁に寄りかかって、彼が出てくるのをおとなしく待った。
「………」
何もすることもなく虚空を眺め、暇を持て余していた俺の頭にふと思い浮かんだあること。
(そういえば、武器の件はどうなったんだろ……)
できれば早めにも欲しいのが俺の本心。この際、ナマクラでも、錆び付いた代物でもいいから。
先ほど剣舞を見ていたせいか、無性に武器を握りたい衝動が俺の中を駆け抜ける。
さすがに今すぐには不味いかなと自分でも頭の中では思いつつも、うずうずとした衝動に絶えきれなくなった俺は、扉のドアノブに手を駆けてようとしてふと止まる。
「別にいいよな、男同士だし」
そんな気軽な考えで俺は、ドアノブを回した。
「リリィ、ちょっと聞きたいことが―――」
そこで、俺の言葉はピタリと止まった。
客間と思われる一室。質がいいとは言えないが、光を室内に取り入れるガラスが贅沢に使われている。レースのカーテンで閉められているとはいえ、俺がいつも感じている自室と大差の無い光量が室内に充満していた。
この部屋に一つだけのベットの上に、脱いだ上着がたたまれて置かれ、それを行なった者がいかに几帳面かを物語る。
そんな部屋の中で、佇む一人の人物。着替え中なのかズボンを脱いだ所で、手が止まっていた。
後ろに団子状にしてあった髪はほどけ、朝日に髪が煌めいた。可憐な顔立ちに、つぶらな目がめいっぱい開かれ、その深くも青い瞳が俺をはっきりと捉えていた。
男とは思えないほど、華奢な肩。身体全体に滑らかで細い線を描き、色白の肌がはっきりと目に焼き付く。
―――そして、魅力的な女性が履くような下着と、小さくも確かな膨らみがある胸もとに目が行った。
「「…………」」
見つめ合ったまま、沈黙が落ちる。
「…………………………失礼、しました……」
思考停止しいたまま、俺はゆっくりと開けた扉を閉めた。
「………」
パタンと、閉まる扉。再び薄暗くなる廊下。
すぐ傍の壁にもたれつつ、ずるずると腰が床に落ちていく。
……何あれ―――?
脳裏に浮かび上がる言葉の数々。胸の動悸が早まり、頭の中が混乱した。
―――リリィは、男で、いや女、いやでも……あれ……あれれ……?
訳がわからなかった。理解できない、なんでリリィが女であるのか。俺は確かに彼―――いや、彼女を男と認識していた。それに誤りは無いはず。
意味が分からず、俺は思わず頭を抱え込んだ。
自分の認識は間違いない。リリィを男だと認識していたのは確かであり、俺は今さっきまで彼女をまったく女とは思えなかった。だが、あの姿を見た後は、なぜか過去の彼女があまりにも不自然であることに気づく。いや、気づかない方がおかしい。
だって、彼女はどう見ても男装した女の子だ。そのことになぜ俺は気がつかなかった。
―――そんな時、扉が開いた。
「………」
キィ―――と、音を響かせ、部屋から出てくるリリィ。顔は伏せているため、顔色を覗えない。
その顔は何かを探すように左右に彷徨うと、陰りのある顔が俺をしっかりと見定めた。
かなり気まずかった。彼女の顔を見るのもためらわれる。だけど、俺は男として、平静であることに努めるべきと考えた。
「や、やぁ―――」
口を開きかけて、頬に何かがかすめる。
タリ―――と頬を伝う血。身体がまるで錆びつくように硬直する。
目線だけ静かに動かし確認すると、すぐ横の壁に細剣が突き立てられていた。
―――抜いた瞬間が全く見えなかった。
「……見たよね?」
「み、見ちゃいましたね……」
ぼそり、と呟かれた言葉に、言い淀みながらも応え返す。なぜか、頭の中の警鐘がしきりに鳴って、俺に逃げろと言っている。
だけど、どう見ても目の前の彼女からは逃げられそうにないと、悲しい本能がそう告げていた。
「そっか―――」
陰りのある微笑みを向けられ、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
「―――覚悟は……できてるよね?」
「知らなかったんです、てっきり男性だと思っていたんです。女性だなんて気がつかなかったんだ! けして本意に覗いたわけじゃなくて、事故だッ!!」
冷めた目が俺を見下ろした。
あれですね、犯罪者を見る目ですね。
実際、混乱しまくっていたんだと思う。凍えた瞳で見つめられ、俺の動揺っぷりは肉食動物に補食される寸前の子鹿のような状態だった。
え、『最強』? そんな二つ名が、今この状況でどうやって活用できるのか俺が知りたい。
女性の着替えを覗き見ることは、俺の頭の中では『極刑』という二文字の罪状が思い浮かんだ。はて、これはどういった意味だろうか……。
「「…………」」
それから、どれくらい見つめ合ったか分からない。一瞬だったかも知れないが、俺には一時間よりも長く感じた。
とにかく、俺は生きた心地が全くしなかった。忍び寄る死より残酷な恐怖に、ただ震えるしかない。
―――大きく息を吐く音が人気の無い廊下に響いた。
「もういい」
壁に突き刺さっていた剣がゆっくりと抜かれて、瞬間、俺はほっと胸を撫で下ろす―――が。
「―――けど、二度目はないから」
「……存じております」
釘を刺すように忠告を言い渡され、俺は声を張り上げて返事を返した。
「お願いだから、誰にも言わないでね。でないと………」
「言わないよ。お前に男装趣味があるなんて」
「…………別に、趣味じゃないけど」
「……うぇ………?」
俺からしおらしく顔を背けるリリィさん。
「じゃぁ………」
「君ならもうわかってるかも知れないけど、これは―――」
「性癖?」
「―――とりあえず、その口から塞ごうかな」
「なんでッ!?」
鞘に戻されつつあった細剣が、再び鞘から抜かれようとした。
「……はぁ、とりあえず冗談は置いといて……」
「冗談に思え―――いえ、なんでもないです」
再び鞘から細剣が抜かれる所を見て、俺は考えを思い直すことにした。
「とにかく、詳しくは教えられないけど、僕はこういう格好をしないといけないの」
「それはわかったけど……その姿はどうやってるんだ?」
不思議でしかたがない。
だって、今の彼女は|どう見ても男としか認識できないのだから《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
女であったことはすでに認識しているのに、彼女のことを彼と、自分の意識とは別に勝手に理解してしまうのだ。
「どういうトリックだよ、ソレ」
「ほんとは、結構重大な秘密なんだけど、君ならいいか……」
そう言って、リリィは頭につけてい羽のような髪留めを外した。
瞬間、彼が彼女に戻った。
「……ぉおう」
俺は思わず目を見開く。
なるほど、そういうものがあるのか。さすが幻想世界。なんでもありだな、ほんと。
「隠蔽魔法を付与した魔導具よ」
差し出された羽根飾りは、彼女の銀髪に似合う簡素でありながら美しい代物。それだけで、それがどれほど高価なものなのかをうかがわせる一品だ。
受け取った羽根飾りをまじまじと見つめながら俺は、リリィに質問を返した。
「なぁ、リリィ。これに似たようなやつはどっかで買えないか?」
「無理よ。隠蔽魔法は犯罪に利用されやすいから、そういう技術は特に管理が厳しい。持てるとしても、ごく一部の重要人物か……」
そこで言葉を切る彼女。
その一泊を突いて、俺は台詞を返した。
「―――訳ありってことか?」
「そういうこと。表では諜報機関でも使われてるらしいけど、それ以外はよほど黒い所に行かないと手に入らないよ」
何か含むように言うリリィ。
「そっか……面倒ごとは嫌だし、諦めたほうが無難かな」
「そうしたほうがいいね。それに、隠蔽魔法もそれほど便利って訳じゃないよ? 変えられる姿は限定されるし。僕の場合は、それが性別が転換するだけ」
「なるほどね。魔法っていっても色々制約があるのな……」
と言いつつ、試しに自分の髪につけてみる俺。
「………どう?」
「とりあえず、僕への当てつけかといいたくなる」
俺の胸の辺りを見下ろしながら、リリィは不機嫌そうに言い放った。自分で見たところ、胸も体格も、特に変化している様子はないんだけど、相手からしたら俺が別の姿に見えるらしい。
どういった姿になっているのか、俺としては大変興味あるが、機嫌が悪そうな彼女にそれを聞くことは躊躇わられた。
しかたなく俺は、素直にその髪飾りを彼女へ返す。
「そういえば、この秘密って、けっこうやう゛ぁい?」
「言いふらしたら、まず間違いなく君の首が胴体とお別れだよ?」
「………おいおい、そんな物騒な秘密教えるなよ」
「しかたないでしょ。君が、勝手に覗き見たのだから。自業自得だよ」
「……なんか、面倒なものに首突っ込んじゃったなぁ~………」
ガシガシと髪をいじりながら、俺は半ば諦めたように呟いた。
「くれぐれもうっかり口を滑らせないでね、ヤクモ?」
俺の顔に急接近すると、悪戯っぽく微笑みながら彼女は勧告した。
ヒロイン?の設定を変えたヲ。
【びふぉー】プラチナブラウンヘア&琥珀色の瞳→【あふたぁー】銀髪青瞳。
今だ手探り状態が否めない………。改めて『編集』してみたら誤字とかひどい……。
キャラも生きてないし(まるで人形だよ………)
このぐだぐだ展開をどうにかスマートにまとめたいところ。
起承転結のまだ『起』の部分だしね。……………………ほんと、はやく面白い展開にしたい~。
【追伸】
やっぱ一週間更新は無理があった。
正直、よく練ってから投稿したいので、こらから一週間ごとに投稿しません。(一週間投稿せず、次の週に投稿/実質二週間かかるということ)
ストック溜めるわけじゃないけど、自分が色々納得できないので。
読んでくれる方々には迷惑をかけます………。




